【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 4(下)~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

謎の追手から逃げる少女ツェツィーリアと邂逅し、友人ミカと共に彼女を助けることにしたデータマンチ転生者エーリヒ。
そして帝都地下水道で逃走劇を繰り広げる中、エーリヒ達はツェツィーリアが隠していた秘密――彼女の“種族"を知ることになるのだった。
ようやくエーリヒの下宿へと辿り着き、「望まぬ結婚を強いられている」というツェツィーリアの事情を聞いたエーリヒ達。
エリザや妖精達の力も借りて、彼女を帝都から脱出させる作戦を決行するが……!?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、怒涛の第4幕が決着!
考えてみても凄い国だよな、三重帝国って。持ち回りで帝位を回しているのもそうだけれど、その一角を吸血種が占めているのですから。事実上寿命がないんじゃないか、という長寿種や幽霊の類までが学閥や政治中枢の重要なポディションを担ってたりするだけでも面白いのに、国の頂点である皇帝ですら吸血種という強大な種族が就いたりするわけですから。
でも、そういった不老長寿の種族が短命種を支配しているという構図でもないんですよね。あくまで一角を占めている、というだけ。そもそも、皇帝位だれもやりたくなくてみんなで押し付けあった挙げ句に、前に皇帝やってた研究バカにもう一回お前やれよッ! 嫌だ! イヤとか言うな! という帝国頂点会議とは思えないおっさん同士のガキ臭い醜い押し付け合いとかが、至尊の高みで行われてるとか、この国なー。これで、どいつもこいつも妖怪並みに有能極まるもんだから、この三重帝国ってハイレベルに纏まってるんですよねえ。
これが辺境の方まで行くと色々とまた違った意味で権力との駆け引きが面白いことになっているのですけれど。政治上の怪物ばっかりじゃないか、それでいて権力振るうよりも自分の好きなことをやっていたい趣味人ばかりという地獄。
まあ、その皇帝位の押し付け合いのとばっちりが、回り回ってエーリヒのところまで降り掛かってきてしまったわけですが。
これ、ツェツィーリアさんもいい迷惑、どころじゃない話なんですよね。だから、尻尾をくらまし遁走をはじめたのですけれど、そんな彼女を連れ戻すために皇帝の懐刀ともいうべき近衛猟兵を動員するこの大人気なさ!
いや、この近衛猟兵ってのがまたカッコいいんですよ。帝国中からかき集めた精鋭中の精鋭たるスカウト集団……いや、この場合は非正規戦部隊とでも言っていいのでしょうか。こういう辣腕どころじゃない連中を暗部として使うのではなく、映えある近衛として抱えているあたりがこの三重帝国という国の好きな所なんですよね。この様々な多種族で構成された非正規戦部隊の隊員たちのカッコいいことカッコいいこと。逃げるエーリヒたちを追いかける鬼ごっこの鬼であり、シティーアドベンチャー特有の追撃エネミーなのですけれど、これがもうガンガン攻めてくるし、的確に追い込み、索敵も丹念。それでいて、泥臭いのに近衛騎士らしい品性と懐刀らしいビンビンに尖らせた鋭さを感じさせる物腰がとんでもねーのですよ。それでいて画一的じゃなく、各種族の特技を生かした、あるいは個人が鍛えに鍛えまくって伸ばしたスキルを用いての連携がまた色んなシチュエーションに合わせてビシッと決まっていて、いやもう今までのエネミーの中で一番やばかったんじゃないだろうか。

そんな近衛猟兵たちから、それこそあらゆる手段を使い倒しながら時に周到に、時に瞬発的にどんどんと躱して逃げまくるエーリヒのハチャメチャさが、またよく伝わってくるんですわ。近衛猟兵がやべえのが良く分かるからこそ、その近衛猟兵をして捕まえきれないエーリヒってなんなの!? なにこいつ? なんなの? とむしろ、近衛猟兵たちの方に共感できてしまう面白さでありました。
ミカの方も土系魔術師として、そんな自由なこと出来るの? という実力を見せてくれて、いやはやエーリヒとも仲のよろしいことで。

