【ブービージョッキー!!】 有丈ほえる/Nardack GA文庫

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「わたしの馬に乗ってくれますか?」
若き騎手の前に現れたのは――超絶美女の馬主だった!?
萌えて燃える、熱狂必至の競馬青春コメディ!

19歳の若さで日本最高峰の重賞競走・日本ダービーを制した風早颯太。
しかしそんな栄光も今は昔。勝てなくなり、ブービージョッキーと揶揄される颯太の前に現れたのは――
「この子に乗ってくれませんか?」
可憐なサラブレッドを連れた、超セレブなお姉さんだった!?
「わたしが下半身を管理します! 」
「トレーニングの話ですよね!?」
美女馬主・美作聖来&外見はお姫様なのに中身は怪獣の超優良血馬・セイライッシキ。
ふたりのセイラに翻弄されながらも、若き騎手は見失っていた情熱を取り戻していく。
「あなたのために勝ってみせます」
萌えて燃える、熱狂必至の競馬青春コメディ。各馬一斉にスタート!

これ、イラストでセイライッシキがめちゃくちゃ美人に描かれてるんですよ。これが凄い。なかなか馬をこんな美人に描くのって難しいと思うんですけれど、これはグッドルッキングホースですわー。
もう見た目で惚れてしまいます。
ちょうど先月にも競馬をテーマにした【12ハロンのチクショウ道】という作品がオーバーラップノベルスから登場しましたけれど、あのメインとなる馬が人間並に賢い馬……というか、あれ中身おっさんだろうw 中の人が元人間の転生体っぽいのに対して、このセイライッシキは真っ当に馬なんですよね。
草食獣でありながら、その気性の荒さが強く出ればそれはもう猛獣か、という競走馬…サラブレッドの非常に難しい生態が全面に出た馬でした。決して人に気を許さない、気高く荒々しい一匹狼。
そんな気難しいプリンセスを、美人な馬主からご指名で託されたのが、一年目に直前の騎手の怪我による乗り替わりという幸運で、ダービージョッキーになってしまった。そしてそれ以後スランプに陥り一勝も出来なくなってブービージョッキーと揶揄されるようになった若き新星・風早颯太。
これは彼を中心に、騎手、馬主、調教師、厩務員という馬に携わる、競馬という戦いに人生を投じる人間たちの熱くも色濃いドラマとして描かれる競馬小説でありました。
ファンから見た競馬場で馬たちが走る競馬というよりも、トレセン……トレーニングセンターで日々競馬関係者たちがどんな風に馬と付き合っているのか、そういう観点から描かれた競馬界という感じなんですよね。競馬場の空気と、トレーニングセンターの空気とはまた違っている、というのが伝わってきます。なんていうんだろう、馬と生活している空気感があるんですよね。日常の中に馬がいる、いや馬を中心に日常がある、というべきか。それでいて、牧場みたいな自然とともに、という牧歌的な雰囲気ではなく、どこか緊張感も漂っている。それはトレセンという場所がレースに勝つ馬を育成する場所、鍛え上げる場所として成り立っているからなのでしょう。そして、そこで生きる人は皆、レースに勝つためにそこにいる。馬とともに走るためにそこにいるのである。そんな馬を世話するために、育て上げるために毎日毎日馬と向き合っている。
でも、最初主人公の颯太は馬と向き合えなくなってたんですよね。栄光のダービーをひょんなことから奪取してしまい、しかしそのレースで勝った馬が怪我をしてしまっていた。それが果たして彼の騎乗によるものかは明言されていないのですけれど、颯太はそのことに責任を感じスランプに陥ってしまってたのである。
そんな彼に、かつて幼い時にある約束をかわした女性が馬主となって1頭の馬を連れて現れるのである。それがセイライッシキ。彼が怪我をさせてしまったダービー馬の、父馬も母馬も同じ全妹となる馬でした。
しかし、このセイラがまた気性が荒い。まともに人を乗せようともせず、調教もろくに出来ない。
このセイラの描き方がまたいいんですよね。馬という生き物の難しさと、だからこその魅力というものが溢れんばかりに伝わってくる。馬だって生きてるんだから、色んな感情があるんですよ。人と何もかわらない感情もあれば、馬独特の感性もある。すごく感情豊かで、1頭1頭個性的で全然違うんですよね。競走馬たちのエピソードを見ていると、愛おしくなってきますよ、彼らのことが。その一端を、このセイラを通じて感じることが出来るんじゃないでしょうか。
一筋縄では行かない、若駒故に自分で自分をコントロールできずに荒ぶる姫君。セイラは人間じゃないしちゃんと馬として描かれているんだけれど、ちゃんと登場人物の一人なんですよね。人間の側からどう馬を理解し馬と繋がっていくか、ってだけじゃなくて、セイラの方だって馬なりに思うところがあり、レースへの向き合い方があり、自分にまたがる人間に対しての思いがある。馬は何も語らないけれど、言葉は通じないしだからこそその意図を感情を本質を汲み違えることはあるけれど、でも彼ら彼女らは十分雄弁なのだ。無口で想いとか隠したりするやつもいるし、自分で自分のことがよくわかってない馬もいるんだろうけれど、彼らはその姿であまりにも多くを語っている。
颯太は、自分のことで精一杯でまずなかなか馬側との意思疎通を図ろう、と思う所まで行きませんし、セイラはセイラでセイラの方から人間なんかに距離感縮めたりなんかしない。
人間の方の聖来さんがえらい構ってくれる……厩舎に入り浸ってるわ住み込みでマネージャーしてくれるわ、ともうベタベタなのに対して、馬のセイラの方はツンツンだ。だから、どこかで颯太の方からセイラにアプローチしないといけなかったわけですが、そこまでの道のりが長く険しかったんですなあ。
一時は引退を考えながら、しかし颯太はどう想像しても自分が馬に乗っていない光景なんて思い浮かばない。どん底に落ちて、それでもセイラというチャンスを与えられて、なお失敗した。セイラという希望を自ら貶めた。本当に底の底まで落ちきって、そうしてようやくむき出しの自分自身を目の当たりにするのである。何もかもを喪って削ぎ落として、それでもなお残されていたのは、馬に跨るということ。馬とともに生きること。馬とともに走ること。
颯太に限らず、ここで描かれる騎手たちは、なんていうんだろう…爽やかなスポーツマンではないんですね。勝ち負けに拘り、泥臭いまでに相手を狙い撃つ勝負師たち。彼らにとって、騎手とは職業ではもうないのだ。まさに生き様であり、馬に乗るという生き物なのだ。生業ではなく生態と言っても良い。
そんな彼ら騎手に預ける馬を、手塩をかけて育てるのが馬の世話をする厩務員で。イギリスから留学してきている厩務員のキアラちゃんは、ほんと性格も天使なんだけれどそれ以上にこの作品中でもっともプロフェッショナルだったのはキアラだったんじゃないか、って思えるくらい、仕事への姿勢がかっこよかったんですよね。ただ馬を愛するのではなく、動物を慈しむのではなく、レースに挑む競走馬として完璧に仕上げるプロのお仕事。これだけの仕事をされたら、騎手だって安易には乗れないですよね。厩務員は自分がレースに乗るわけにはいきません。だから、本番となれば騎手に託すしかないわけです。バトンを渡す、というんでしょうかね、こういうのも。
こうしてみると、華やかなレースで馬が走るまでにどれほどの人が関わり、どれほどの努力が費やされ、どれだけの人間の仕事が介在しているのか。レースに実際に出走する、というのが馬主も含めて、共同作業の成果であるというのが伝わってきます。その上で、騎手と馬はレースに勝つために走るのです。

