【SPY×FAMILY 1】  遠藤 達哉 ジャンプコミックス

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名門校潜入のために「家族」を作れと命じられた凄腕スパイの〈黄昏〉。だが、彼が出会った“娘”は心を読む超能力者! “妻”は暗殺者で!? 互いに正体を隠した仮初め家族が、受験と世界の危機に立ち向かう痛快ホームコメディ!!

話題の、と言うには随分と周回遅れになってしまっているけれど、人気漫画の一巻を読んだのですが、これは評判になるだけありますわー。めちゃくちゃおもしろかった。一巻だけでこのメリハリと充実っぷりは瞠目に値する。
てっきり、最初から家族を形成していて、でも家族間で仕事の内容とか能力を持っているとか秘密にしている、という話だと思ってたんですよね。古くからあるスパイ家族ものって映画とかでもそういう展開が多かったですから。
でも、本作は最初は見ず知らずの他人から。若き精鋭スパイの黄昏が任務のために家族という設定を、子供が必要になったために孤児院から適当に頭の良さそうな子を見繕うところからはじまるのである。
最初は冷徹な打算によってはじまった家族関係。これの面白いところは、唯一小さな幼女のアーニャだけが、そのエスパーとしての能力の一つ、読心で父の正体もあとで母となる人の仕事も知っている、というところでしょう。彼女だけが家族のすべてを把握していて、でも黙っている。
この子も最初は打算なんですよね。もう捨てられないように、独りになりたくないから、読心で相手の心を読んで父の意に沿おうと、気に入られようと頑張るのである。
でもアーニャって健気、というふうでもなくわりとたくましいというか、楽観的というか。幼いがゆえにいつまでも深刻になっていられないのでしょうか。ついつい遊んでしまうところが微笑ましく、でも読心できるからこそ父となった人、母となった人の心の内側をみて、どんどん大好きになっていくんですよね。
父黄昏も、最初は任務のためと割り切って付き合うつもりだったアーニャにいつの間にか心を傾けてしまっている。元々、スパイとして心を押し殺して普通の幸せなど背を向けて生きてきた彼だけれど、彼がどうしてこの業界に入ったかといえば、その境遇故に世界に平和をもたらすため。理不尽に泣いている子供がいなくなる世界を作りたいから、という夢が根底にあるからなのである。
彼の初心は、正義のスパイ、だったのですから。
アーニャをして「かっこいいうそつき」と言わしめるカッコいいお父さん。
任務のためと子供を切り捨てるのではなく、任務に支障をきたしてもアーニャのために理不尽を切って捨てる、その姿勢はどう見たって愛する娘のために怒るパパなんですよね。
そして、母役を演じることになるヨル。職業、暗殺者。
スパイ家族ものとしては、母親役はこれはこれで食わせ者か駆け引き上手の曲者になるかと思ってたのですが、このヨルという女性はむしろピュア、純真で世渡りベタという感じなんですよね。本当の家族、弟にも自分の仕事は隠していて、ただ人付き合いは不器用の一言。殺しの技だけが冴え渡っている、という風で黄昏と仮初の夫婦となるのも、偽装結婚が弟や周りの人間に色々と隠すのに都合が良かったから、で打算であるわけです。お互いに利益があるから。
でも、お互いの事情も正体も知らないながらも、この人となら助け合える、この人なら受け入れてくれる、という信頼が芽生えたからこその、偽装結婚プロポーズだったんですよね。
ただ利益のため、というには黄昏の行動はかっこよすぎたし、ヨルへの思いやりに溢れすぎていて、ある種心が停滞している風でもあるヨルの感情にも響くほど。
そうしてはじまった疑似家族。嘘と都合と打算にまみれた家族だけれど、でもそこには確かに絆が生まれている。名門イーデン校の受験で見せた、アーニャの今の父と母と一緒にいたい、という願いと、幼いアーニャを侮辱する面接官の一人に見せた黄昏・ロイドとヨルの娘を泣かせた相手への本気の怒りは、父と母というにはまだ何も始まっていない関係かもしれないけれど、でも間違いなく自分の家族を侮辱されたものの怒りだったのでした。
細かいコメディの軽快なテンポや思惑が交錯する心情描写、そしてスピーディーなアクションと、色んな意味で縦横無尽。うーん、これは本当に面白かった。早速続きを入手して読んでいきたいと思います。