【ルーン帝国中興記~平民の商人が皇帝になり、皇帝は将軍に、将軍は商人に入れ替わりて天下を回す】  あわむら赤光/ Noy GA文庫

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それは、奇跡の一夜の物語。
商人、皇帝、将軍が一つの酒席で議論を交え、互いの立場を批難し、最後に声を揃えてこう言った。
――だったら、おまえが代わってみろ!
売り言葉に買い言葉で、立場を入れ替える三人。
帝室に伝わる秘伝の魔法を使い、その夢物語を現実のものとしたのだ。
そしてその夜をきっかけに、滅びかけの帝国で終わらない復活劇が始まった!
「じゃあ俺、今日から皇帝やりまーす! 」
商人セイは皇帝となり民が富む善政を敷き。
皇帝ユーリは帝室魔術を戦場に持ち込み。
将軍グレンはその剣で市井の平和を守る。
そう。彼らは今、ここでこそ輝けるのだ!
己の真価を発揮させ、適材適所に響き合う三英雄共鳴のシャッフル戦記、開幕!!
これ、後世から歴史として語られる視点があるからには、三人の入れ替わりって表沙汰になっているんだ。
最初は、セイとユーリ、グレンの三人が顔が一緒のそっくりさんでも何でも無く、見た目完全に別人にも関わらず入れ替わり出来ているし、歴史書にも入れ替わりが記述されている事から最初から周知の上で立場入れ替えたのかな、と思わされたんですよね。
いや、そんなの周辺が認めるのか? どうやって認めさせたんだ? とか思いながら。あくまでセイが皇帝やるのも代理として押し通したのかな、とか考えながら。
そっかー、魔術魔法ありってそういう事だったのかー。
前作が完全に魔法などのファンタジー要素なし(動物使役はあれファンタジーだよね)の戦記物だったのが、今回は魔法有りと宣言していらっしゃったので、てっきり戦場で火の球が飛び交ったり矢避けの風魔法とか、土木の土魔法とか派手な魔法が飛び交うそういう魔法ありの世界観なのかな、と思い込んでいたのですが、魔法ありとは言ってもかなり存在自体が限定的だったんですねえ。それも、わりと特殊な扱われ方で。
……いや、これ皇帝陛下の魔法って滅茶苦茶やばいんじゃないですか? ユーリ陛下はそれを戦場で使うことでデタラメな戦果をあげることに成功するわけですけれど、この魔法の効果ならむしろ政治無双出来るんじゃないだろうか。相手の弱みとか情報全部丸裸ですよ?
そういう政争方面に全く魔法を活かす発想がなかったあたりに、この皇帝陛下の政治センスのなさ、というか寝技下手が伺えます。別に正々堂々ってタイプじゃないんですけどね。戦場でグレンと入れ替わって将軍やる際には卑怯も卑怯、これぞ本来のズルって意味のチートじゃね? というやり方で勝利をもぎ取っているわけですし、それで悪びれるわけでもない。
ただ、面と向かってだと嘘や騙しでひねくり倒すことができず、どうしても正論正論で強引に押し通そうとしてしまう性格が、政治方面に不向きなんだろうなあ。若さ故の荒さであり産まれたときから一番偉かった人間であるが故に相手の立場に立ってみるという経験や想像力を働かす場がなかった故の弊害というべきか。
今はうまくいっているけれど、一番いざというときの経験が少ないのがユーリ陛下なだけにいつまでも順風満帆とはいかなさそうなのが彼な気がするんだよなあ。そもそも、ぐだぐだと机上で理論こねくり回しているばかりの政治の場よりも、変転する現実に直面している最前線の方が正論が押し通し易い、とは言っても程度の問題で、最前線の現場だって交渉力や政治力は必要となってくるし人間関係や感情を拗らせた場合一番酷いことになるのも最前線でもあるんですよね。さてどうなることやら。

