【フシノカミ 6 ~辺境から始める文明再生記~】  雨川水海/大熊まい オーバーラップノベルス

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凶暴な人狼に永劫の眠りを

『古代文明の伝説にあるような便利で豊かな生活』を今世に取り戻すため、文明の再興を続けるアッシュ。
その隣には、武芸王杯大会を制し、晴れて婚約者となったマイカが並ぶ。
そんな2人の婚約パレードを先導するのは――蒸気機関自動車。
機械仕掛けで動くそれは、領都の内外に圧倒的な衝撃をもたらした。
一方、裏ではアッシュたちの功績を良しとしない者たちが不穏な動きを見せる。
中央貴族のダタラ侯爵は、ヤソガ子爵とサキュラ領に潜む反乱分子を手駒として内乱を引き起こそうと画策していた。
さらに、“人間同士の争いは魔物を呼び寄せる"という言い伝えに偽りなく、サキュラ領へと人狼の群れが押し寄せる――。
眼前に迫った圧倒的な脅威を迎え撃つのは、領地改革推進室が生み出した、常識を覆すほどの威力を秘めた新兵器――!
理想の暮らしを手にするため、世界に変革をもたらす少年の軌跡を紡いだ文明復旧譚、第六幕!



ずっとアッシュの事を追いかけ続けてきたマイカ。
その背中を追いかけて追いかけて、ついに追いつき捕まえて、名実ともにアッシュと並び立ってみせたマイカさん……。
つまり、アッシュと同レベルの怪物がもうひとり誕生してしまった、ということなんですよねえ。いやあ、これまでもメキメキと優秀さを見せつけていたマイカだけど、領主の後継候補という立場上あれって大人しいってわけじゃないんだけれど、お行儀は良くしていたんだなあ、と今になって見るとそう思う。
アッシュとの婚約にこぎつけ、国も認める婚約者同士になった途端に、というよりもアッシュを捕まえたという実感こそがマイカに全能感を与えてしまったのか。もうあらゆる意味でアッシュと以心伝心になってしまい、アッシュと同じレベルで怒涛のように進撃し、アッシュ以上の好戦性で牙を剥く。
怪物二号の誕生である。
実際、彼女の本性をよく知らない敵方陣営よりも、彼女のことをよく知っている味方陣営の方がビビりまくってるじゃないですかー。首狩りマイカ、爆誕である。
ある意味、マイカさんこれって原点回帰なんですよね。途中で勉学や領主としての教育に振り幅を傾けて文官として、リーダーとしての知見も増やしていったマイカですが、一番最初の最初、アッシュのために頑張ろうとして夢中になったのが、剣を振るうこと。村を守るために大怪我をしたアッシュを自分が守るのだ、と剣術の鍛錬に狂乱したマイカさん。回り回ってアッシュの隣にたどり着いてみれば、こうしてアッシュの剣として飛び回る機会が増えている不思議。こればかりは、女神ユイカさまも想像の埒外だっただろうなあ。

ともあれ、マイカも婚約者として公私ともにパートナーとなり、強力な比翼として益々アッシュの文明復興活動は邁進しだしたわけですけれど、だからこそアッシュは研究開発の最前線からは段々と退いていっている、というのが面白いんですよね。
レイナ・ヘルメスを中心とした研究所が開発を主導し、アッシュは一線から退いてマネジメント業務の方へと重心を移し始めているのです。蒸気機関などは、アッシュが殆ど開発に関わらなかった、というのは正直驚きでした。
どれほど革新的な技術が開発、発明されたとしてもそれが一般に普及しなければ文明復興とは言えません。なのでアッシュは、旧時代の技術の復興そのものはこれまで育てた人材に任せ、彼らが再開発した技術を特異点ではなく、汎用のものにするための仕組みそのものを社会に構築しようとしだしているわけですなあ。
こうしてみると、アッシュの本質は研究者とか技術者とはまた違った人種であることがよくわかります。あの呆れるほどの根回し上手なところとかネゴシエーターとしての辣腕っぷり、グランドデザインの描き方といい、最前線寄りの人材とは違うんだよなあ。それでも今まではその爆走っぷりで全体を引っ張ってきたわけですけれど、今度は後ろに回ってこれまで引っ張ってきたものたちが自分で動き出したのを、さらに後ろから押しまくりだした、という感じでしょうか。
引っ張り回され引きずり回されるのと、後ろから押しまくられ止まることが出来なくなったのと、どちらが大変かはわかりませんが。
でもいい加減、サキュラの人たちは多かれ少なかれみんな慣れてしまったのが、今度留学生として訪れた有効的な他領の留学生からの視点でよくわかりました。
まあ早速その他領の留学生たちも巻き込まれてるんですけどね。セイレ嬢が、他領の人間なのに事実上サキュラのスパイマスターに祭り上げられてしまったのには笑ってしまいました。本人目を白黒させて意識の方は現状についていけてないようなのですが、なまじ能力が抜群に最優秀なものだから普通にアッシュの尋常じゃないレベルの要求にサクッと応えてしまえているので、多分ほかからみるとセイレ嬢も周りの連中と同類になっちゃったようにしか見えないんだろうなあ。
しかし、セイレさんってサキュラ領でお婿さん物色しているようですけれど、領主代行のイツキ様ってそういえば独身でしたよね? 別にプライベートでの何かがあるわけじゃないんですが、会議とかで結構セイレさんとイツキ様って反応がシンクロしてたり、わりと意気投合してたりして妙に相性良さそうに描かれていたので、ちょっと気になってしまいました。身分的にも釣り合ってるしなあ。