レースシーン本番も、非常に熱かった。レースに出るまでにこれだけの積み重ねがあったからこそ、レースへの意気込み、勝つことへの執念、というのが炎となって現れる。1頭1頭に負けられない理由があり、騎手にも馬にも負けたくないという意地がある。そう意地と意地とのぶつかり合い、執念と夢のせめぎあい。勝ちたい負けたくないという本能同士の叩きあい。
特にクライマックスとなるアルテミスステークスは、臨場感と熱量たっぷりの手に汗握る戦いであり、思わず泣けてくるほどの思いの詰まった、胸滾るレースでありました。
よかった、よかったよー。
まだクラシックにも全然到達していないどころかG1ですらないのに、こんなに熱くなって大丈夫なんだろうか。でも、颯太とセイラの本当の門出とも言えるレースだったのですから、これぐらいは熱くなってくれないと、という想いもあり、だからこそ本番となるG1戦線は非常に楽しみ。
同期の氷室凌馬とのバチバチのライバル意識のぶつかり合いは十分温まってましたけれど、肝心のセイラとパウンドペルソナの馬同士のバチバチ感はまだまだってところだったので、これからに期待したいところです。

競馬関係については、トレセンの空気感とか含めて非常によく描けてたと思います。でも、ところどころ細かい違和感あるところはチラホラありましたかねえ。JRAのロゴのついた競走馬の名前付きの馬運車って、入厩の際にも使われるんだろうか、とか。騎乗馴致出来てないのに入厩とか出来るんでしょうか。ゲート試験もあるのに、とか。ダービー馬の全妹なのにセイラデビュー戦人気低すぎじゃね?とか。まあ違和感程度なのですが。
でも、ラストのアルテミスステークス。あれは颯太の騎乗は多分、かなり叱られると思いますよ、同じ騎手やJRAの裁定委員から。
JRAでは人馬の安全のため、内ラチ沿いから一頭分は開けるように、という指導が入ってるんですよ。
先行していて内ラチ沿いを走るのはいいのですけれど、内柵際から前を走っている馬を抜く行為はまず危険騎乗と判断されると思われます。特に今回の騎乗は、ラチ当たりまくってますからね。実際に多数の馬が落馬するような事故も起こっているので、そのへんかなり敏感です。
あれ、レース後柵の点検補修せんとあかんから、えらいことなっとるやろうなあw
叱られるだけじゃなくて、戒告とか過怠金とか食らうんじゃないかな。騎乗停止まではいかないと思うけど。いや、あれだけラチぶつかってると、どうだろう。ともかく、ヤバいのは確かです、うん。