一方で一番土壇場に強そうなのが、皇帝の座についたセイなのでしょう。商人が皇帝という専制君主をやる、って相当に危ういんじゃないか。利益追求、金を儲けることが至上である商人が、儲けるという視座を踏み台にしてより高所から遠望して、時に損も背負いながら物事を進めていくのが公共であり、それを仕切る政治家の長になる、というのは適性が微妙にズレている上にそうそううまく行くとは思えない部分もあったのですが……いやこれ、セイって人物的にむしろ商人よりも政治家タイプなんじゃないかしら。
商人特有のガツガツした妄念があんまり見えないタイプなんですよね。初登場時も、友人と遊び歩いていたように享楽的で、儲け話に目がない、という感じでもなかったですし。兄弟蹴落として三代目として継いだ大商会も、それ以上大きくする野望とか市場を独占してやろうとかいう我欲も見えず、放っといたら出来た部下たちが勝手に利益あげてくれる、と放任してしまっているようだし。まあ何もしなくても順当に儲けることの出来る構造を作り上げちゃっている、という事なんだろうけれど。
大まかに見て、セイって働き者じゃなくて怠け者タイプなんですよね。身代潰しそうなボンボンの三代目に見えてしまうような。
こういう自分が自分が、ではなくゆったり構えて自分の利益にあまり頓着することなく、必要なことを成せる、求められるというタイプは国政を指導するのにピッタリな人物に見えるんですよね。
実際、セイは皇帝の座についたあと、バリバリと働きまくって改革を進めていく……という風にはせず、凄まじい寝技で国政にはびこる病巣を一網打尽に一掃する方法に打って出ることになる。実に性格の悪さと享楽的な部分がにじみ出るやり方で。

さて、残るもうひとりの元将軍グレンさんはというと、セイの代わりに大商会の運営を……なんて出来るはずもなく。いや、将軍が簡単に大商人になんてなれないですよね。商売なんてやったことないでしょうし、その手に噛むだろう知将謀将タイプでもなく……ってか将軍としてもこの人って一騎当千タイプで組織まとめるのあんまり出来ないタイプだったでしょうこれ!?
いやでも、人望は厚かったみたいだし部下は鍛え上げられて精鋭として前線の軍勢の中でも練度を保ってたみたいなので統率が出来ないタイプではなかったんだろうけれど。
いずれにしても、グレンだけ商人に入れ替わったのに商人してないんですけど!?
この人の場合は商人になる、というよりも平民となり庶民となり市井の側に立つことが重要だったのかもしれない。
でもやってることはこれ、必殺仕事人ですよね!?
さながら時代劇の主人公である。世直しですか?
いやでも、昼間は商家の若旦那、しかし夜になれば凄腕の暗殺者で権力によって守られている表の秩序では仕留めることの出来ない巨悪を、闇から討ち果たし弱きものを助けて回るダークヒーロー。って感じで、ジャンルがなんか違いませんか!?w
いやでも、一番まっとうに格好良くてまっとうにモテてますなあ、グレンさん。モテるべくしてモテている風情、そりゃ女性陣もあんなふうに助けられたり、普段はぼんやりしている中でいざという時あんなに研ぎ澄まされた強さ頼もしさを見せられたら、惚れますよねえ。
それに比べて、エルフ姉妹のチョロいことチョロいこと。ユーリに仕えているエファも、セイのお目付け役として残された秘書官のミレニアも、懐柔のされ方ほだされ方がチョロいチョロい。エルフって種族的にチョロいのか、と思ってしまうくらいチョロいんですが。種族の特性と思われるとエルフも不本意だよな、これ。この姉妹限定だと思われます。

まだ始まったばかりですが、主にセイを主人公としていきなり宗教勢力との主導権争いという聖域に首突っ込んで、盛大に立ちふさがった壁を爆砕してのける結果となりましたが、果たして順風満帆に行くのはどこまでか。いずれどこかで、本職でない立場を適性とセンスだけでぶん回している弊害が出てくるとは思うのですが。
ともあれまだ始まったばかりで舞台は整いきっておらず、多分役者も舞台にはあがりきっていないはず。物語の本番はここからと心得たい。三者のシャッフル入れ替わりという構想がそもそも面白いだけに、ここからどう転がっていくのか期待しています。