【ただ制服を着てるだけ 2】  神田暁一郎/40原 GA文庫

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「私、あなたの『彼女』ですよ? ちゃんと『彼氏』らしく、優しくエスコートしてよね?」
同居生活を送る社畜・広巳とニセモノJK明莉。ヒミツの関係は広巳の店の従業員、舞香にバレてしまう。
「……え? マジに付き合ってないんですか? キモ〜い!」
バレても構わない明莉と職場の人間関係的に困る広巳、そんな中、明莉の職場の店長にもバレてしまう。
「あゆみ、直引きしてるだろ?」
店長の疑いを晴らすため二人は恋人関係を演じることに!? そんな日常の中、明莉の過去を知る人物が現れ、トラブルが起きてしまう――。
いびつな二人の心温まる同居ラブストーリー第2弾!

JKビジネスという夜の世界に生きる19歳のニセモノJK。その彼女を通して描かれる、その夜の世界から抜け出せずに藻掻く女性たちの姿を浮き彫りにする異色のライトノベル第二弾。
誰にも頼らずに独りで生きていくという強烈な自立心、誰かに依存して生きることへの拒否感にも似た反発心。そんな矜持を明莉が抱くに至った転落の人生がここでは語られている。
明莉の自分の半生を語ったエッセイの内容は決して軽はずみな事情ではなく、家庭家族の問題や環境によってどうしようもなく追い詰められ、JKビジネスの世界へと足を踏み入れ、そして昼の世界から足を踏み外して二度と這い上がれないまま、ズルズルと底へ底へと落ちていく、その悔しさに塗れた人生が赤裸々に描かれている。
母親が陥った精神的な病と依存症、それが明莉を追い詰めたのですから、彼女が誰かに頼り切りになって生きる依存という関係に忌避感を抱くのも当然だったのでしょう。
搾取されるのは絶対に許さず、だからといって無償の施しは受け入れられない。何も求めず、ただ与えてくれる広巳の存在に、彼によって助けられ今生活できている事実に一時は反発し彼のもとを飛び出した理由もよくわかります。
でも、広巳のそれはただ無償で与えるものではなく、哀れみや施しなんかじゃなかった事は、明莉にも何となく伝わっていたのでしょう。だから、彼女は戸惑いながらも彼にもとに戻ってきたのでした。
だからといって、広巳との関係が安定したわけでも定まったわけでもありません。周りに言い訳するために恋人という関係をでっち上げましたけれど、その関係を本物にしてしまって寄りかかるのは彼女の生き方に反してしまう。でも、本音を言うと彼の傍にいるのはただただ心地よい。
それでも広巳に住む所を提供してもらう以上は求めず、リフレを続けて彼に頼り切りにならずに生きていこうとした彼女ですけれど、広巳への頼り方というのはもう少し違った形もあったとは思うんですよね。でも、頼ること自体、彼女にとっては依存になってしまう忌避感に繋がっていたのでしょうか。
そんな彼女の自縄自縛に切れ目を入れてくれたのは、昔から明莉のことを見てくれていた
NPO法人の代表として夜の街を駆け回っている千秋というおばちゃんでした。なんていうんだろう、こういう人って本当にいるんですよね。上から目線の善意の人じゃなく胡散臭い鼻につく格好つけでもなく、自分は可哀想な人たちを助けてるんだという自負に鼻の穴を膨らませているのでもなく、幸せになるのが義務なんですと押し付けてくるでもなく、本当に同じ目線から寄り添う事を厭わず、想いを共有しようとしてくれる尊敬に値する人たちが。
千秋さんの言っていた、依存することは人が自立するためにむしろ必要な事なんだ、というセリフはちょっとした衝撃でありました。
誰かに頼れ、自分ひとりで背負い込むな。そんなたぐいの言葉は聞き飽きるくらい聞いた事があります。千秋の言葉はそれらと意味としては変わらないのかもしれません。でも、依存していいどころか依存することは必要なことなんだ、とまで強い言葉で言われるとハッとさせられるんですよね。普通なら届かない所まで言葉が届く。
勿論依存体質の人にそんな事を言えば逆効果ですし、千秋さんも正しい依存とは誰か独りに頼り切りになってしまうものではない、と。一つの依存を深めるのではなく、小さな依存を増やすのがいいんだ、とちゃんと言葉を尽くしてくれるのですが、依存という関係に過去の出来事から強烈な忌避感を抱いていた明莉にとって、むしろ依存は必要だという真逆の言葉は素直に受け入れられず納得いかないものだとしても、届きはしてるんですよね。しっかりと、明莉の心に刻まれることになる。
それは確かに、明莉の勇気に繋がったと思うんですよね。
誰かに頼る勇気。広巳という人に頼ってもいいんだ、と思える勇気。そして彼に頼り切りに寄りかかるのではなく、本当の自分を知ってもらうことで本物の自分を受け入れて貰うことで対等になる、そのためにすべてを打ち明ける勇気を。
どんな転落人生だろうと、それは明莉にとって必死に生き抜いてきた人生だった。ニセモノの制服を来て仮初の時間を与える仕事についている自分だけれど、後ろめたい間違いだらけの落ちぶれていくばかりだったこれまでだけれど、それこそが明莉にとっても本物だった。
それを彼は理解しようとしてくれた。彼女の、彼女たちの苦しさを辛い思いにお為ごかしじゃない優しさを投げかけてくれた。
それこそが、明莉に自分のこれまでの人生が「本物」だと、後悔はしても否定しない、それだけの勇気を与えてくれたのでしょう。
広巳との出会いは、そして今この夜の世界にいる自分に良くしてくれた人たちの出会えたことは幸せだった、と思える勇気を。
そうして積み重ねていけた勇気は、彼女に「本物の制服」を着る踏ん切りに繋がっていったのでした。
ああタイトルの【ただ制服を着てるだけ】ってここに繋がっていくのか、とエピローグを見て思わず感じ入ってしまいました。
そうして、広巳と明莉の関係は、こうしてお互いを「支え合う」関係に至ったんじゃないだろうか、と思いつつ、読後の余韻を噛みしめるのでした。