【僕が答える君の謎解き 2.その肩を抱く覚悟】  紙城 境介/羽織 イオ 星海社FICTIONS

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明神さんの推理が間違ってるかもって、少しも思ってないでしょ?

生徒相談室の引きこもり少女・明神凛音は真実しか解らない。
どんな事件の犯人でも神様の啓示を受けたかのように解ってしまう彼女は、無意識下で推理を行うため、真実に至る論理が解らないのだった。
臨海学校に参加する凛音の世話を焼く伊呂波透矢だったが、ふたりは深夜に密会していた疑惑をかけられてしまう。
立ちはだかるのは35人の嘘つきたち。
誰も信じてくれない凛音の推理を、透矢は証明することができるのか。

本格ラブコメ×本格ミステリ、恋も論理も大激突の第2弾!


いい子だなあ、紅ヶ峰。この2巻は、彼女こそが華だった。
華と言ってもまっさきに目を引く咲き誇る華ではなく、ひっそりとでも深い存在感を示す一輪の花のような咲き方だったけれど。
いい加減に生きてるようなキャラのようで、紅ヶ峰は誰よりも誠実であろうとしている。それは、このシリーズ冒頭で凛音を貶めた悪戯を、彼女自身が痛く後悔しているからだとしても。それは心改めたというよりも、自分のやったことの醜さ、惨めさに打ちひしがれたからなのだろう。こんな自分は嫌だ、という思いが彼女を駆り立てているように見える。
だからだろう、2巻後半で自分がやってしまった致命的な行為に落ち込む透矢を慰めるのではなく、叱咤激励した彼女の選択は気高くすらあった。
それはきっと、透矢につけこむチャンスであったはずだ。でも、この娘にとって透矢を好きという気持ちと同じくらい、凛音が自分を認めてくれたこと。友達という関係になったことを大事に思っているようでした。
紅ヶ峰が普段からつるんでいる二人のギャルに対して、友達と言えば友達だけどそんな大した関係じゃないと明言しているのに比べて、明神凛音と友達になったという事実はお互いぶつかりあった結果なんですよね。踏み込まず上辺だけの薄っぺらい関係でなあなあで済ましているのではない、自分の力で自分の言葉で、今まで自分のことなんか名前も覚えてなくて認識すらしていなかった凛音に、自分のことを否応なく思い知らせた。認めさせた。そんな初めての、本気でぶつかった相手だったのだ。
最初から、恋敵だとわかっている。それでも、凛音に認識されたのは嬉しかったし、お互い意識し合う関係は気恥ずかしくも楽しかった。友達だと、思っている。
そんな相手だから、この娘は正々堂々ぶつかりあう事を選んだのだ。逃げることなく、卑怯な真似をしてかすめ取るのでもなく。
そんな紅ヶ峰亜衣という娘の踏み出した姿は、気高くすら感じるものでした。カッコよくすらあったのでした。
一歩進み、一歩踏み込んだ凛音と透矢の関係ですけれど、それを後押ししたのは間違いなく紅ヶ峰でした。彼女の葛藤、懊悩、勇気、すべてが誠実で眩しかった。それは、確かに「華」だったのです。
和花暮は、完全に紅ヶ峰のこと見縊って見損なっている。和花暮は人にレッテルを貼り付けるのは上手いのかもしれないけれど、そのレッテルを貼り付けた相手の中身に何が詰まっているのかを、まるで見る気もないのだ。理解する気も、とっくの昔になくしている。
その意味では、和花暮が透矢を自分と同類と分類していたのも間違いではないと思うんですよね。彼は他人にレッテルを貼り付けるような人間ではないけれど、逆に言うと何も貼り付けない人間のようにも見える。自分の中の推定無罪という絶対善の定義にこだわり、その枠に他人を押し込める。型にはめ込んで判断する、というタイプだったように思える。彼もまた、本質的に他人の中身なんか理解する必要がないと考える側の人間だったんじゃないだろうか。事実さえあればいい、客観的な事実さえ積み重ねていけば、答えは導き出される。
でも、そのこだわりは凛音と深く関わっていくことで段々とズレを生じさせていく。いつの間にかもう、彼は彼女の苦しみに共感して、踏み込んでしまっていた。彼女への情が生まれ、彼女のことを信じていた。信じていたからこそ、彼女の言葉を信じなかった。凛音の正しさを客観的な事実ではなく彼女の人間性の方を信じて、否定してしまった。
凛音が、透矢に信じてほしかったものは、違ったのにね。いや、違っていたんだろうか。少なくとも、お互いもう出会う前の二人ではなくなってしまっていたのに、以前と変わらないままのつもりで続けようとしたからこその、致命的な錯誤であったように見える。
それでも、以前のように諦めて逃げずに、自分の力で自分の言葉を証明しようとした凛音は、確かに前に進んでいて。紅ヶ峰に発破をかけれた透矢もまた、変わってしまった自分を認めることで、ある意味現実から目を背けた和花暮の停滞を踏み越えられたんじゃないでしょうか。
和花暮がレッテルを貼って書割の駒のようにしか扱わなかったクラスメイトたち。その一人ひとりを生きた人間として、一人ひとりが違った事を考え思って動いている人として捉えたことで、透矢は彼らがついていた嘘を紐解いていく。
肩肘張ってついた嘘じゃなく、普段の生活の中でふとしたきっかけ、タイミングでつく小さな嘘の積み重ね。それは、クラスメイトたち一人ひとりのその日の行動を紐解いて、その性格を、その日の何気ない気分の移り変わりを、感情の様子を、彼らが置かれた状況や事情を、きちんと見つめなければ気が付かない嘘たちだ。一人ひとりを、ちゃんと見なければ紐解けない連鎖であり、行動の積み重なりだ。
「嘘つきはクラスメイト全員」というアオリ文に相応しい、その日起こった事の解体であり、明神凛音の証言の正しさを、唯一嘘をつかなかった彼女の言葉の正しさを証明する、推理劇でありました。

前半の、紅ヶ峰のカンニング疑惑事件も、まさかの事件発生前の犯人指摘にもびっくりさせられましたけれどね。いや、むしろ納得か。凛音の能力からすると、たとえ事件が起こる前でもその材料が揃っていたら、自明の理で犯人が導き出されてしまってもおかしくないんですよね。
ただ、この場合だと起こってしまった結果から、その際に起こっていた状況を鑑みて当てはめ逆算していくことで凛音の推理を推理していく透矢の手法は適用できないんですよね、これ。
まだ事件が起こっていない何が起こるのかわかっていない段階だと、透矢は推理しようがないのですから。推定無罪、以前の問題だこれ。
透矢の信念からしても、まだ起こっていない事件の犯人捕まえて事前に防犯、というのもできないだろうしなあ。いやこれ、犯人に今から何するかわからんけれど、とにかく止めろ! という風に止める事は出来ると言えば出来るのかもしれないけれど。知らんぷりされたらどうしようもないなあ。でも、まだ何もしてない段階から、でも準備を整えて行動に移る用意が完了している段階でそんな指摘を受けたら、抑止効果は発揮できると言えなくもないのか。
でも、今回凛音の能力では、教唆犯まで推理は届かない可能性が高い、という話も出てきて、彼女の能力にも大きな陥穽があるとわかったのは大きいかも。

しかし、今回の話を見ていると実質ラスボスになるのは、明神先生になるのだろうか。ある意味、凛音に閉じこもる鳥かごを用意していたのは彼女なわけですし。