【奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳】 紺野千昭/大熊まい GA文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER
秘の巨竜が棲む“迷界”から少女を救い出せ!

知略と勇気で未知の世界を切り開く、異界探索アドベンチャー!

門の向こうは未知の世界─迷界(セフィロト)─
ある界相は燃え盛る火の山。ある界相は生い茂る密林。
神秘の巨竜が支配するそこに数多の冒険者たちが挑むが、生きて帰れるかは運次第──
そんな迷界で生存困難になった者を救うスペシャリストがいた。彼の名は「救助屋」のユーリ。

「金はもってんのかって聞いてんの。救助ってのは命がけだぜ?」

一癖も二癖もある彼の下にやってきた少女・アウラは、迷界に向かった親友を救ってほしいと依頼する。

「私も連れて行ってください!」

目指すは迷界の深部『ロゴスニア』。
危険に満ちた旅路で二人が目にするものとは!? 心躍る冒険譚が開幕!
人の常識が及ばぬ世界。人知を超えた生き物が生息し、理解不能の生態系が形成され、計り知れない現象が吹き荒れ、常軌を逸した法則が横たわる。
とても人が生きていけない異界。そんな人類に足を踏み入れられる事を拒む世界に分け入っていく冒険譚というと、まず【メイドインアビス】なんかが思い浮かぶけれど、他にはどういうものがあるんだろう。直近ではちょうど水上悟志先生の【最果てのソルテ】がマンガ連載真っ最中だ。ハンターハンターの外の大陸なんかもまさにそんな人が生きていけない前人未踏の領域外だろう。
この物語で幾多の冒険家たちが挑む「迷界」と呼ばれる世界も、そんな人知を超えた世界だ。主人公のユーリは、そんな迷界で遭難した冒険者たちを法外な金額と共に救出する銭ゲバだが名うての救助屋と呼ばれる存在である。
物語は、彼が一人の少女から迷界に家出したという一人の少女を救助して欲しい、と依頼されることからはじまる。依頼人であるアウラは素人ながら自分もその救助行に連れていけ、という。
素人を連れての冒険行だ。でもそれは、何も知らない何も見たことのない狭い世界に閉じ込められていた子に、初めて見る光景を、体験を、世界を与えるということである。
まさしく冒険だ。
危険を犯しても、日常では体験できない稀有な出来事を、景色を、その身で見て聞いて体験する。未知を実際に見るのだ、感じるのだ。そして誰もたどり着いたことのない場所へと辿り着く。
それを、冒険という。
迷界は、その大半が人が生存できない領域だという。人間たちが踏み入っているのは、ほんの僅かな範囲だけだ。さすがに、素人を連れて前人未踏の地へとは踏み入らない。ユーリは普段から救助屋として迷界に潜っているけれど、それは先人が切り開いたルートを辿っているだけで新しい未踏の地へと踏み入っている様子はない。だが、たとえそれ以前に人が通り、歪んだ法則をルールを探り当てて通過する方法を見つけ出してはいても、それは安全が約束されたルートとはかけ離れている。
人がどれほど努力しても、技量を高めても、ほんの少しの運の悪さで、人間ごときが何をどうしようと抗えない一方的な理不尽で蟻のように潰されてしまう世界だ。
アウラは、迷界でそんな人間のちっぽけさを、卑小さを実感させられることになる。どれほど練達の冒険者であっても、どれほど迷界に行き慣れたベテランでも、あっさりと虫けらのように、或いはそれ以下の無価値な存在のように抹消されてしまう存在なのだと思い知らされる。
それは圧倒的なまでの理不尽だ。本当の意味で人の力が及ばない運命だ。
それまで無力感に縛られ、抜け殻のように死んだように生きてきたアウラにとって、今まで培ってきた価値観を踏み潰されるような大きな衝撃だったのだろう。人のちっぽけさを感じると同時にこれまで自分が味わってきた理不尽のちっぽけさをも味わったのだ。
一方で、見たこともない聞いたこともない想像も出来なかった景色が、光景が、体験が、感動という言葉では言い尽くせないほどに心を振り回し、固まっていた魂を揺さぶっていく。
ああ世界はこんなにも……。
そうして彼女は、閉じた自分の中の世界に収まらなくなっていく。絶望と諦観に囚われた檻に閉じこもっていられなくなっていく。いや、最初から彼女は自ら檻から飛び出していたのだから、資質はあったのだろう。たとえそれが、自分の世界を終わらすための旅のはじまりだったとしても、終わるための旅だったとしても、彼女はユーリの元を訪れた時点で冒険をはじめていたのだ。

まだどうしてユーリが救助屋なんかをしているのか。主人公であるはずの彼の背景は明かされていない。どうしてそれほど金に執着するのか。あの若さで熟練の冒険者というに相応しい経験を持っているのか。アウラとの冒険行では突き放したような冷たさを一切見せず、素人の彼女に懇切丁寧に説明を繰り返し(その割に「言ってなかった」となぜその段階になってから言うんだもっと事前に言っとけ、というパターンが多かったけれど)献身的なほどにアウラを助け続けていたのを見ると、冒頭の人の命を金で叩き買うような陰検さはあんまり描写する意味がなかったようにも思うのだけれど、彼の描かれていない過去には必要な要素になるんだろうか。いずれにしても、アウラの旅ではなくユーリの旅がはじまる時にそれは明かされていくのだろう。
次なる冒険の旅が楽しみな新作でした。