【スパイ教室 04 《夢語》のティア】  竹町/トマリ 富士見ファンタジア文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

絶望の底にいるとき、英雄は駆けつけてくれる。

宿敵である謎のスパイチーム『蛇』の尻尾を掴んだクラウスは、その正体を暴くため敵の潜伏場所へ『灯』全員で向かう。しかし一同に待ち受けていたのは、恐怖渦巻く戦場に、想像を絶する強大な悪だった……。

わりと前回もティアがメインで話が進んでいたような気もするけれど、今回はさらに突き詰めて描かれる文字通りの「ティア」の戦い。紫蟻という凶悪な敵と彼が率いる軍団と「灯」全員との絶望的な戦いが描かれるのだけれど、それとは別にティアには容赦なく「現実」との戦いが突きつけられる。
ある種正しくスパイたらんとしている他のメンバーたちと比べて、彼女は明確な目的と理想を持ってこのスパイの道に足を踏み入れてきた。ティアにとって、スパイになるというのは目的を叶える手段なのだろう。彼女だけが、国家の狗であり駒であるという枠組みを越えた理想を抱えている。
ヒーローになりたい、という理想が。かつて、自分を救ってくれた英雄のように、絶望の底にいる人を救う者になりたいという願いが、彼女の胸には熱く輝いている。
しかし、理想はいつだって現実に否定される。冷酷非情な現実はティアの理想を徹底して否定し、踏みにじる。その現実を押しのけて理想を兼ねるだけの力を、ティアは未だ持ち得ない。自分の未熟さに、見通しの甘さに、何よりどんどんと実力を増している仲間たちに追いつけていないのではないか、自分だけが足手まといになっているんじゃないか。そんな実感がティアを萎縮させ、悩ませる。
そんな折に、蛇のエージェントとついに直接対決と相成ったわけだ。
図らずも、彼女らが訪れた街はかつてティアの英雄だった女性が姿を消した場所だった。彼女の理想の原点だった人が潰えた街だった。なにより、英雄を殺した者こそが蛇のエージェント、紫蟻という外道であったのだ。
迷うティアを追い詰めるように、紫蟻の罠は次々と仲間たちを絶体絶命の窮地へと追い詰めていく。クラウスの実力は圧倒的だけれど、彼は一人しかおらず街の各地で危地に追い込まれていく仲間たちをすべて救って回れるだけの余力はクラウスにも持ち得ない。
すべては、ティアの手にかかっていた。彼女が差し伸べる手の先にこそ希望はあった。
そうしてティアは巡り合うのだ。ティアの英雄だった人が、自分に遺してくれたものに。託された思いに。預けてくれた願いに。
さあ、理想を掲げよ。その胸に宿る熱き灯火を振りかざせ。そうして、君の目に映る求める絶望を、悲嘆を救ってみせろ。
きっと、彼女の掲げる理想こそが、その胸に灯る炎こそが、皆にとっても「灯」なのだ。だから、スパイの少女たちはみんなティアを信じている。ティアに期待している。置いていかれているなんて、とんでもない。貴女こそが、彼女たちの先導者なのだ。灯を掲げて、皆の行く先を照らす者。
それが《夢語》のティアの在り様だった。
前巻の感想で、ティアの見ている視点というか立ち位置は、クラウスに近いんじゃないか、と書いていましたけれど。なるほど、正しくティアこそが蛇との因縁においても、見ようとしている場所としても、パートナー足り得たのか。クラウスがティアに期待していたものを、彼女は結果として上回って見せつけてくれたのかもしれない。