まあ今はまだ故郷にいるマルゴットも含めて、エーリヒの周りにいたヒロインたちというのは色んな意味で癖の強いクセ者ばかりだったので、あのツェツィーリアの芯は強いけれど温厚で淑女らしい正統派ヒロイン像はなかなか来るものがあったんですよね。吸血種というまたぞろ帝国においては特殊ではないけれど特別な種族ではあるけれど、そのキャラクターは清廉でありお姫様キャラなんですよね。
ちょっと身分差がありすぎるのがネックで、今はこう逃亡者としての彼女を匿えているけれど、この一件が終わった後だとなかなか気軽に会えないし連絡も取れない立場なので、ヒロインとしてはやはり他の娘らよりも縁の遠い人になってしまうのでしょうか。いや本当に正統派ヒロインだけにまたココぞというときに深く絡んできてほしいものなのですが。エーリヒの成長していく道の先で待っていて欲しい人の一人ではあるんだよなあ。

エーリヒの場合、ヘンダーソンスケールがハズレる。つまり本道であるストーリーから踏み外して完全にIFルートに入ってしまうと、わりとやりたい放題好き放題その時に成りたいと思ったものに、それがどんな立場地位能力であろうと、成っちゃうだけの、こうと決めたら絶対にそうしてしまう達成力がちょっと意味不明レベルなので、大概何にでもなれるんですけどね。
ツェツィーリアさんの単独攻略ルートでも、また意味不明な吸血騎士になって世界中から何こいつ意味わからないんですけど、呼ばわりされるハメになってますし。エーリヒ、だいたいどのIFルートでも、こいつ意味わからないんですけど!? こいつ、なにやっても死なないんですけど!? これどうするの!? という、わけわからん存在扱いになってるのはご愛嬌である。

既にまあ現状でもその片鱗は出ていて、今回のラスボス戦なんてそのあたり顕著なんですよね。
というか、今回のラスボスの人、ちょっと能力隔絶しすぎてて本来ならシリーズ通してのラスボスとか言われても不思議じゃない、まだ少年時代の夢である冒険者にもなっていない魔術師の丁稚やってる男の子の前に立ち塞がるには、意味不明なレベルで強すぎる相手のはずなんですよね、これ。
でも、そういうレベルが違いすぎるとか次元が違うとかステータス的にどうやっても敵うはずがない、という断絶は、彼の場合意味ないのである。
一旦、こいつは殺す、と決めたらなにをどうやっても殺す。どういう手段を用いても、どんなルールをひっくり返しても、やると決めたら必ずやりとげる、というそれこそ本当の意味がわからない「凄味」。
これがエーリヒの怖さでありえげつなさなのだろう。
チートじゃないし、覚醒とかでもない。能力値があがるわけでも、偶々偶然何もかもがうまくいく展開を引き寄せる力でもない。

データさえ存在するなら、たとえ相手が神でも殺しに興じてみせよう。

それ趣味として極めた人種を、データマンチと呼ぶそうだ。TRPGプレイヤーとしての、極。
まさに彼のことである。
これ、エーリヒの最後の戦いは普通に考えるならどうやっても負け、デッドエンドのはずなんだけれど、もし本当に最後までやっていたとしたら……。
ちょっとゾッとするというかゾクゾクするというか。
殺っちゃったんじゃね? とどこかで想像してしまう。そういう「凄味」がこのエーリヒという主人公の軽妙なノリの奥底には備わっているんですよねえ。
そもそも、負け試合とはいえエーリヒてばありえない勢いで、相手殺しまくってたもんなあ。この主人公、格上殺しの手段とか手管とか準備しまくりすぎでしょう。相手からしたら意味不明すぎて笑っちゃうわ!

こういう主人公の根底のところにTRPGの業というか粋みたいなのが根付いている、或いはもうそれで存在自体が組み立てられてるみたいな所が、今回はもう舐りつくせるくらい味わえて、大変満足でありました。本当にエーリヒって、手段としてではなく在り方としてTRPGプレイヤーなんだよなあ、というのを実感、堪能させていただきました。

しかし、今回も殆ど書き下ろしか、というくらいウェブ版をこねくり回していて、完全に新規話読んだ気分ですわ。ミカと妹のエリザがこんな形で打ち解けているとはねえ。それに、ツェツィーリア逃亡劇に、ミカもがっつり噛むことになりましたし。
いやはや、ごちそうさまでした。満腹じゃい!