【江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる 二】  七沢 ゆきの/ファジョボレ 富士見L文庫

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なぜか江戸時代の花魁・山吹に成り代わってしまった杏奈。現代に戻れないと覚悟を決め、自分を頼りにする禿のためにも、花魁の頂点を目指すと決心してしばらく。
 人気を競った桔梗花魁とも、良き友として研鑽し合う仲に。だが、そんな桔梗をあの宿業が襲い……。
 さらに、杏奈が成し遂げた逸話の数々がきっかけとなって"将軍家の姫の縁談"を助けてくれと相談が舞い込む。
 現代で培った教養と、キャバ嬢として学んだ機転で、杏奈は彼女たちを救おうと奮闘し――。
 山吹花魁の伝説、待望の第二幕!
公方さま出てきたー!
って、思いっきり暴れん坊将軍なんだけれど、時代はどの時代なんだろう、これ。いや、よくよく読んでみると時代を特定できるような人物名って出てきてないんですよね。バカ殿こと池田松平の殿様も、推しの土屋さまもどの松平か、土屋か下の名前は出してないのでよくわからないようになっていらっしゃる。
あくまで江戸時代中期から後期という曖昧な括りでぼかす目論見なのだろう。
ともあれ、この将軍様は徳川吉宗ではない事は間違いないでしょう。推しの土屋さまの話で、この土屋さまは老中ではないらしく、吉宗公が将軍だった時代は土屋家当主の人は老中だったみたいなので。
いやしかし、徳川家にこんなバイタリティありそうな将軍様居ただろうか。とりあえず、フィクション、フィクションということで。

その気風の良さや女だてらの武芸の腕、そして誇り高さもさることながら、博識さも噂で広がっていたらしく、異人の饗応で外国料理を出すための知識を貸してくれるように江戸城の料理番の偉い人からお願いされてしまった山吹。もはや、花魁の仕事でもない気がするけれど、ついに花魁の身でありながら江戸城に乗り込むことになってしまう。
なんで江戸時代で現代風の料理作ろう、となるとイタリア料理になるケースが多いんですかね? 調べてみると、材料準備できそうなのがイタリア料理だったりするのだろうか。
膳奉行の梨木さま、教わる立場とはいえ腰が低いというか、花魁の山吹にちゃんと礼を尽くすの偉いなあ、と思うんですよね。彼に限らず、ここに出てくる武家衆はみんななんだかんだと礼に厚いというか、花魁とはいえ遊女である山吹に対してちゃんと敬意を持って接するのはジェントルマンだなあ、と。
まあ、吉原に通うような人はしきたりに従うものですし、いわばアイドル的な存在である花魁という存在そのものへの憧れやら敬服なんかが元からあるんでしょうけれど、梨木さんとか全然関係ないのにね。
さても、御城に出向いたことで公方さまとも直接お目にかかってしまうのですが、幾ら自分の城とはいえ徳川将軍、一人でフラフラ出歩かないでくださいな。
ともあれ、公方さまにも見込まれて、彼の妹である小夜姫の縁談に持ち上がった問題の解決に手を貸すように頼まれる始末。まあ婚活とか結婚トラブルを直接解決しろ、というとんでもな話ではなく、小夜姫の容姿に関する問題で、コーディネートとか化粧の話なので、流行の最先端というか発信者にもなり得るアイドルな花魁に依頼する、というのはあながち間違っていないのかもしれない。
が、山吹とは関係ないところで問題がさらに拗れてしまって、山吹花魁はまさに結婚トラブル、ロミオとジュリエット的な二人の仲を裂きかねないトラブルの発生に、またぞろ侠気を発揮して公方様相手に大見得を切ることになるのでありました。
いや、だから花魁のするような仕事じゃもうないんですけど。だからといって、じゃあ誰がやるんだ、という話になってしまうのですが。

そんなもう吉原からはみ出すどころか江戸城まで出張って、快刀乱麻を断つがごとくバッサバッサとトラブルシューターしている山吹さんですけれど、彼女の見所はむしろ同輩の桔梗花魁とのマブダチ関係なんですよねえ。
一巻では最初、商売敵として嫌がらせしてきた相手なのですけれど、打ち解けてからは花魁同士というのが不思議なくらい意気投合して、今や対等のライバルという以上の親友同士。こういう花魁という立場でありながら、同じ位である別の花魁とこんな風に仲の良い、腹の割った助け合える関係というのはなかなか見られない珍しいものなので、二人の関係は見てても気持ちよかったなあ。
そんな桔梗花魁が、遊女の職業病ともいうべき梅毒に掛かってしまうのですが……けっこう荒っぽい治療法だったな、これ。かなり念入りにフィクションです真似しないでください、という但し書き注意書きが書かれていたのもまあ納得。でも梅毒はマジヤバイもんなあ。
歴史上の登場人物でも若くしてなくなってる人、少なくない数これでやられている、って話もあるみたいですし。
そんな山吹に命を助けられた桔梗が、また別の機会に自分の大切なものを切り売りして、山吹の晴れ姿を彩るのに惜しみなく費やして、頑張んなさいな、と送り出してくれるの、またいいじゃないですか。
こういう気持ちの良いライバル関係は本当の好ましいです。山吹の前世でもこんな風に親友になれた人はいなかったかも、という回想にじんわりと来るものがありました。
またぞろ、最後は未来の桜と梅の回想で終わっていますけれど、ちゃんと山吹と桔梗、二人が推しの人と添い遂げるまで描かれるんだろうか。まあ公方様まで出ちゃったので、やることあらかたやったような気もするけれど。
しかし、店の御内儀さん、自分の店の娘たちがみんな幸せになって出てってくれるのは嬉しかろうなあ。本来なら、なかなかそんな風に店から居なくなることなんて少ないだろうに。