【現実主義勇者の王国再建記 XV】 どぜう丸/冬ゆき オーバーラップ文庫

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――今こそ「結束」の時だ

ハーン大虎王国、グラン・ケイオス帝国、そしてフリードニア王国が盟主を担う海洋同盟――世界は三大勢力拮抗の時代を迎えた。
そんな折に突如、ハイエルフの国・ガーラン精霊王国が三大勢力に接触を図ってくる。目的は魔王領拡大で失った領土の奪還要請。ソーマはメリットがないと拒否するが、大虎王国は要請に応じて軍を派遣する。
しかし健康な兵が次々と倒れる異常事態が発生。実は精霊王国では死の病「精霊王の呪い」が蔓延しており!?
全世界の脅威となり得る未知の病。これに対処すべくソーマが打ち出したのは、前例のない施策で――!?
革新的な異世界内政ファンタジー、第15巻!

未知の感染症の発生。このネタはコロナの前から始まっていて、完全に偶然だったらしいのですが、一旦様子見したあと流行が収まるまで年単位掛かることが予想されたのでそのまま続行されたそうですが。
コロナと違って空気感染ではない病気なので、近代医療設備も医療体制も整っていない中で世界規模の感染症が! という事態にはならず。そうなったら、フウガの拡大方針も何もかも吹っ飛んでシナリオを全部ふっとばさないといけないだろうけれど。
患者から周囲には直接感染はしない、という事はわりと早い段階からわかっていたので空気感染、飛沫感染ではない事ははっきりしていたのですが、それでも未知の感染症ということでソーマは厳戒態勢で臨むことに。そして万が一に備えて、海洋同盟内のみならず帝国、そしてフウガのハーン大虎王国とも医療体制の協力を打診していくことになる。
この世界において初めてとなる、全世界規模の国家間連携体制である。
フウガが野心を燃やし拡大政策を取っているということは、もうかの国は潜在的に仮想敵国なんですよね。しかし、敵対の可能性もある国家連合とも、こうして包括的に協力体制を築いていこう、という発想がちょっと前まで中世の範疇の文明だったこの世界においては存在しないものなんですよねえ。
フウガも、まだ敵対していないとはいえ微妙な緊張感が生まれつつあるフリードニアにメンツに拘らずに援助を求めるというあたり、同時代の人間としては並外れているのでしょうけれど。
最終的に、あの映像の送受信装置を使って一同に集う事が難しいだろう各国の首脳部を集めての首脳会談、この世界初のサミットを開催してしまうのですから。
そもそもこの時代、一国の王同士が顔を合わせて会談する事自体が稀なんですよね。使節を派遣して交流するのがせいぜいでしょう。それが世界サミットですからねえ。これがどれだけ革新的なことか。
結果として、国家や勢力の枠組みを越えて、医師団が派遣されて感染拡大の収束に成功するわけですから。

だいたい、あの宝珠がオーパーツなんだよなあ。あれで帝国の女帝マリアとホットライン繋いでいることでどれだけ世界変わっちゃってるか。どれだけ相手が信頼できるとわかっていても、使節や手紙のやり取りを時間をかけて行うだけの関係って、どうしたって意思疎通が途絶えがちになり、相手が何を考えているかわからなくなってくるもの。齟齬も出てくるでしょうし、誤解や解釈の間違いなんかも出てくるでしょう。ところが、マリアとソーマは頻繁に宝珠使って顔合わせて話し合ってるんですよね。これは本当に大きい。相手の目的も何を考えているか何を望んでいるかがちゃんと伝えあっている状態、ってのは必要以上に警戒を持たなくてもすむということですからねえ。
勿論、国益を優先させるために自国優先で相手を出し抜こうとしたり利益を確保しようとしたりする面は否めないですけれど、三大勢力となっている今の大陸の中のうちの2つが密かにこれだけ緊密に協力体制にあるというのは、大きいなんてもんじゃないんだよなあ。
まあ、帝国サイドの方は帝国の規模が大きいだけにマリアさんの威光を無視して動く者たちがいない事もない可能性も高いのですが。
とはいえ、今回こんな風に世界サミットが行われ、医療関係についてのみとはいえ、国家・勢力の枠組みを越えて協調していく旨が約束された、というのは国際連合的な国際機関の萌芽が生まれたという事でもあるんですよね。
フリードニア王国の安定と、海洋同盟の締結。そして帝国との連携は世界の枠組みそのものが急速に成熟の方向へと進んでいる、その推進力になっている。
こうなってくると、旧態然の他国を飲み込んで勢力拡大を目論んでいる、世界征服的な野心を抱いているハーン大虎王国って、なんか時代遅れなんじゃないか、という風な気もしてくるんですよね。
でも、世界を取り巻く急速な変化、革新の波は……急速すぎてその舵取りをしている国家指導層と比べて、一般大衆はまだ旧来の古い国家のもとに暮らしていた意識のまま、というのがあるんでしょうね。そんな人達にとって、フウガはわかりやすい英雄であり支持を集めやすい。
ソーマはそのへん大いに危惧していて、大衆の意識改革も急いでいるわけですが。

今回の感染症が魔物由来、というのも面白い要素でした。魔物、といってもまあ発生原因はともかくとして野生動物の一種みたいなものですし、その中に病原菌みたいなものを持っているものがいても不思議じゃないんですよねえ。その駆除のために、バチバチ傷つけ合ってたらそりゃ病気が発生する要素はいくらでもありますわなあ。
大体、こういう疫病ってのは敵の罠とか、バイオハザードを狙った仕込みだったりするのですけれど、自然発生的に起こるのが尤も不自然でない展開とも言えるんですよねえ。
特定の宿主によって発生する病気、ということで今回のは風土病という側面もあり、興味深い話でもありました。
一方で、その病気の内容というか病状の発生原因に、この世界の成り立ちに関係する要素も介在していて、話の構造的にも多重になってるんですよねえ。

フリードニアに留学しているフウガの妹、ユリガはこうしてみると新旧世界の狭間に立って両者の相克を一番真剣に見つめている娘なのかもしれない。この娘、イチハくんを意識してたりはしないのかしら。イチハとトモエのお互い無自覚な想いに溜息ついたり応援したりする姿勢を見せていて、自身は二人の間に入ろうという気さらさらなさそうなのだけど。さて、本当にそんな気ないのか、それともこの娘も無意識なのか。