【男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?】  七菜 なな/Parum 電撃文庫

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永遠の友情を誓った親友ふたりが――ふとしたきっかけで〈両片想い〉に!?

 とある田舎の中学校で、ある男女が永遠の友情を誓い合った。1つの夢に向かい運命共同体となった二人の仲は――特に進展しないまま2年の歳月が過ぎる……!
 未だに初恋がこない陽キャ女子・犬塚日葵と、花を愛する植物男子・夏目悠宇は、高校2年生になっても変わらず、二人だけの園芸部で平和に親友やっていた。
「悠宇が結婚できなかったら、アタシが責任取ってやんなきゃねー」「日葵がそれ口走ってから、おまえの兄さんが『義弟くん!』って呼んできて辛いんだけど」
 ところが、悠宇が過去の初恋相手と再会したことで、突如二人の歯車が狂い出す!? 果たして恋を知った日葵は「理想の友だち」脱却なるか?

それはそもそもから恋だよ!
惹かれ惚れ込み独占しようとする。恋愛という枠組みに押し込むことで形にしてしまうことを恐れ、友情という雛壇で飾ることで何時までも変質させることなく、維持しようとする心は純情の粋じゃないですか。
あまりにも大切なものは、はっきりと形にしないほうがいいんですよね。形質を得てしまうと、それははっきりと明晰になるけれど、同時に形を失うというリスクを負うことになる。
これを日葵は非常に自覚的にやっている。彼氏を作って即座に別れる、というアレだ。人間関係を、一度付き合う、彼氏彼女になるという「形」を現出させることで、否応なく誰にでも分かるように破壊しているのだ。そうして、人間関係を終わらせている。
こういうことをしている娘だ。尚更、壊れてなくなってしまう可能性のある「恋愛」の成立を怖がる事も理解できる。曖昧模糊にしておくことで、友情という枠組みにおさめておくことで、彼女は大切に悠宇との関係を護っている。
でも、それはもう最初から恋だよ。
若者の時ほど、人は衝動的で十代でのお付き合いなんて続かないのが当然(その考え方には頷けないものがあるけれど。人間、どれほど年取ったって衝動的だよ)、という意識があるからこそ、30になってもお互い独身なら結婚しようぜー、なんて言い回しで婚活期間ゴール地点(近年ではもう三十路程度若い若いまだ折り返し地点になっている気がするが)での目標確保を狙っているのかもしれないけれど、この日葵さん……やや俗欲に堕している節がある。わりと、我慢が効かないタイプなのだ。友情という枠組みの方に自分を隔離して悠宇との関係を維持しようとしていながら、他の誰かが悠宇の恋愛圏に入ってくるとそれに全然耐えられなかった。耐えられなくて、友情枠から転げ落ちんばかりに身を乗り出して恋愛圏に割って入ろうとしだしたのだ。
覚悟も何も決まっていない。
そりゃ、だいたい見通している次兄は怒る。この人はどちらかというと狂気サイドの人に見える。線を引っ張ったアチラ側だ。
そんなアチラ側からの理屈なら。本気で勝ち逃げを狙うなら、日葵は決して恋愛圏に首を突っ込んではいけないのだ。友情枠、それも親友枠で居続けないといけない。恋愛圏とは交わらない、しかし恋愛圏よりも上位の、不可侵の、唯一絶対の、一番で居続けないといけない。
恋愛圏なんていう、同じ土俵で戦おうとしてはいけないのだ。それでは、恋敵と勝負になってしまう。そもそも勝負にならない高みを掴み続けないといけない。達観して悟りを開き、何もかもを覚悟して受け入れて受け入れなければならない。最後には、自分の所に戻ってくるのだから、という確信を、一切の疑念のない確信を抱き続けなければいけない。
まあそこまで来ると、狂気の領域で、その狂気を親友同士で共有しないといけない、なんて感じなんだろうけどさ。
あんまり達し尽くしてしまうと、いい加減恋とか愛とか友情とか、分けるのが不可能なくらい溶け合ってしまうのですけれど。定義なんて、どうでもよくなっていくのだけれど。

その点、日葵は至るには俗すぎるんですよね。目の前の欲望に弱すぎる。だから、容易に自覚してしまった恋心に振り回される。自分こそが悠宇にとっての唯一無二だと確信できない。彼氏彼女という関係の形がないことを不安に思ってしまう。キスや肉体関係を証として求めてしまう。
その意味でも、この娘は普通の女の子なのだろう。
ところが、悠宇の方は日葵よりもよほど覚悟決まってたんですよね。日葵のことが唯一無二である事について一切ブレなかった。自分の人生を、生涯を、一生を、この娘に捧げるのだと決め込んでいた。悠宇も日葵ほど俗じゃないけれど、頭がおかしいわけでもイッちゃっているわけでも、果てに達しているわけでもない普通の子だ。でも、覚悟は決め込んでいたんですよね。
おかげで、二人の友情という枠は続いてしまった。彼らは親友であり続けることになった。最後の最後に確実に勝ちを掴むために。
日葵にとってはなかなかの修羅の道だけど、果たして安易に目の前の餌に食いつかずに、最後まで我慢できるのか……この娘本気で目の前の欲望に弱そうだからなあ。
悠宇が日葵とも関係を大切に思っているからこそ、安易にセフレみたいな関係になるのに抵抗を覚えているのが案外とネックで、もう大親友だし莫逆の友なんだし子供でも作っちゃう? くらいの摩擦係数がゼロの関係になれば日葵の欲も安定しそうなんですけどね。
ただ、悠宇も覚悟決めている一方で、達観しているわけじゃなく普通に日葵の事を女の子として好き、という恋愛感情があるので、彼らの親友関係って表と裏が存在しているだけに、何がどうなっても、キスしてもセックスしても子供作っても結婚しちゃっても、二人は無二の親友なのは変わらないなんていう行き着く所に至っちゃった関係じゃないだけに、決して強固な関係じゃないんですよね。
今回、日葵が自覚しブレた途端にレッドゾーンに突入してしまったみたいに。だから、悠宇が下手に日葵と一線超えるようなスキンシップは避けているのは、間違いじゃないのでしょう。
でも、それだけ薄氷の上を歩いているとなると、決着は思いの外早いのかもしれない。少なくとも、30までは全然持たんでしょう。どこにでもある男女の当たり前の関係に落ち着くのか。
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) とタイトルで反語で断言してるくらいですしねえ。

何にせよ、陽キャの完璧超人に見えて、メンタル弱々な日葵が果たして完走できるのか。二人の決着がどういう形でつくことになるのか。先がめちゃくちゃ楽しみなラブコメのスタートでした。うむ、面白いぞ!!

七菜なな・作品感想