【恋は双子で割り切れない】 高村 資本/あるみっく 電撃文庫

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いつまでも、ただの幼なじみじゃ居られない。初恋こじらせ系双子ラブコメ!

我が家が神宮寺家の隣に引っ越してきたのは僕が六歳の頃。それから高校一年の現在に至るまで両家両親共々仲が良く、そこの双子姉妹とは家族同然で一緒に育った親友だった。
見た目ボーイッシュで中身乙女な姉・琉実と、外面カワイイ本性地雷なサブカルオタの妹・那織。そして性格対照の美人姉妹に挟まれてまんざらでもない、僕こと白崎純。いつからか芽生えた恋心を抱えてはいても、特定の関係を持つでもなく交流は続いていたのだけれど――。
「わたしと付き合ってみない? お試しみたいな感じでどう?」
――琉実が発したこの一言が、やがて僕達を妙な三角関係へと導いていく。
初恋こじらせ系双子ラブコメ開幕!

これ、あらすじだと琉実の一言から波乱のラブコメがはじまるかのような語りになっていますけれど、実はこの一幕があったのは中学の時。この物語がはじまる高校一年の時点では、なんと琉実と純はすでに別れているのである! そして、純は那織と付き合っているのである! それも、琉実のたってのお願いで。冒頭からこの双子と純の三人の独白から物語ははじまるのですが、このはじまった時点で三人の関係が絡みに絡まった沼に首まで浸かった状態、というのはちょっと凄まじくないですか?
端からここまで拗れた関係ではじまったラブコメは覚えがありませんわ。
試し読みして、初っ端からのあまりの濃さに躊躇なく予約してしまいましたが、このビリビリくるような感触は間違いありませんでした。むちゃくちゃ密度濃くて想いが深さゆえに拗れまくった面白いラブコメだ!

