【ウィッチ・ハンド・クラフト ~追放された王女ですが雑貨屋さん始めました~ 1】  富士 伸太/珠梨 やすゆき MFブックス

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追放された元王女は、異世界の魔導書でチートな雑貨屋さんはじめます!?

王家において最も重要とされる攻撃魔法の威力が弱いため、辺境の屋敷へ追放されてしまった心優しい元王女ジル。
そんな彼女が絶望の中で見つけた異世界の魔導書は、膨大なモノづくり知識であふれており、あっという間に彼女を虜にした。
さらにジルが趣味として始めた服飾づくりは、彼女の繊細な魔法と相性抜群で、誰にも真似できない職人技が発揮される!
彼女が作り出すオシャレな麦わら帽子や、ローブをリメイクしたワンピースなど、今までになかった作品の数々は、町の人々を魅了していく。
「自分の作った服や小物を店で並べて、みんなに手に取ってもらいたい!」
雑貨店を開くことを夢見て奮闘するジルの姿に、いつしか共感した人々が次々と押し寄せてきて――!?
服作りで人々を笑顔にするジルの楽しいセカンドライフ物語、ここにはじまります!!

異世界の魔導書ってKindleですかそれ!? まんま電子書籍、ではなく現代から遥か未来の銀河系全体に文明を広げていた時代のツールらしく、AlexaみたいなAI付き。いやでも、銀河系時代のAIの癖に喋る内容が今と大して変わらないんじゃないの? こう融通が利かない感じの決まりきった文言を差し込んでくるあたりとか、思いっきりそれらしい。ジルも一々対応せずにスルーかぶった切って指示飛ばすあたり、即でAlexa対応慣れちゃってるなあ、現地文明人にも関わらずw
しかし無料で読めるアーカイブが666冊ってのは多いようで凄く少ない気がするんですけど、友禅染めの本とかかなり専門性の高い書籍なんかもあるようで、これだとすぐに読み切ってしまいそうだなあ。

先日【バズれアリス】という作品を読みまして、これが非常に面白かった。なので、これを書いた作者さんの他の話も読んでみたいなあ、と思って調べてみたら【人間不信の冒険者達が世界を救うようです】の作者さんだったんですね。これ、小説の方は読んでいないのですけれど、コミカライズされていてそちらの漫画の方をチラチラと読んだことがあったわけです。
で、他にもこの【ウィッチ・ハンド・クラフト】が最近新たにシリーズとして出ていたために手にとってみた次第。
【バズれアリス】でも思ったのですけれど、この作者さん、雄大な風景描写の中に登場人物を落とし込んで、凄く印象的なワンシーンに切り取ってみせるの、凄く上手いんですよね。
王家から追放され、絶望のまま一人旅をしていたジルが旅の絵師であるイオニアと出会い、いっときの間共連れに旅をした際。彼女は王族の証でもある特徴的な目立つ髪を指摘されて、無造作に自分の長い髪を断ち切ってしまうのですけれど、そこでイオニアが改めて髪を切りそろえて整えてくれるのです。
それは未だ王族としての戒めに囚われていたジルの意識をどこか解放してくれる行為であり、肩口で揃えられた短い髪型は威厳ある王族から、等身大の少女に彼女を戻してくれるジルにとっての最初の転機でもありました。
その髪を整えるシーンが、また印象的なんですよ。
誰も通らない街道のど真ん中。雲ひとつない青い空の下で、折りたたみの椅子に座らされて白い布を被った少女の背後に立った一人の男が、器用に髪にハサミを入れ、櫛と微風の魔法で梳いていく。
ある少女が生まれ変わるワンシーン。
こういうシーンがあると、なんだかグッと物語の中に入っていけるんですよね。

このあとジルは押し込められる先の古い森の中の屋敷で、かつて慕っていた亡くなった伯父の残した言葉を見つけ、ここで王族としてではなく一人の少女として新たに生きていく決意を抱くのですが、その前にイオニアの出会いと、あの髪を散髪して貰う事がなかったら屋敷で素直に心新たにすることが出来ただろうか、と思うと王族としての体裁を切り落としてくれたあのシーンは、最初の転機そのものだったんじゃないかなあ、と思うのです。

さて、かつて伯父が暮らした屋敷で独りで生きていく決意を固めたジルですけれど、その屋敷が置かれている森に隣接する街、ジルが足繁く通い生活拠点とするこのシェルランドもまた他とちょっと違う特徴のある街でした。
魔法は攻撃手段であり、それ以外の目的で魔法を使用するのは不謹慎、という意識が強く根付いている王都を中心とした中央と違って、この街ではちょっとした生活での利便性や、物作りや様々な仕事の作業などを効率良く進めるため、人の手では難しい事を成すために魔法を使うことを忌避しないどころか推奨されてる雰囲気が当たり前になってる街だったんですね。
さらに、街に住む人達の一人ひとりに、クリエイター的な気質や文化芸術を尊ぶ意識が根付いている。工夫を凝らし、常に良いものを生み出そうという意識。新しいものを見出し、改良を加え、改革をもたらし、見たこともないものを作り出そう、楽しもう、愛でようという感覚。
それはまだ個々の人々の意識の中で胎動しているもので、大きな流れにはなっていないのですけれど、何かの萌芽が垣間見える街だったのです。
それは、常々ジルが両親に否定され頭から押さえつけられていた考え方と似たものであり、街の人達と交流するうちに彼らの中に、自分の内側で燻っていたもの、この追放された先で吐き出そうとしていたものと共通のものが存在することに気づき、ジルは大いに奮い高ぶるのでした。
言うたら、同志がいる! てなもんで。
ジルがやりたいと思ったことは、魔法を道具として利用しながら、伯父が残してくれたAlexaもどきによって得た外世界の知識を触媒に、自分が好きに思い描いた衣服や小物などのファッション系雑貨を取り扱う雑貨店。
そこで、街で出会った行商人のマシュや職人たちと協力して、まだ誰も見たことのない新しいファッションを創りだし、それをきっかけにして街ぐるみでニューウェーブを押し広げていく。
街自体が文化芸術の発信地となっていく、その号砲がジルの出現によって打ち鳴らされたのです。

図らずも、かつて彼女の伯父が数年間、この屋敷で暮らしていた時に。彼はここでレストランを開いていたんですね。そのレストランを訪れた街の住人たちの中に、とても革新的で何よりも美味しく楽しかった料理、食事の体験を通じて、新しいものに挑戦したい、自分の手でもっと凄いものを、素敵なものを創り出してみたい。関わってみたい、という意識が根付いて、大きな下地になっていたんですよね。
それが、ある意味かの伯父上の弟子でもあったジルが訪れたことで、開花の時を迎えたというのなら、それはとてもおもしろいことじゃないですか。

武器兵器としての魔法を使うことが出来ず、全く違った魔法の使い方を模索し、新しい自分の生き方を見つけたジルですけれど、一方で彼女の所属する魔導王国は完全に軍事国家の様相を呈していて戦争の気運も高く、また内部からも反乱軍が起こったりと不穏な空気は高まるばかり。
そんな情勢の中で、果たして悠長に文化の発信地なんてしていられるのか。なにやら、革命軍というワードも出てきていますし、ここから物語がどう転がっていくのか。色んな意味で楽しみです。