【現実主義勇者の王国再建記将検曄,匹爾Υ檗薪澆罎 オーバーラップ文庫

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九頭龍諸島を脅かす巨大不明生物を討伐したソーマ。
王国民はソーマの活躍を大いに称えるが、世界はさらなる快挙に沸いていた。
魔王領、一部奪還――東方諸国連合の小国・マルムキタン王フウガが挙げた大戦果である。
東方諸国連合内で急速に勢力を拡大していくフウガ。
これに危機感を抱いた反フウガ派による“フウガ暗殺未遂事件"を発端として、東方諸国連合は各国入り乱れての大規模な戦に突入し……!?
――この争乱の果てに、世界は新たなステージへ移行する。
革新的な異世界内政ファンタジー、第14巻!

さすがに主人公サイドじゃないだけに、フウガの躍進を何巻もかけてはやらないか。
というわけで、この1巻で一気にフウガが東方諸国を統一することに。本来なら小国が乱立していて利害関係も複雑に入り組んでいるだろう地域の統一は時間が掛かるものなんですけどね。さらに、チマ公のように係累を各国に送り込んだり婚姻政策も各国同士で結ばれているだろうから、なかなか勢力が纏まることなく統一するとなると虱潰しの様相を呈してしまうのだけれど。
ここでポイントとなったのは東方諸国連合が魔王領と隣接し魔物の脅威を常に受けている地域ということなんでしょうね。利害関係の存在しない人類種にとっての明確な敵が外に存在して、それに対抗しえる英雄の出現は指導者層を除いたその地域全体の希望と期待を一身に背負う存在となったわけだ。それでも、反フウガ派なんてものが確立され、勢力として集合してしまったことが本来複雑化してチマチマと絡まった糸を解くようにしていかないと行けない対立構図を一気に簡略化単純化してしまった事が、統一事業に拍車をかけたのである。
面白いことに、これに関しては反フウガ派の取りまとめを行ったチマ公の想定外ではなく、むしろ彼の意図した所であったのではないか、という節があるんですよね。
これまでのチマ公国の外交政策を維持するために、東方諸国連合の情勢を根底からひっくり返してしまう可能性が非常に高くなっていたフウガを早い内に排除する、という目的は嘘ではなかったのだろうけれど、もしフウガの統一事業を阻止できない場合は下手に地域に戦乱が続いて東方が荒れるよりも、一気に統一が成された方が東方全体としても、チマ家としても良いという判断があったんじゃないかと思われるのである。そのために、反フウガ勢力を糾合したとも取れるんですよね。勝っても負けても、チマ公の想定通りだったのだろう。後継者であるハシムがすでに最初からフウガと繋がっていたのを、彼が見抜けていなかったとも思えないので、チマ公マシューはある意味この戦乱を掌中に収めきっていたと言えるのではないだろうか。
敗れてなお、謀将としての凄味をより知らしめた傑物でありました。むしろ、この人がフウガ陣営の大参謀となってなくて良かったよ、と安堵するくらい。
まあ子供達からの人望があれだけなかった事からも、人徳はなかったんだろうけどなあ。
その意味では、長男のハシムも思いっきりその路線を継承してしまっているとも言えるのだけれど。才はあれど、やり方が陰惨で人から好かれるタチではないわなあ、あれは。
だからこそ、自分が王となるのではなく、参謀として政治や軍事のくらい部分を差配する立場に立つことを、仰ぐべき主君を得ることでこそ羽ばたける、という思いだったのかもしれないけれど。
ただほんと、このハシムってオーベルシュタインなんですよね。ある種のギラギラした自分の才能を発揮したいという欲を持っている分システムに徹したオーベルシュタインよりよろしくないかもしれない。
彼の提案した策は、フウガの統一事業を加速させた上で一気に安定させたかもしれないけれど、やっぱりフウガの英雄としての名望に曇りを与えたことは間違いないと思うんですよね。やったのはハシムかもしれないけれど、それはどうしたってフウガの成した事として認識されてしまう。
今のフウガの躍進が、時代の流れと民からの期待に後押しされたもので、実態以上に勢いによる加算が成されている以上、逆にその勢いが衰えた時に押し寄せてくるネガティブ、しっぺ返しは考えなくちゃいけないだろう。
ハシムが主導したかなり強引で陰惨な勢力としての整理整頓は、現状を勢い任せにしない地固めのため。実態を確かなものにするため。いざというとき踏ん張れるだけの土台、基礎を急いで固めるため、という目的は明らかなだけに、間違いではないんだろうけど。
どうしたってフウガに対しての恨みつらみは買ってしまっているし、今はもてはやしている民草も、いざ風向きが変われば見ないふりをしていたこれらの外道なやり口を唐突に思い出すことになるでしょう。
それに、ソーマたちはハシムの策を丸呑みしているフウガを、本来の自分の好みと違うやり方だろうと必要なら受け入れる器を示した、と濁を呑んだと評価しているけれど、ハシムが臣下に下って以降彼の策が全部実行されていて、なんだかフウガの主導が見えなくなっちゃってる感があるんですよね。呑むべきは呑み、拒否するものは決然と拒否する姿勢が見えていたら、ハシムを使っている感があったのですが。ハシム自身はちゃんと臣下として働いているのはわかるのですけれど、フウガという英雄の色が見えなくなってしまったなあ、というガッカリ感があったのも確か。
これ、昔からフウガに付き従っている古参の部下たちはどう考えているのでしょうね。彼らの趣向もまた、フウガと同じようなものだったでしょうし。顔をしかめるような卑怯な闇討ちやパワハラからの追放なんかを見せられ、協力しないなら危険だから処分するみたいな今までのフウガとは全然違うやり方を目の当たりにさせられて。
それを諸共しないのが、フウガのカリスマなんでしょうけれど。

しかし、東方諸国連合に所属しているユリウスたちはこれどうなるのかと思ったら、直球でソーマのところに亡命してきてユリウスが臣下に下るというのはさすがに予想外だった。いや、確かに現状現場で軍全体を統率する大将軍クラスってフリードニア王国にはちゃんと居なかったよなあ。
それができるライオン丸は今や影働きですし、これは良い貰い物だったんじゃないだろうか。ハクヤと共に政軍の二本柱が出来たということだし。