【現実主義勇者の王国再建記 XVI】 どぜう丸/冬ゆき オーバーラップ文庫

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この「終焉」は避けられない――

全世界を揺るがした「精霊王の呪い」騒動から二年。
ソーマが統治するフリードニア王国は来たる争乱に備えて着実に国力を高めていた。
一方でフウガ率いるハーン大虎王国は勢力拡大を進め、ルナリア正教皇国に加えて傭兵国家ゼムをも支配下に置く。
かくして強力な戦力を手に入れたフウガは、人類最大国家であるグラン・ケイオス帝国に宣戦を布告する。
この事態に介入すべきか悩むハクヤ。
王国の利を図るならフウガとの敵対を避け、帝国の盟友を見捨てるべきであった。
そして決戦の火蓋が無情にも切られ――。
革新的な異世界内政ファンタジー、第16巻!
うわー、これ一番難易度高そうなルート行ったぞ!? 普通に考えると、世界征服的なことを考えて急拡大を続けるハーン大虎王国は、他国と協力して当たらないといけないと思うんですよね。グラン・ケイオス帝国との戦いを座して見守る、というのはみすみすフウガに帝国の国力を与えることになってしまう。そうなると、フリードニアを超える大陸随一の巨大国家が誕生してしまって、もう太刀打ちできなくなってしまう。と、思ったのですが、どうやらそう簡単にはいかないようで。武力で帝国を打倒しても、マリアのカリスマによって帝室への支持率の高い帝国をハーン国が取り込むことは、内乱の芽を抱え込む上に急拡大によって国家を支える人材が追いついておらず屋台骨がスカスカのために、まともな統治が進まず拡大の勢いは失われ、フウガの武力に基づくカリスマは減じ、ハーン国は張子の虎となるだろう、というのが、ハクヤの見立て。情勢の分析結果だったわけですね。
フリードニアとしては、帝国が喰われるのをただ見ている事が理に適う、という判断だったわけだ。いやあ、これって予測のとおりに行かなかったら取り返しがつかない、という意味でリスク高い判断だったんじゃないだろうか。帝国と同盟してハーン国包囲網を敷き、全面戦争へ、という方針はそれはそれで大変危険ではあったんでしょうけれど。帝国内部の情勢からして素直にフリードニアと同盟、というわけにはいかなかったでしょうし。総力戦は国を問わずとてつもない被害を各国に負わせていたでしょうし、下手をすれば何年も続く戦争になっていたかもしれません。
それでも国家の判断としては間違っていなかったのでしょうけれど。
女帝マリアは一番困難な道を選んだんですな。それが最良だと信じて。
肥大化し、組織として機能不全を起こすほどに硬直化していたグラン・ケイオス帝国。マリアはフリードニアで行われた政策の中でも幾つかを取り入れて、ゆるやかに改革を進めていました。彼女の手腕ならば、時間さえかければそれは成功していたかもしれません。しかし、ハーン国の急拡大と謀略戦によってマリアからその時間の余裕が失われてしまったのでした。
これ、もう無理だと考えたんでしょうね。実質、被害を抑えて帝国を維持できる可能性はなくなった、と。マリアの政治的手腕をしてこの巨大化した帝国を制御しきることは不可能になっていた、と。
だからといって、それを制御できるまでにスリム化しよう、とはなかなか考えられないですよ。言わば、国家の損切り。本来ならそんなこと、周りが許すはずがないんですよね。既得権益の維持、そうでなくても現状の維持は上は貴族から下は一般庶民まで望む所で、概ね誰もが良好と考えていたマリアの統治下でそんなことをしようとしたら、あらゆる階層から反発と抵抗の旗があがったでしょう。たとえカリスマ聖女帝マリアであっても、その地位から引きずり落として阻止しようという勢力がわんさかと産まれ、それは市民からも指示されたでしょう。
しかし、マリアは帝国そのものの解体と再構成を、帝国の権力を握る貴族や軍部、そして民意の抵抗や反対を受けずに、結果的にではあっても皆が享受する形で、仕方ないと諦める形で、皆が賛意を示す形で成功させてしまったんですね。
化け物か、この人。
それもソーマ、つまりフリードニアの協力を得ていたとはいえ、実質フウガ率いるハーン国の侵略を逆に利用して、である。ソフトランディングの極みなんですよね、これ。
さすがにこの難局に、しかも地位を投げ捨てるという行為に、権力の重さに疲弊しきって一杯一杯になっていたマリアは、企みとしては順調にいっているにも関わらずかなり追い詰められていたのも確かで。その意味ではソーマが支えになり続けた、というのは間違いではなく、物理的にも精神的にも国家的にもソーマがマリアの救世主だったんですよねえ。
なんか、見事にメインヒロインしてたなあ、マリア陛下。いや、凄いのは結局国としての救済と共に自分自身、個人としての自分をも幸せにしてみせたことでしょう。自己犠牲で何もかもを救ってしまう聖女なら掃いて捨てるほどいるでしょうけれど、こうも自分ごと周りも大事な妹もみんな助けてみせたのですから。
そしてある意味切り捨ててしまった側の人達も、打ち捨てるのではなく新たな天地で生きることを押し付けではなく、自ら選ばせたわけですからねえ。そりゃあ、終わった後その切り捨てられた側の人たちが全部陛下の手のひらの上だったのか、と呆然とするのも無理ないですよ。
正直、マリアとジャンヌが個人的な幸せを手に入れるシナリオって想像できていなかったのですが、その出来ない想像を遥かに上回る形で見事にソフトランディングさせてみせたことには、感服の至りでありました。
でも、マリアが側妃というのは旧帝国の人たちはちょっと不満を募らせるんじゃないだろうか。本人の希望とは言え。
あと、ユリガがフウガの妹という身分である以上、政略結婚となれば相手はソーマしかいない、というのは理解できるのだけれど、できればいつもつるんでいたイチハくんと結ばれて欲しかったなあ。いや、今となってはユリガとソーマって年齢差もあるし、あんまり夫婦関係とか想像できないんですよねえ。ユリガちゃんは、ソーマだろうとイチハだろうと特に恋愛感情無くてビジネスライクなので、フリードニアに残れればどちらでもいいのかもしれないけれど。

しかしこれ、終わった結果としてハーン国の判定勝ち、とか言ってるけれど、傍から見てもフリードニアを中心とする海洋同盟の全土の戦力展開によるプレッシャーで、そのハーン国の侵攻が彼らの意思ではなく止められて(しかも実際戦闘行われてないからフリードニアは無傷で)、帝国を征服することは叶わずに解体されて、帝国の領土と過激派の人材は手に入れたものの、帝国の中軸となっていた国はジャンヌが女王となって海洋同盟に加わり、カリスマだった女帝マリアはフリードニア国王に嫁ぎ、となると帝国を吸収したのってむしろフリードニアに見えますし、圧倒的判定勝ちでフリードニア、にしか見えないけどなあ。

一応、このままハーン国との全面対決、ではなく今後はハーン国、魔族領への侵攻に舵を切るらしく人間同士の総力戦はなくなったようなのですけれど、さてついにこれまで謎とされてきた「魔王」が現れるのか。作品としてもクライマックス近づいてきたんでしょうかね。