【百花宮のお掃除係 4 転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。】  黒辺 あゆみ/しのとうこ カドカワBOOKS

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潘公主をみんなが見惚れる良い女にしようと、食事改善に運動指南にと奔走する雨妹。しかし不調の原因の根本は、黄一族のお家騒動であり、都から嫁いできた潘公主に排他的な屋敷にも問題があった。不器用ゆえにすれ違っている潘公主と利民が心を通わせられるよう、恋のキューピットとしても雨妹は大活躍! しかしついに、利民が統治する佳の地を奪おうと黄県主が動き出す。海賊の襲撃で、雨妹は救急箱片手に戦場を駆け回り、さらには黄県主と直接対決へ――!?
雨妹を同じ国内とはいえ皇帝家の権威が通じにくい(通じないとは言っていない)黄家の領地に一人置いて帰る、という事に関しては立勇がついているから別に不安視していなかった、というか何とも思っていなかったのですが。何しろ、雨妹は公式にはただの女官で掃除係ですからね。むしろ立勇がついているだけでも大盤振る舞い。少なくとも黄家の使用人たちの嫌がらせからは立勇がいれば守ってもらえる、精神的なイビリはそもそも雨妹には通じない、という訳で護衛だなんだという件については特になんにも考えていなかったのですが。
父である陛下からするとそうも言ってられなかったのかもしれない。
まさかの虎の子である直属の隠密集団を雨妹の護衛のために派遣していたという過保護っぷり。それも立勇が驚くくらいの大物、恐らく隠密の長か一番の腕利き、或いはその両方をリーダーとしたガチの最優部隊っぽいんですよね、これ。それをわざわざ自分の元から離して、雨妹の護衛のために派遣してくるという……本来なら別に危険な土地というわけでもなかったのに。
とは言え、海賊退治などで荒事に巻き込まれるはめに……正確には首を突っ込む事になったので陰の護衛が居てくれたのは大変助かったのですが。それに、彼らが居てくれたおかげで立勇が安心して雨妹の元を離れて、ある意味雨妹を一見無防備に一人にすることで囮代わりにすることも出来たので大変に役にたったので陛下の先見の明が光るのでありました。さすへいか。
陛下、元は反乱を平定したりと超やり手の皇帝として名を馳せていたのが近年では随分と燻ってしまっていたようなのですが、最近とみに気力精力を取り戻して往時の名君としての顔を再び見せるようになってきたという話なのですが、さていったい何があったんでしょうねえ。

さても、黄家…それも黄県主という家の癌みたいな女性とその影響下にある使用人たちによって影に日向に嫌がらせを受けながら、図太くスルーしたりそもそもイビリと感じなかったり、しつこく絡んでくる相手には口八丁で追い詰め、皇家の権威も利用してぶちかましてやったり、とまったくダメージを負うこと無く、潘公主のダイエット管理をしながら夏のバカンスを満喫する雨妹。
うん、これ完全にバカンスですよね。海の幸を堪能し、交易の港町特有の賑わいや異国の風情を満喫したり、現地の発明家が作っていた自転車の原型と遭遇して大はしゃぎしたり。
いやこれ、後宮に自転車が普及する流れじゃないですかー。立勇も気に入ってしまったので、軍の方にも導入されてしまいそうな勢いですが。ゴムなしチェーンなしだとまだまだ乗り心地はしんどそうですが、移動手段が馬車と馬しかない中で狭い都市内や広い後宮みたいな屋内では利用価値もあるんだろうか。
しかし、相変わらず立勇とはいいコンビである。いざというときお互い言わずとも何をやりたいのか察して合わしてくれるところなんか、以心伝心と言ってもいいくらいかも。皇家の権威を利用して突っかかってきた連中をやり込めるときなんかの、打ち合わせもしていないのにポンポンと掛け合いで相手を追い詰めていく様子は痛快ですらありました。全然ベタベタした様子のない二人ですけれど、気心はしれあっていると見てもわかるんですかねえ。潘公主からは恋人同士だと勘違いされる始末で。
まあ雨妹からすると、今更恋愛ってもんでもないですし、頼りにはしているけれど立勇に特別な感情は抱いていない……と、思っていたのですが、しばらく立勇が自分から離れて海賊退治に同行していたときは結構本気で心配していましたし、いや死んじゃったらちゃんと弔ってあげないと、とかその時はその時で微妙に割り切っていたというかサッパリしちゃっていたのは苦笑ものでしたが。
でも立勇には一緒に居てほしいな、と思う瞬間があったのは確かなので、なるほど乙女的な情動もちゃんと彼女の中では働く余地は残っているのかもしれませんなあ。

逆に乙女回路全開なのが、本当は雨妹の異母姉にあたる潘公主。現状では結婚した黄家の利民とはすれ違ってしまっているのですけれど、お互いなんだかんだと両思いなんですよね。勝手な思い込みでお互いにあんまり好かれていないと勘違いしているのを、雨妹がダイエット管理や美容指導などで後押しして改めての縁結びをすることに。
わりと高貴な身分の女性に対してのものとしては常識外の提案をする事の多い雨妹なのですけれど、固定観念などで反射的に拒絶せず、何でも好奇心たっぷりに興味を示して話を聞いてくれて、論理的に受け入れてくれる潘公主はやりやすい人ではあったんですよね。
イビリによってストレス障害、精神的に追い詰められていた潘公主ですけれど、だいぶ文化の違う黄家に嫁いできたようにむしろ図太いくらいの人なんですよね。根っこの部分であっけらかんとして前向きだったり好奇心の固まりだったり、とこうしてみると案外雨妹と似ている部分が多くて、なんだかんだと姉妹なんだなあ、と思わせてくれる所でありました。
明賢太子もその辺似てる感じがあるので、血の繋がりなんですかねえ。皇帝陛下の好みって派手めよりも普通な感じの人だったり、前向きで明るい感じの人だったりするので、子供達の中にもそういう部分が引き継がれている子たちがそこそこ居るのかもしれません。

結局、ひと夏まるまる海で過ごしていたのか、雨妹は。後宮に帰ってきた時に、おかえりと迎えてくれる人たちがいて、心からただいま、と言えることに気づいた雨妹。ただ趣味が高じて後宮ウォッチングだー、と入り込んだ百花宮ですが、今や雨妹にとってそここそが帰るべきホームになっていたんですねえ。それに気づけただけでも、良き出張編でありました。