【恋は双子で割り切れない 3】 高村 資本/あるみっく 電撃文庫

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私だけを見て――。こじれた恋は、もうほどけない。

三人の関係が再びうまい具合に収まればと、大人な私は二人のほつれをほどいてあげた。自分の本音に蓋をして――そのつもりだった。だけど、二人はそんな私の想いを汲んではくれなくて、胸のうちを曝け出してなるものかと思っていたけれど、無理だった。耐え切れなかった。
もう我慢なんてしない。私は私のやり方で純君の時間を拘束する。手始めに、部活を作る。うん、悪くない。だから、これからは今までみたいに優しくしてあげないからね、お姉ちゃん。
なんて考えていたら、琉実がバスケ部の男友達に告白されたとかなんとかで、また純君の気持ちをかき乱すような厄介事を持ち込んできて……だるっ。
私の邪魔したら、許さないからね。



ほんとせっせと琉実のケアとフォローしますよねえ、那織って。
放っておけば勝手に自滅というか、純との関係拗らせて自壊してしまいそうなところがあるのに、マメに話聞いてあげるし、純が琉実の方に行くことを後押しするし。ここは任せて先にいけ、ってなもんですよ。
ところが、それで琉実に遠慮してたり自分から身を引いたり、なんてことは全然考えていなくて、むしろ積極的にガンガンと押していく。それこそ、決定的に三人の関係が変化することも恐れずに。
部長とシエナに頼んでアリバイ作って、泊まりに押しかけたりとかその最たるものですよ。
琉実の方はむしろ今現在のバランスの取れた三角関係を心地よく思っていて、いずれ人間関係が変化してしまっても今みたいな三人の関係が続けばイイ、と現状維持を望んでいるのと比べると、そのスタンスの違いが浮き彫りになってくる。
でも、そもそも今のバランスの取れた関係を取り戻させたのは那織であり、自分はガンガン攻めて関係の変化を望んでいるのに、現状維持に力を尽くしているのも確かなんですよね。
ここらへん、那織って自分の意志をぶつける一方で、琉実と純にだだ甘とも言えるんだよなあ。多分、那織が本気で画策したら、琉実と純の関係が壊れてしまうような陥穽を作り出すことは容易だと思うのだけれど、そういうことは絶対しないし出来ないんですよね。
挑発はして誘い促しはしても、最後のキャスティングボートは純に預けてるし、琉実の行動を自分の有利な方に利用したり、という事はしないし。
那織の中ではこれ、矛盾してないのかな。矛盾してないんだろうなあ。こういうところ、ほんと面白い娘だと思う。
ただちょっと余人に理解しきれない異端タイプなだけに、もっと孤立しててもおかしくないキャラなのに、完全に感性と教養が釣り合っている部長:亀嵩璃々須という元天敵の親友が居る上に雨宮慈衣菜という新しい友達が出来、今や純や教授とともに駄弁るだけとはいえ集まって部活動をしようとしている。仲間が出来てるんですよね、それが不思議でもあり微笑ましくもあり。
姉の琉実とも感性合わない所あるから、本当の意味で同好の士とも言えるのは幼馴染である白崎純だけで、寂しがり屋で一人が好きなのに仲間はずれが嫌な娘だった那織にとって、純という存在は依存の対象となってもおかしくはなかったと思うんですよね。純も、自分が見ててやらないと、みたいな所がありましたし。
でも部長と喧々諤々あって親友となり、こうして学校に積極的に自分から居場所を作ろうとしている。純がいないとだめ、という状況じゃなくなってるんですよね。
それが、那織にはいいように作用しているのか。独占欲をたぎらせながらも拗らせずに済んでいるように見えるし、ある意味純を依存の対象ではなく純粋に好きな人として見ることができる余裕があるし、姉にも気を配れるだけのキャパもあるように見える。
その意味では、那織によって関係リセットして元の幼馴染に戻れた琉実の方も余裕あると言えばあるんですよね。色々不安は抱えているにせよ、今となっては自分から動いて純と一度は恋人になったという事実は、自分は変化を恐れないという自信にもなっている。その上で、今の関係を続けたいな、と思っているのは流されての受動的な現状維持じゃなくて、主体的な現状維持志向というべきなのかもしれない。
だから、那織の方はちょっと不満に思っている、純の絶対ハッキリするから今は待って、という発言は琉実的にはむしろクリティカルヒットだったっぽいんですよね。

この場合、追い詰められているのは純だと思われ。ちょいちょい誘惑されたり無自覚にアピールされたりしてる一方で、決定権は預けられちゃっているので流されようがないし、彼からは全く自分で動いていないという自覚があるので、情けない思いもしている。でも、前に琉実と付き合って一方的に振られてしまった、という自分から動いてないけど失敗体験もしているので、現状の良い関係を壊したくないという恐怖感は彼が一番持ってるんじゃないだろうか。人間関係を変えてしまった際のネガティブな体験をしてしまっているだけにねえ。
その上で、双子のこと両方とも好きという自覚もある。琉実のことは執着じゃないの?とか教授に言われてりもしているけれど、執着だって好きだから、という理由由縁もあるよねえ。
この場合、一番余裕なくて追い詰められだしているのって、純かもしれないねえ。琉実はそのあたり、相手からしてほしいがメインの娘で自分からあれこれ与えるタイプじゃないっぽいし、那織は琉実にはダダ甘だけど純には……純にもダダ甘と言えば甘いんだけど、甘さの方向性が違うというか追い詰めといて押し切らないでいてあげる甘さだからなあ。
ラストの展開からすると、外圧による予期せぬ方向からの変化がもたらされるのかねえ。

まあ今回は部活結成のために那織と純に加えて、部長とシエナ、教授の五人が集まってぐだぐだやっている様子が思いの外読んでいても楽しかった。部長と那織は遠慮なしに文学作品の文章引用しての会話を、当たり前みたいに自然にやってて、こいつらの頭の中どうなってるんだろうとほとほと感心させられてしまいますし。
純と那織と琉実の三人の一人称を交互に繰り返す方式ですけれど、相変わらず三人それぞれ思考回路というか、世界観の違いが文章読んでるだけで伝わってくるくっきりとした空気感の違いというか雰囲気の差があって、こういう感性のかき分けが出来るって凄いなあと思うんですよね。
「おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた」
の「タンポポ娘」からの引用は、なんか覚えがあるなあ、と思ったらそうか、CLANNADのことみシナリオで使われてたのか。