【薬屋のひとりごと 9】 日向 夏/しのとうこ ヒーロー文庫

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壬氏の一世一代の行動の結果、とんでもない秘密を共有することとなってしまった猫猫。
折しも後宮は年末年始の休暇に入る時期。実家に帰りたくない姚は、猫猫の家に泊まりたいと言い出した。とはいえお嬢様を花街に連れていくわけにもいかず、姚と燕燕は紹介された羅半の家に泊まることになる。
一方、口外できない怪我を負った壬氏のために、猫猫は秘密裏に壬氏のもとに通わなくてはならなかった。
できる範囲で治療を施していくが、
医官付き官女という曖昧な立場に悩まされる。壬氏が今後さらに怪我を負わないとも限らないが、医官にはなれない猫猫は医術を学ぶことはできない。
そこで、羅門に医術の教えを乞おうと決めるのだが――。

そう言えば、前回って結構なとんでもない引きで終わったんだった。自らに焼印を押す、という自傷行為によって自分を後継者にという陛下の思惑を引き剥がし、ついでにこの秘密を守るために同席していた猫猫しか治療出来ないようにした……ついでというか、こっちが本命?
つまるところ、猫猫を逃げられないように囲い込んだわけですが。
猫猫からすると、自分は薬師であって医師ではないし医術をちゃんと学んでいるわけじゃないのだから、いきなり自分一人で壬氏の火傷の治療を、とか言われても応急処置しか出来んがな! と、わりと真っ当なお冠状態なのである。それに、火傷に限らず今度壬氏の病気や怪我などを自分が見ないといけない、となると正式に医術を学ばないと、となってしまったわけですね。
さらに、数カ月後に壬氏が玉葉妃の故郷である西都に使節団の長として派遣されることになり、もちろん猫猫もこれについていなかくてはならなくなる。つまり、早急にとりあえずでも通り一辺倒の医術を修めないといけなくなってしまったわけだ。
ここで、知らんがな! と放り出さずに養父の羅門に頼んで女官の身でありながらも医術を教えてもらおうとするあたり、猫猫ここでもう自分が壬氏を看ないといけないと受け入れてはいるんですよね。壬氏が自傷行為に走ったことにはもう怒り心頭ですし、この一件でてんやわんやで医術を修めないといけなくなった件についても愚痴は出てくるのですけれど、不思議とこれからずっと自分が壬氏のことを診続けないといけない、という件に関してはあまり文句らしい文句は出てこなかったのです。
もう猫猫なりに、覚悟は出来たのかな。
相変わらず、猫猫には壬氏に対しての熱量とでもいうのか。恋する乙女のエネルギーみたいな迸りは皆無に等しく、好きなんですけどー好きなんですけどーと鬱陶しい感じでチラチラ構ってくる残念イケメンに対してのあの塩対応、なんだこいつ、みたいな態度は変わらないのですけれど、ついになんというか……。
……仕方ないなあ。的な受け入れ体制に入ってしまったような、そろそろ本気で絆されてきてやしませんか、猫猫さん。
いや、これまでの塩対応を通り越したナメクジ見るみたいな視線であしらってた頃と比べて、壬氏さまドM疑惑が生じてしまうほどの塩っけだったのと比べると、なんか猫猫の対応甘いですよ。壬氏さまに対してダダ甘じゃないですか?
……もちろん、一般的な視点からではなくあくまで当社比です。普通に見たら普通に塩対応に見えるかもしれませんが、当社比! 当社比的にはダダ甘!

なんかちょうど、真横にすんげえ夫婦が現れてしまったのも、これと比べると甘酸っぱい雰囲気じゃね?と感じてしまう原因かもしれませんが。
いやなんですか、あの馬良と雀の夫婦関係。愛がない夫婦というのは全然珍しくないはずなんですけど、それを通り越してなんか変ですよ、この夫婦!?
雀さんのキャラが濃すぎるというか、ぶっ飛びすぎているのが最大の原因なんですが。人妻子持ちのキャラとしてはパラッパラッパーすぎやしませんかね、雀さん!
ここまでのフリーダムファイターはシリーズ始まって以来ですよ。羅漢の変人がある意味真っ当な変人に見えてしまうくらい。だいたいの事ならスルーしてしまえる猫猫が唖然として一方的に振り回されてるくらいですからね。
この雀さんと馬良の意味不明な夫婦関係を目の当たりにさせられると、わりと壬氏と猫猫の関係ですらもまともに見えてきてしまう不思議!

しかし、壬氏さまの身の上については、全然想像していなかったんで結構マジで驚いたんですが。普通に皇弟だと思いこんでた。言われてみると、なんで皇帝陛下がそんなに弟のことを気遣うというか、跡を継がせたいみたいな事を考えるのか不思議ではあったんですよね。
ただ一方で猫猫の言う通り、この人は国のトップには向いてない雰囲気はあるんですよね。確かに苦労性ですし、何かと仕事抱え込むわ気苦労は耐えないわ、全然わがままに振る舞えない人なんだよなあ。
老若男女を問わず籠絡してしまう絶世の美貌の持ち主でそれを利用してネゴシエーション出来る才覚を持ちながら、その顔を利用して自分の都合の良いよう、自分の利益や楽するためのツールとしては全然使わないんですよね。あくまで仕事上のツール。
彼の中身はというと、ヘタレだしジメッとしてるしドMだし自分から地雷を踏みに行くタイプだし、概ね残念イケメンなんだよなあ。そんでもって、傲慢さとか自信過剰な面が全然なくて、自ら貧乏くじを引いていくタイプ。自分から苦労を背負ってしまうタイプ。そして何より、冷酷に切り捨てることが出来ないタイプ。
今回、猫猫を西都につれてきたのも、彼の我儘という体裁を取ろうとしているけれど、羅漢の身内である彼女に危険が及ぶ可能性があったから、側に置いて目に見えるところで守ろうとしていた、なんて話が出てくると、なんてこの人迂遠なんだろうと思えてくる。猫猫だけじゃなく、ほんと色々と権力闘争のとばっちりで被害があちこちに及ばないように手を回して気配りしたおして、結局自分の方にツケが回るようにしてるんですよね。
そういうのがわかってしまうのが猫猫の聡さなんですよねえ。そして、わかってしまえば彼女としても、あかんこの人は自分が見ておかないと、と感じてしまうのもなんかわかるんですよね。
猫猫が、養父の羅門を尊敬している一方で彼の自分から貧乏くじを引くところ、そうした人生を歩み続けてきた果てで今擦り切れたみたいな在り方になっている事はどうしても受け入れがたい、納得がいかないと思っていたわけで。
そんな養父によく似ている、似てしまっている壬氏を目の当たりにして、猫猫が何を思ったか。何を感じたか。
まあ最後のシーンは壬氏さまには過ぎたご褒美だった気がしますが。めっちゃ喜んでるじゃん、あのドMw

にしても、壬氏さまの火傷の肉が焼けた匂いを嗅いで、焼き肉とか食べたいなあ、とか思ってしまう猫猫は、多分医者には向いてる、うん向いてる。この娘のメンタルもやっぱり凄えよな。