物語はこの三人が交互に一人称視点で語ることで進んでいくのですが、さらに面白いのは状況だけじゃなくてキャラ描写そのものにもあるんですよね。一人称ってのは、その対象となる人物の心象と語りによって表現されていくものなんですけれど、これびっくりするくらい三人が三人ともその語り口が全然違うんですよね。頭の中身がまったく違うというか、思考の成り立ち方というか色彩というか、とにかく考え方の質がそれぞれ三人とも全く違うのである。これ、ここまで一人称を毛色違うようにそれぞれの特色持たせて描いてる作品ってなかなかないんじゃないだろうか。
特に異質なのが、妹の方、神宮寺那織でこの娘、頭の中身がほんと並と違うんですよね。根本的にメチャクチャ頭いいんだろうなあ、というのがひと目でわかるし、思考の密度が異様に濃いのである。その知性の大半をサブカル方面に費やしているとはいえ、根っこの部分の思考の速さ、広がり方は天才と呼ばれる人種のそれなんだろう。サブカル方面とはいえ、教養の深さは尋常じゃないし、なんだろう、気取ってるわけじゃなくナチュラルにシェークスピアの引用を使いこなしてる人種と同じ類なんじゃないだろうか。
ただ、頭がよい人特有の自分は全部わかっている、という万能感に若干なりと彼女自身、那織自身が振り回されてる感があるんですよね。三人の関係を俯瞰し、姉である琉実の想い、幼馴染である純の抱いている想いを見通した上で、主導権を握って状況を整えてコントロールしようと目論んでいるのが彼女なのだけれど、案の定というべきか、自分がどう見られていたか、どう思われていたかについては自分で勝手に合点してしまっている所があって、それが彼女を若干迷走させることになるのである。
いやこれ、最後に至る前に教授から、純の初恋は自分である、と知らされたから良かったけれど、知らないまま動いていたら、彼女が導き出していた結論は違ったんじゃないだろうか。
最初から最後まで全部自分はお見通して思い通りに引っ張り回しましたよー、みたいなしたり顔してましたけれど、結構な方向転換したんじゃないだろうか、これ。
終わってみると、このタイトルってほんと秀逸なんですよね。
琉実は、妹に初恋している幼馴染をいきなりの告白で横から掻っ攫った事への罪悪感から、一年で別れを告げて、今なお純に恋している妹の那織と付き合って貰うことで罪を精算し、無理やり恋を割り切ろうとしたものの、未練を引きずりに引きずることになる。
純は、那織を掴まえられず初恋を諦めようとした所で琉実に告白され、付き合っているうちに本当に好きになったのに突然別れを告げられて、初恋がまだくすぶっている那織と付き合うことになって彼女のコトも今改めて好きだと自覚して、どんどん割り切れなくなっていき苦しむことになる。
那織の動向はなかなか謎なんですよね。この娘、地の文でも現実の方でも実に雄弁多弁で怒涛のようにいろんなことを喋っているし、考えているのだけれど、その多量さで本当に何を考えているかについては微妙に迷彩かけている印象があるんだよなあ。姉の気持ちには気づいていて、純が今も琉実に未練があることにも気づいてた。ただ、幼い頃から中学の頃まで純が自分に恋していた事は知らなくて、自分のことを一生懸命追いかけていることにも気づいていなかった。自分がずっと好きだった人が、自分のことをずっと好きで、その独特さ故に他人ともちょっとした距離感を感じていた自分をずっと追いかけてくれていた、と知った時の那織の様子と来たらもうメロメロじゃないですか。
でも、この娘がそれからしようとした事は、その恋を独占することじゃなかったんですよね。こいつ、お姉ちゃんの事も好きすぎるだろう。そして、根っからの享楽主義者なのか、これ?
この娘だけ、割り切れないなら割り切らなきゃいいじゃん! というスタンスなんですよね。そのために、企み謀ってみせたわけだ。一旦関係をリセット、するんじゃなくて。三人が抱いている「好き」という気持ちを詳らかにして、お互いの中にあった誤解や思い込みを解消してみせたのだ。その上で、引けない所までお互いの関係を踏み込ませてしまわせた。
割り切れないからこそ、一旦双子両方と別れて距離を置こうとした純の退く根拠を雲散霧消させてしまい、自分たち双子の事がどうしようもなく好きだという気持ちだけを引っ張り出してみせた。
琉実についても、純が義理で自分と付き合っていたという誤解を解き、燻ぶらせている未練を後ろめたさを消し去って、姉ゆえに妹たる自分に感じていた責任感や引け目も感じないように状況を整えた。まあ、姉妹関係については琉実は一歩退こうとする気持ちはなくなったものの、余計に妹への愛情を拗らせてしまった感があるようにも見えるのだけれど。
ともあれ、那織は割り切れない恋を苦しいもの、辛いものじゃなくて、割り切れなくていいじゃん! 三人ともお互い胸の内をさらけ出しあった、好きという気持ちも全部ぶちまけた。機会は平等、チャンスも同等、ならばあとは楽しくラブコメしよう。恋を楽しめ、好きにときめけ、駆け引きは後ろ暗さなく、誘惑は正々堂々と。牽制は笑ってつつき合え。てなもんで、こう泥沼でネガティブに陥りそうな要素を見事なくらいにふっ飛ばしちゃったんですよね。
いやあ、すげえわ。琉実も純も苦笑いしながら、こいつには敵わねえ、と誇らしく思うのもよくわかる。色んな意味でとんでもねーヒロインでした。エロいし、エロいし。エロすぎじゃねえかい、この天才巨乳w

生中のオタクを軽々と突破した、深層の趣味人とも言うべき那織の語りは元より、その影響を濃く受けている純も、普通の体育会系JKであるはずの琉実も、微妙にサブカルの沼にハマっているところがあって、会話や地の文の各所にサブカル系の引用やネタが散りばめられていて、普通に読んでてもやたらと濃厚で読み応えある文章でありました。
その上で、さらに濃いキャラたちの生々しいような躍動感のあるような、息遣いを感じる学生生活に、溌剌としたデートなど外で遊ぶ様子に、趣味に生きるじっとりとした日常感。
読み終えたときには、もう久々に「読んだわー」と満腹感を感じさせてくれる、満足度マックスとなる作品でした。いやー、読んでて楽しい作品は多々アレど、こんな濃厚さで楽しさを味わわせてくれる作品は滅多ないですわー。色んな意味で最高でした。良かった良かった。
そして、ぜひ続きが読みたい。ある意味、制限解除されたこの三人の然るべきラブコメ、読んでみたいです。