【俺は星間国家の悪徳領主! 1】  三嶋与夢/高峰ナダレ オーバーラップ文庫

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好き勝手に生きてやる!
なのに、なんで領民たち(あいつら)感謝してんの!?

星間国家アルグランド帝国――その辺境惑星を治める伯爵家に生まれ、幼くして当主となった転生者リアム。
彼は善良さ故に奪われ続けた前世の反省から、今度は奪う側である「悪徳領主」となって民を虐げようとするのだが――
「こんなの搾り取ろうにも、搾りかすも出ねーよ!!」
受け継いだ領地はこれ以上虐げようのない荒れ果てっぷりだった!
虐げても大丈夫なようにと、まずは領地を繁栄させていくリアム。
それでもできるだけ悪徳領主らしく振る舞うのだが、何故か民からの好感度は上がりっぱなしで……!?
悪徳領主を目指してるのに名君と崇められちゃう勘違い領地経営譚、開幕!!

他人を省みることなく、自分の思う通り好き勝手に生きる。と言われると、まあ眉をひそめてしまいますよね。そんな生き方をしてるやつなんて、ろくな人間じゃないという風に思ってしまう。
ただ、この好き勝手に生きる、というのが意外とポイントだったりする。どんな風に振る舞うことが、その人にとって快感なのか、不快なのか。気持ちよく痛快に感じるのか、居心地悪くどうにも満足に思えない事なのか。
人それぞれなんですよね。
とある悪魔。案内人を名乗る謎の男によって、星間国家の伯爵家の嫡男に生まれ変わらせてもらったリアム。さても彼は、自分の前世を悪意をもって踏み躙った犯人が案内人である事を知らず、また生まれ変わった先でも不幸を撒き散らし自身も不幸になる事を期待され、悪徳に興じて生きるように誘導された哀れな犠牲者、であるはずだった。
のだけれど、リアムという男はもう根っからの小市民なのである。そもそも、悪徳領主のイメージからして、時代劇の悪代官とかその程度の代物しか想像できない。かつて前世で様々な相手からあれだけ搾取され続けたにも関わらず、今度は自分が奪う側に回ってやる、と決意しているにも関わらず、自分から奪った連中を真似したりしよう、という発想がそもそもないんですよね。
だから、本物の悪徳、邪悪に比べるととてもじゃないけれど悪行らしい悪行が出来ないのである。そもそも、領民たちから搾取するために、まずは領地を発展させようという発想からして、悪徳領主としてはおかしい。
本物の悪徳領主なら、領主を継いだ際にどれだけ領地が荒廃し領民達が酷い暮らしをしていても、気にせずさらに搾り取ろうとしていたでしょうしね。
小市民であるがゆえに、根が善良であるが故に、どれだけ好き勝手振る舞うにしても、人でなしとしての振る舞い自体が居心地悪いし不快に感じてしまうのだ。好き勝手生きているのに、しんどい思いをしたり気分悪くなったり面白くないのに我慢し続ける、という状態になってしまうのは本末転倒ですもんね。
なので、リアムが好き放題やりたい放題することが、そのまま領地の発展に繋がり皆の幸せに繋がっていく、というのもまあ必然なのかもしれません。
本人は大いに悪行を成し、悪徳領主として皆を苦しめ高笑いしているつもりなのが、滑稽といえば滑稽なのですが。
なまじ舞台が星間国家というやたらスケール大きい世界観なのも影響しているのでしょう。中近世のファンタジー世界と違って、技術力や文明文化の未発達によって不便を強いられる事が一切ないのもあってか、星間貴族たちの放蕩っぷりは小市民では想像すらできない規模になっているので、リアムの想像力ではどれだけ贅沢しても、この世界の一般常識からすると非常に慎ましく質実剛健に見えてしまうんですよね。不必要な贅沢や意味不明な浪費は、ストレスや不愉快に感じてしまうというリアムの性質もまあ、大いに影響しているのでしょうが。
リアム本人としては、満足そうだからいいんじゃないでしょうか。実際、彼としては人の意見は聞かずに自分の意見をゴリ押ししてやりたい放題やってるつもりですし、決して他人を慮ったりもしていませんし、優しさとか情愛、慈しみの心なんて持っているつもりもないし、それを他人に与えているつもりもないのですから。彼からしたら、ちゃんと他人は利用しているし搾取しているし踏み躙っているつもりなのである。立派に悪徳領主をしているつもりなんですよね。
善意にほだされているわけではないんだよなあ。

全体としては、個々のエピソードを深く掘り下げていくでもなく、さらっと流すようにサクサクと描いていくので、スピーディーではあるのですがじっくり味わうタイプではないのでしょう。個々の登場人物についてもスポットがあたるわけでもなく、モブキャラに至っては名前すらなくリアムの言動や実績に対して、リアクションするだけの単位に過ぎないので、ほとんど印象にも残りませんでした。
まあ案内人が本来の思惑と逆なことになってどんどん酷い目にあっていくのは、実にざまぁな感じになっていて善き哉という風情でしたが。