【勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録】  ロケット商会/めふぃすと 電撃の新文芸

Amazon Kindle BOOK☆WALKER
世界は、極悪最強の《罪人》勇者たちに託された。絶望に抗うファンタジー!

勇者刑とは、もっとも重大な刑罰である。
大罪を犯し勇者刑に処された者は、勇者としての罰を与えられる。
罰とは、突如として魔王軍を発生させる魔王現象の最前線で、魔物に殺されようとも蘇生され戦い続けなければならないというもの。
数百年戦いを止めぬ狂戦士、史上最悪のコソ泥、詐欺師の政治犯、自称・国王のテロリスト、成功率ゼロの暗殺者など、全員が性格破綻者で構成される懲罰勇者部隊。
彼らのリーダーであり、《女神殺し》の罪で自身も勇者刑に処された元聖騎士団長のザイロ・フォルバーツは、戦の最中に今まで存在を隠されていた《剣の女神》テオリッタと出会い――。
「力を貸してくれ、これから俺たちは魔王を倒す」
「その意気です。勝利の暁には頭をなでてくださいね」
二人が契約を交わすとき、絶望に覆われた世界を変える儚くも熾烈な英雄の物語が幕を開ける。



勇者も魔王も女神ですらも、この世界では敬意を込めて語られる冠ではなくてただの記号なんですねえ。女神は古代に作られた決戦兵器であり、魔王は生物とはいえない現象でしかなく、勇者と言えば死んでも戦わされ続ける死刑よりも重い懲罰の称号。
冷たい世界だ。
主人公が、無理やり戦わされる立場の罪人であり、まわりもまた人格破綻者の重罪人ばかり。周囲からの目は負の感情のものしかない、となると見えてくる世界そのものが暗いものになってくる。
そんな中で偶然ザイロが目覚めさせ、契約してしまった女神テオリッタが完全に癒やしなんですよね。
自分から喜び勇んで戦場へと飛び込んでいき、急いで戻ってきて褒めて褒めてと鳴きながら懐いてくる姿は、さながらワンコそのままで、そのお尻にブンブンと振り回される尻尾が幻視できてしまう。
もっとも、ザイロにとっては彼女のそんな健気さは癒やしどころかストレス真っ逆さまなわけですけれど。彼にとって、テオリッタに限らない女神たちのそんな献身は、傷口に塩を刷り込まれるようなものなのだろう。女神殺しという罪業は、免罪であると同時に彼自身痛みと共に自身の罪と感じているのだろう。背負い込んでいるのだろう。
テオリッタへの邪険にしているようで、その実大切に傷つけないように彼女が苦しまないようにと過保護なくらい配慮している様子からもそれは伺える。
女神という存在にはそもそも過剰なくらいの承認欲求が刷り込まれていて、その好意も献身も人造のもの、という痛々しさを抱えた存在です。最初ザイロはそんな女神の仮初の感情に嫌悪を抱いているのかとも思えたのですけれど、見ているとそんなふうじゃないんですよね。
彼にとって、女神とは戦う道具ではない。兵器ではない。むしろ哀れで不憫で守るべき存在なのだと思っているようだ。
覚えのない動機や罪を押し付けられて罪人に落とされ、懲罰勇者という死刑すらも及ばない非情の罪罰を課せられて、すっかりやさぐれたようになってしまっているザイロ。元が聖騎士団長なんて思えないアウトローっぷり、荒っぽさや擦れた態度が板についてしまっているザイロだけれど(元々なのか、これ?)、でも根っこは何も変わっていないようなんですよね。
彼は騎士だ。役職としてのそれでも兵科としてのそれでもなく、弱気を助け正しきを守ろうとする真っ直ぐな心意気を、魂を彼はまだ腐らせずに胸に秘めている。本人はもうアウトロー気分なのかもしれないけれど、味方のピンチを見捨てられなかったり、逃げ遅れ見捨てられた労働者を助けに行ったり、とほんとこいつ口は悪いしガラは悪いしイラストからすると見た目もチンピラなんだけれど、不思議とその成すことは本物の勇者めいてきているのだ。
懲罰として刑として与えられた勇者という名前ではなく、その名に本来刻まれているだろう勇気ある者、そして勇気を与える者、としての称号に相応しいような。
はからずも、彼の在りようを目の当たりにして、実際に助けられて、世間の噂や評判、課せられた罪人としての立場に惑わされず、ザイロ自身を信じてくれる人が増えてくる。
女神テオリッタもそうだ。彼女の献身は、最初は刷り込みだったかもしれない。起動して目の前に居たザイロに自動的に寄り添っただけだったのかもしれない。でも、その承認欲求は、褒めてほしいと思ったのはザイロだから。彼女が女神として戦おうとするのはそりゃ褒めてほしいからだけれど、それだけではなくて彼女自身が決めたことだから。与えられた使命とか元から刷り込まれていた指令とかじゃなく、テオリッタとしてザイロが気に入ったから。言動はともかく、なんか自分のことよく邪険にするけれど、騎士として相応しい行動を取り続ける彼にこそ、よくやったと頭なでてほしいと思えたから。
彼女は自分で決めて戦うのだ。だから、ザイロも彼女を哀れな守るべき弱い存在と見做すのをやめて、テオリッタを決死の戦場へと伴っていく。兵器として道具としてではなく、共に戦う相棒として。
そこにあるのは、記号としての勇者と女神ではない。この冷たい世界に、確かに本物の勇者と女神が降り立った。そんな胸躍る光景だった。
いや、あの勇者ほんとにガラ悪いけどね。聖騎士団長やってたときはもうちょっと言動ちゃんとしてたんだろうか。

あと、仲間……仲間? なのかちょっと断言しにくいけれど、同じ懲罰勇者として働かされている同じ舞台の重犯罪者たち。どいつもこいつも個性的を通り越して、人格破綻しちゃっているのだけれど、何人かこいつさっさと死刑にしちゃってた方が後腐れないんじゃないだろうか、という人物がいて、いつでも刻印で殺せるにしろよくまあ生かしてるよなあ、と思ってしまう。それ、ザイロが筆頭と言えば筆頭なんだろうけれど。
ザイロが懲罰勇者とはいえ生かされている、というのは彼を陥れた陣営としては望み通りなのだろうか、それとも予定外なんだろうか。上は上で相当なパワーゲームが行われている、と見ても良さそう。
仲間の中ではやはり陛下が一番キャラ強いですよね。なんだろうあの人、自分が国王と思い込んでいるというヤバい一点以外は、言動すごくマトモなんだもんなあ。いや、マトモとは言い難いけれど国王としてはびっくりするくらいマトモなんだもの。国王じゃない、自分でそう思い込んでいるという一点だけで全部台無しなんだけれど。いやでも実際どうなんだ、この人。元学者先生で来歴ははっきりしているみたいだし、頭おかしくなってるのは確かなので、まさか本物の国王陛下でした、ということはないんだろうけど。……ないよね?