【百花宮のお掃除係 5 転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。】  黒辺 あゆみ/しのとうこ カドカワBOOKS

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黄家のお家騒動を解決し百花宮へと戻った雨妹(ユイメイ)。中秋節が近づき秋の味覚に心躍らせる彼女に、楊(ヤン)から訪問診療の指名が入る。患者は、訳あって長期療養中の近衛のお偉いさんらしいのだが、彼は雨妹の姿を見た途端、突然顔色を変えて怯えだす。かつては皇帝の側近だった彼が病んでしまった原因は、どうやら雨妹の亡き母にあるようで……?
近衛相手に一喝! 亡き母の呪縛に囚われたオジサマを心身共に救ってみせましょう!
いや、わりとこの近衛のオジサマに興味ないですよね、雨妹さん。
微妙に自分の母が原因だということに責任感を感じているだけで。それも、彼が自分の母とどういう関係だったのかを知って、大方消えてしまったみたいですし。
最初はこの近衛の明さん、母親の兄か親戚なんかかと思ったんですよね。皇帝の妃でもあった雨妹の母を呼び捨てにしたのもあって。
すわ、雨妹の親族登場か! 父方はもうどうしようもなく皇族だから、雨妹が身分明かさない限りは家族として接するのは難しいけれど(わりと接しているような気もしますが)、母方の親族が現れたのなら雨妹にも家族が出来るのかなあ、と思ったんですよね。飲んだくれのダメ伯父さんとかお世話にしがいもありそうですし。
でも、実際は母の親族なんかじゃなく……ええ、そういう関係だったの!?
思った以上にこう、ダメの方向性が違うダメの人だった。これは、雨妹も関心が失せてしまうのも仕方ないなあ。
いや、雨妹ってネガティブな感情を持たないようにしているのか、そういう方向に感情のスタミナを使うよりさっさと無関心になってしまうフシがあるんですよね。常に明るくどんな環境でも楽しみを見出してすごく幸せそうに人生をエンジョイしている雨妹ですけれど、辺境での暮らしからこっち本当なら辛い事の方が多かったはず。他人からはマトモな扱いを受けることがなく、ちゃんと人間扱いされてたかも怪しいんですよね。
その防衛反応かはわからないんですけれど、親しい人間以外はほんとに無関心なところがあるんですよね。本当なら怒りや負の感情を抱いてしまいそうな状況でも、その相手に対してスンと興味をなくしてしまうような相手にしないような感じで。
ただ、本当に無関心になっているのか。完全無視になっているのかは、どうなんだろう。行きずりのあんまり関係ない相手ならその通りかもしれないけれど、母親に対してはやっぱりどうも思う所あるみたいなんですよね、雨妹も。普段はどうでもいい、みたいな顔しているけれど、その心の奥の方ではグツグツと抱えているものがありそうなんだよなあ。

面白いのが、後宮に来た当初は本当にどうでもいい、興味も関心もない、という扱いだったお父様陛下が、今やぐんぐんと株をあげてるというところ。
作中で言われててなるほど、と思ったんだけれど、志偉陛下って雨妹に彼女の母を重ねて見るような事は一切していなくて、あくまで雨妹個人を見て大事にしようとしてくれているんですよね。雨妹のことなど全然眼中になかった明さんを見せられると、志偉陛下がどれほど雨妹の事をよく見ていてくれているのかがよくわかりましたよ。
変に便宜を図って優遇したり、公主にしようなんて素振りを一切見せない所もむしろ雨妹が何を望んでいるのか、というのをよく理解しているように見えます。勿論、皇太后派に雨妹が目をつけられないように、という配慮もあるんでしょうけれど、考えていた以上に雨妹のことを気にかけているんだよなあ。
でもだからこそ、遠くから雨妹のことをそっと見守り続けるスタンスなのかと思ってたら……この人、我慢できなくなって会いに来ちゃったよ! 思ったよりも堪え性がない!
いやでもタイミングとしては悪くはなかったと思うんですよね。もっと前だと、父親に対する好意なんて全然なかったから、会いに来ても思いっきり塩対応だったと思いますし。
今は、親として全然ダメだった母親の行状なんかと比べると、志偉陛下は皇帝としてなかなかの偉業を成していらっしゃいますし、父親としても適切な距離感で自分のことを誠意を持って大切にしてくれている、というのが伝わっているので、親としての評価も好意もうなぎのぼりでしたからねえ。
雨妹が見せる父への想いの片鱗、見直したみたいな口ぶりだけどそこに確かな熱がこもっているのを見せられると、親という存在に対して冷めて突き放したような態度だった雨妹にも確かに親の愛情を求める気持ちはあったんだなあ、と思わされてしまいます。
前世の老年まで過ごした記憶があり、精神的に老成したところがあると言っても、今世ではまだ若い娘なんだし、そうそう達観もし切れないですよねえ。
そういう意味では、雨妹に家族への愛情みたいなものが灯るのは悪くないどころか良い事だと思うのでした。そのあたりの家族愛は、明賢兄様が温めてくれていたとも言えるので、志偉陛下はもっと太子殿下を優遇するがよいぞ。
しかし、雨妹にいいところ見せようと張り切りまくる父陛下がちょっとどころじゃなく微笑ましいのだけれど、大人気もないですw
おかげで立勇くんがとばっちりじゃないか。その立勇も、なんか職務抜きで雨妹の護衛というか庇護というか見守りに熱心になってきてますけれど。剣術大会への参加も、そのあたり関係してますしねえ。
そもそも、雨妹の性格というか心情というか、あのエンジョイライフと食い意地への最大の理解者が立勇ですもんねえ。あの娘の希望を一番わかってるの、この男でしょう。分かった上で、それもひっくるめて守ろうとしているあたり、そりゃあ愛娘馬鹿になってる志偉陛下にも目をつけられるというものである。
あれ、それだけ立勇のことを見込んだ、とも取れるのですけれど。