そう、今回はマイカとアッシュが婚約したこともあってか、全体に糖度が高かった。これまでせき止められていたものが吹き出したかのように、お互い惚気まくるアッシュとマイカ。いやまあ、今までも結構内心はアッシュも惚気ていたような気もしますけれど、堂々と口にして出すようになりましたからねえ。
それにあてられたわけじゃないでしょうけれど、表紙のレイナとヘルメスももうこっちはこっちでベストパートナーというか、公私に渡ってベタベタじゃないですかー。いや、夢に向かって一心不乱という意味ではアッシュに引けを取らないヘルメスですから、女性には見向きもしない……ってわけじゃなくちゃんとレイナのこと気にしているのですけれど、それより何より飛行機優先でしたからね。その辺、待ってたら何も進展しないのはアッシュと一緒なわけで。
マイカに負けず劣らずレイナが全力で外堀埋めまくっていたのには笑ってしまいました。もう完全に親公認までこぎつけてるじゃないですかw
今回はアッシュ以外の視点の話も分量多くて、下手したら半分くらいはあったんじゃないかな。その中でもヘルメスとレイナについては結構分量割かれていて、実に良いラブコメをしてくれておりました。
「好き、大好きぃ」
にはもう大変ニマニマさせていただきました。もうトロトロじゃあないですか、レイナさん。
皆さんもいい加減お年頃ですし、恋愛模様も花盛りなのですが王女アリシア様はあれどうするつもりなんでしょうね。肝心のマイカさんが、バッチコイ状態なんですけど婚約者の立場はマイカさんのものですしねえ。サキュラ辺境伯領へと戻ってくる気満々なのは間違いなさそうですけれど、王家の方今の国王陛下はともかく、次期国王の第一王子は普通の俗物っぽいのでちょっと心配なんですよね。
今一番の政敵であるダタラ家の方は、もうアッシュの根回し根回し、あらゆる方面への宮廷から商人から宗教関係からマフィアにいたるまで根回ししまくった挙げ句に、手足切り落とされてあっさり蹴飛ばされてしまいましたけれど。
中央貴族と辺境貴族という対立構図自体はあんまり変わってなさそうなんですよね。魔物の脅威に直面している辺境と、のほほんと彼らを盾にして平和を享受している中央貴族とでは、よっぽどのことがないと意識の食い違いは埋まらないんじゃないかな。今となっては、辺境の開発が一気に進む可能性も高まってきましたから、アリシア姫が辺境に来るって結構複合的な意味を持ってくるのではないか、とうがってしまいます。
魔物の方の事情も、何やら意味深なことになってきましたし。
アッシュのフェネクス卿という貴族号。彼が不死鳥と呼ばれだしたのは偶然のはずなんだけれど、どうやらそれだけじゃない意味が人間の意図しない形で埋められていた、という事なんでしょうかね。そろそろ世界の核心にも近づいてきたようで、クライマックスも近いのか。もうしばらく、この世界とアッシュとマイカの暴れまわる物語を見ていたいのですけれど。