【オーク英雄物語 3 忖度列伝】  理不尽な孫の手/朝凪 富士見ファンタジア文庫

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オークの英雄はドワーフの国で花嫁を手に入れるため、闘士となる――

「あたしの闘士になってくれ!」

オークの英雄バッシュは訪れたドワーフの国で、ドワーフの少女プリメラからプロポーズ(?)を受ける。勘違いであることがわかり、一度は話を断るも彼女が参加しようとしていた『武神具祭』で優勝すれば、あらゆる望みが叶うことを知り――
「女を手っ取り早く手に入れたいってワケか……」
鍛冶師プリメラの闘士となることを決意する。
「あんたは馬鹿力で、剣の腕も大したことない」
「……間違ってはいない」
バッシュのことを知らないプリメラの心配をよそに、英雄は武を示し、当然の如く大会を勝ち上がっていく!
前回のエルフの国編、あとになって振り返ってみるとバッシュはオークらしくエルフ好きでもあったから終始テンション高かった気がする。勿論、顔には出さないにしても。
それに比べるとこのドワーフの国では、ドワーフちょっと無理めです、になっているせいかわりとテンション低めだったように見えるなあ。人間とのハーフであるプリメラはバッシュの好みからしても可愛かったので彼女にプロポーズするために頑張ることになったものの、それでもサンダーソニアなどと比べると……となってましたもんね。
サンダーソニアさん、マジでドストライクだったんだよなあ。今からでもサンダーソニアさんてばいくらでも挽回出来そうなんだが。
それはそれとして、テンション上がりきらなくても手を抜かずにきっちりと与えられた役割を文句も言わずやり遂げようとするバッシュさん、マジ生真面目である。いや実際プリメラにかなり理不尽な物言いされているにも関わらず、バッシュさんてば謙虚ですし誠実に対応し続けてるんですよね。
彼の目的が女目的、嫁取りのためだとしても、下心があったとしても、彼の女性への誠実な対応はなんらくすむものじゃないんだよなあ。
バッシュがオーク英雄として各種族に畏怖されるのはその強さ故なんだろうけれど、ただ強いだけの粗暴で無軌道な輩なら決して英雄とは呼ばれないのである。種族問わず、このドワーフ編では皆から尊敬の目で見られ、闘士たちは彼と試合でも戦えることを歓喜し、職人たちは彼に武器を使って貰えるだけでも咽ぶほど、憧れ讃えられるのはバッシュの強さが威徳を伴っているからなのでしょう。
そしてバッシュは、嫁取りが目的とは言えその振る舞いも内心も、周りがオーク英雄として見ているバッシュとズレがあるわけじゃないんですよね。見てくれも中身もバッシュは見事なほど英雄なのである。お嫁さん欲しい、で頑張ってることすら愛嬌である。
だから、周囲の評価は決して勘違いや誤解じゃないんですよね。一周回って、正確な評価になっている。過剰に持ち上げられてるわけじゃないのである。
とはいえ、彼が童貞でそれを隠して嫁取りのために旅をしている、というのを英雄が世直しのために旅をしている、と勘違いされているのも確かで。でも、実際見てみると結果的に確かに世直しの旅になっているし、バッシュの行動は英雄のそれであり、内面の方もオークの戦士としての矜持があり謙虚があり勇猛さがあり、男としての女性に対する配慮があり優しさがあり、まあ一言で言って格好良いんですわ。つまり、誰もが想像するオーク英雄バッシュという姿は虚像ではなく実像そのものなのである。だから、勘違いされているにも関わらず、全然勘違いじゃない、という矛盾した結果になっているの、面白いなあと思うんですよね。

でもこうしてみると、各国ともに戦後の混乱が戦時中の闇を引きずったまま現在に禍根を残しかねない状況になっているんですよね。せっかく訪れた平和を脅かす闇が、各国にはわだかまっている。
それを戦時中の英雄であるバッシュが、種族の枠をこえて解決して回っているという姿は、平和の価値を示すと同時に未来への希望ともなり、過去の英雄が平和になっても英雄として平和を守ってくれるというのは、戦争しか知らない世代が、兵士や戦士たちが過去の産物となって置き去りになって燻っていくその閉塞感をぶち破ってくれる象徴にもなるんですよね。
この『武神具祭』でも戦争で名を馳せた幾人もの英雄たちが選手として登場しますけれど、戦争という舞台を失った過去の遺物として錆びついて打ち捨てられていく、という恐れみたいなものが垣間見えたんですよね。でも、オーク英雄バッシュと相対することで彼らの錆は落とされ、彼らは胸を張って過去の戦いを誇れるようになっていった。恐れは憧れとなり、憧れは希望となってくれた。
バッシュは何もしていないかもしれない。彼は彼としてやるべきことを、やりたいことをやっただけかもしれない。彼らを救ったのは、彼ら自身なのだろう。でも、彼らが自らを救うことが出来たのは、バッシュの存在があったから。
プリメラが自分の技量に分不相応な肥大化した自信を抱いて盲目になっていたことに対して、バッシュは何もしていない。ただ言われた通り、プリメラの指示通りに戦っただけ。誠実に真面目に、謙虚に彼女の理不尽で理の通っていない見当違いの叱責に怒りもせず応え続けたのみである。
でも、その物言わぬ誠実さが、プリメラに自分の未熟さを自然と理解させ、彼女に自分の非を、恥知らずさを受け入れさせたのなら、やっぱりバッシュは英雄なんですよね。
勘違いだけど勘違いじゃない。胸のすく痛快できもちのよい英雄譚でありました。
ほんとに彼には最終的にはちゃんと嫁貰えてほしいなあ。