【オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!】  コイル/雪子 電撃の新文芸

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同人女子とドルオタ男子の、偽装結婚から始まる楽しすぎる結婚生活。

同人作家という秘密以外は普通のOL・相沢咲月は、ある日イベント会場で突然プロポーズされた。相手はメガネ姿のドルオタ……じゃなくて、イケメン同僚の滝本さんで!? 偽装結婚から始まる幸せ結婚生活物語。

これは面白いなあ! 面白かった!
偽装結婚というタイトルになっているけれど、作中で自分たちで言っているように「シェアハウス婚」と表現した方がしっくりくるような関係なんですよね。
相沢さんも滝本くんも、二人共仕事ではバリバリのやり手ビジネスマンでありながら、プライベートではそれぞれどっぷりとハマったオタクでもあるという、公私を見事に使い分けている社会人。ビジネスマンとして非常に優秀な人らしく、二人共コミュニケーション強者と言っていい人種ではあるんだけれど、同時に他人を必要としない独りで居ることを全く寂しく思わない人種でもあるんですよね。だから、決して恋人とか結婚相手なんかを必要とはしていないんだけれど、同時に他人と一緒に過ごす事に苦痛を覚えるというタイプでもない。友人も少なくないし、他人との距離感のとり方が抜群に上手いんですよね、だからこういう人種って、最強なんだよなあ。
おまけにこの二人って、かなり強度の高いオタクなんだけれど、自分のテリトリーであるジャンル以外でも好奇心を抱き楽しめるタイプなんですよね。だから、自分の知らない未知のジャンルの話をされても、むしろ目をキラキラさせてそれは面白そう!と食指を伸ばせるのである。
だから、相沢さんも滝本くんも自分のテリトリーの話を相手にしても、疎ましがられるどころか本当に心の底から楽しそうに話を聞いて一緒に面白がってくれるものだから、話が弾む弾む。
おまけに二人共距離感のとり方がべらぼうに上手いから、変に強引に自分の好きなものを押し付けたりしないし、かと言って遠慮して遠ざけたりもしない。ごく自然に、自分の興味あることを話題に出して盛り上がり、また相手の興味あることを訪ねて盛り上がり、未知のジャンルに知見は広がり思わぬ見地から自分のジャンルへの考察が深まったり、と独りで楽しんでいた事が二倍三倍になっていくかのような生活がはじまってしまったのだ。
そりゃ楽しい!
それ以外の普通の生活空間の共有も、お互いまったくストレスを感じない距離感をごく自然に取れているんですよね。相手が忙しそうなら邪魔せず、そうかと思うとちょっとした気遣いでかゆい所に手が届く手助けをさり気なく行き届かせることで、ああこの人と一緒に暮らしてて良かった、という想いがふつふつと湧いてくる。楽しいだけじゃなく、嬉しいと思うことが毎日の中に増えてくる。

人生、充実してる! 毎日が楽しい! なんかもう、ハッピー! という風になっているのが伝わってきて、思わず読んでいるこっちにも多幸感のおすそ分け。なんかもう本当に楽しそうで、人生にハリがあって、素敵だなあと思わず微笑んでしまいました。

そんでもって、実は滝本くんの方が前から相沢さんの事が密かに好きだった、というあたりがまた絶妙なんですよね。好きだし異性として恋はしているけれど、今の生活が想定以上に楽しすぎて、大好きな相沢さんが自分と一緒に暮らしていることで滅茶苦茶楽しそうにしていてくれることが嬉しくて、そんな時間と空間を壊したくなくて、現状維持に満足している滝本くんが何ともいじらしいのです。
彼としては、今の所今以上を望んではいないんですよね。今の段階で幸せ過ぎる、というのもあるのでしょうけれど、彼女のほうがとても楽しそうでいるのにそれを壊したくない、と思っているあたりが健気でいいんですよ。それでいて、問題を抱えている相沢さんと実家の家族との関係に、一石を投じるつもりでいるあたり、ちゃんと「結婚した」という事実を彼はともすれば相沢さんが想像している以上にしっかりと背負っているんじゃないかな、これは。責任云々じゃなくて、もっと相沢さんには幸せになってほしい楽しく居て欲しい、という気持ちから生じているようにも見えるのだけれど。
これってでも、十分以上に「愛情」ですよねえ。そう思ってしまいます。
思わぬところから突然お付き合いとかを経ずに結婚からはじまった関係だけれど、最初から楽しいで満ち満ちた関係になってしまったわけで、そこからさらに二人は本当の意味での家族になるのか。このサキの進展が色んな意味で楽しみな、そして現状ですでになんかもう見てて楽しいオタク夫婦のスターティングでした。

しかし、イケメンくんのドルオタというのはなかなか今まで見たことなかったカテゴリーで興味深かった。相沢さんみたいな、クリエイター方のオタクではないんだけれど、本格ドルオタって凄まじくアグレッシブで行動的でパワフルなんだなあ、と感心するばかりでした。
どんなジャンルでも、突端を行くオタクの人はやっぱりスゲえなあ。