【なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか? 6.天魔の夢】  細音 啓/neco MF文庫J

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預言者シドが語る真実――「その先」が最も気になるファンタジー、第6弾!

「真の世界を取り戻す」決意をした少年カイは、各種族の英雄や精鋭たちと出会う中で、この世界を改変した黒幕へと近づく。機鋼種の強敵・マザーDを激戦の末に破った後、カイが手に入れたレコーダーには、預言者シドを名乗る男の声が残されていた。シドから語られる黒幕の真相とは――。一方、六元鏡光(リクゲンキョウコ)、ヴァネッサ、ラースイーエら三英雄たちが、三種族の思惑が入り乱れる中で衝突を始める。そして、預言神の加護を受けたこの世界の“二人のシド”アーカインとテレジアは三英雄を強襲する機会を伺う。今、この世界は「誰の記憶にもない」局面に突入する――!

正史において、どうやって人類が勝利したのか。そもそも他の四種族をまとめて封印できたんだ? という点についてはずっと疑問点であり続けていたのですけれど、こうして実践という形で答えを見ることになるとは。
これは確かに人類の勝利とは程遠いよなあ。預言者シドが苦悶することになったのも良く分かる。
時に刃を交えて戦い、時に同じ敵に立ち向かうために共闘し、時に旅の道連れとして寝食を共にして、カイたちは本来敵でしかなかった異種族たちとコミュニケーションを重ねてきた。
彼らは人類とは全く異なる種であったけれど、ちゃんと言葉も通じるし、意思も交わせるし、一緒に笑って一緒に怒り、一緒にご飯を食べて触れ合うことのできる存在だった。
カイだけでなく、鏡光がバルムンクにべったりとなってバルムンクの方も真っ向からぶつかろうとして妙に噛み合う仲になってしまったり、ハインマリルがサキのことを気に入ってちょっかいを掛けまくるうちに何だか相通じるようになってしまったり。
カイだけじゃない、人類種と他の種族が種を越えて仲良くなれる、その可能性は示されていたのだ。
レーレーンがこっそりと告げてくれた「期待」は、まさしくカイが僅かずつかき集めたまだ見ぬ未来への可能性だった。
もし決着を付けるなら、お互い同士でつけるべきだった。それが融和であろうと決裂であろうと、当事者同士でつけるべき決着だったのだ。
それを、横やりで人類がなんら関与できない置いてけぼりの状態で、勝手に決着がつけられてしまった。今話していた相手を、意思をかわそうとしていた相手を、友情が愛情が通じていたかもしれない相手を、一方的に消し去られてしまったのだ。
納得なんてできるはずがない。

でも、それが人類のためになるのなら。人類がこれ以上滅びに怯えることなく、犠牲が生まれることなく、平和を得ることができるのなら。それは享受しなければならない、妥協しなければならない無力感だったのかもしれない。
だから、カイ以外のみんなは起こった事から目を逸らし、与えられた平和を受け取ることにしたのだろう。多くの何の力も持たない一般人たちからすれば、自分たちを脅かしていたものが消えたのだ。いつ死ぬか、いつ殺されるか、家族を失うか、愛する人を殺されるか。そうした不安を、恐怖を、戦うすべの無い人たちは常に抱えて、怯え暮らしていたことを思えば、ジャンヌもバルムンクもこの与えられた平和を否定はできなかっただろう。
カイだってそうだ。どれほど納得できなかろうと、拒否したくても、彼はそれを自分の感情だけで否定したり拒絶したりできなかった。真面目だなあ、と思う。
レーレーンやリンネという大切な友人、大切な人を奪われて受け入れられるはずがないのに、自分ひとりの都合で、人類がようやく手に入れることができた平穏に後ろ足で砂をかけることが出来なかったのだ、この少年は。
だから探したんですよね。この結末が理不尽で、人類にとっても不都合である理由を。決して、このいっときの平和が人類に良き未来をもたらさない、という証拠を。
見つからなかったら、ずっと苦しんだんだろうなあ。それこそ、預言者シドのように。
幸いにして、カイは証拠を見つけることが出来た。この結末が、世界を軋ませる悪手であることを知ることが出来た。ならば、あとは邁進するだけだ。
見知らぬ世界に一人放り出されたときも。かつて居た人類が勝利した世界と違って、放り出されたこの世界が人類が滅びようとしている世界だと知ったときも、カイは怯むことなく戦い続けた。そういう少年なのだ。やるべきことがあるのなら、たとえたった一人でも、誰にも理解して貰えなくても邁進する。そういう気概を彼は根本に備えている。
なるほど、つまり彼こそが正しく「人類種族の英雄」となるのか。その証こそ、世界種リンネの剣。
そうしてもうひとり、退場したと思われていた最後の英雄が出番を待つ。ここでまさかの主天アルフレイヤ再び、にはさすがにゾクゾク来ましたよ。