【嘘つき少女と硝煙の死霊術師】  岸馬 鹿縁/ノキト ガガガ文庫

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死は別れではなく、新しい出発だった

死霊術ーーそれは死者を蘇らせ使役する魔導の秘奥。
それを繰る術師たちは国にあだなす存在を密かに粛清するという役割をもって、ヴェルサリウスという国家の陰なる基盤となった。
その術師の一人であるウィリアムは、相棒の”死骸”ライニーとともに龍を使役する盗賊の粛清を行うなか、国を、そして死霊術師たちそのものを揺るがす第二の革命の存在を知る。
革命派の襲撃によってライニーを失いかける絶望の底で、ウィリアムは彼女との再会を願った最初の夜の記憶を思い出していく。
これはたった一人の少女のために、死を否定した少年の物語。
第15回小学館ライトノベル大賞・審査員特別賞受賞作!

彼らには悪たる矜持がある。
死を冒涜する彼らは存在自体が邪悪である。その行いは罪であり、その在りようは負そのものである。
それを自覚し、それを自認し、しかして悪党を名乗りて、彼らは闇側から社会を支える存在だ。悪を名乗って悪を討つ。いわば、ダークヒーローというやつなのだろう。
主人公のウィルを含めて、彼ら死霊術師の生き様は影に隠れてコソコソとするようなものではなく、むしろ堂々と胸を張っているかのようだ。罪人と自らを卑下しながらも、死霊術師になったことをいささかも後悔していない。
死者を復活させるからこそ、決して死を疎かにしない。死を忌避しないが、決して死を招かない。死者を愛するが、決して生者を蔑ろにしない。
不思議と、彼らは生命エネルギーに満ちあふれているかのようだ。決して陰にこもることなく、皆が陽気で明るいというのもあるのだろう。潔く、堂々として決然としているその姿は、いっそ清々しくすらある。
カッコいいじゃないか。

主人公のウィルは、かつて大量殺人事件にて故郷を失い家族を失い、最愛の幼馴染を失った。何もかも無くしてしまった所からスタートした彼は、死霊術師となり失ってしまったものを取り戻そうとして……、そう、取り戻せなかったのだろう。
死は、確かに二人の幼馴染を分かったのだ。
それでも、彼は亡くしてしまったものの残骸に、大事なものを見つけていた。かつての幼馴染の娘にもあっただろうその宝石のような輝きを、彼はずっと大切にしていくことを決めたである。
それは、生きる目的を得たということ。たとえ悪となろうとも、自分と同じ哀しみを少しでも減らすために、彼は幼馴染ではなくなった、でも掛け替えのない相棒といつか力尽き果てるまで、全力で走り続ける。笑いながら、格好をつけながら、堂々と胸を張って。
その生き方をヒーローと言わずして何と言う。その在り方を「生きている」と言わずして何と言う。
死に打ちのめされ、一番大事だったものを失った二人だからこそ、ウィルとライニーだからこそ、今この瞬間を全力で生きている。前を向いて、前進している。絶望なんて吹き飛ばしてやると言わんばかりに。

だから、今回の敵はまったくの対比でもあったのだろう。
彼は生きながら死んでいた。全力で死んでいたと言っていいかもしれない。過去に囚われ、何も取り戻せず何も大事にできず、大切だったものを否定するしかなかった。一歩たりとも前に進めなかった。誰よりも進んでいるようで、誰よりも輝いているようで、誰よりも堂々としているようで……その実、止まったまま動けず、その魂はくすみきり、彼はずっと俯いて背を丸めていたのだろう。
憎んで悪と断罪しなければならなかった事が、彼の魂を引き裂いてしまった。彼には、寄り添うものが何一つなかった。だから、正義を拠り所にせざるを得なかった。そうでなければ、耐えきれなかったのだから。
彼は、死と向き合えなかったのだ。そして、生きることが出来なかった。

この物語は、生きることへの讃歌である。死んでからでも、死体でも、死人でも、心あらば生きてるも同然だ。生きたもん勝ちだ。笑ったもん勝ちだ。
それは死を冒涜しているのかもしれないけれど、でも死んだあとで大切な人と一緒に居たいという生もとまで否定したくはないじゃないか。それはとても罪深いことかもしれないけれど、歪んだ道理に基づいた救いがたい所業かもしれないけれど。血生臭く殺戮に溺れ立ち塞がる悪を踏みにじっていく行為かもしれないけれど。
でもそれは、胸のすくような生の讃歌だ。祝福したくなる、少年と少女たちの生き様だ。後悔なきように、行けるところまで突っ走ってしまいやがれ!


さても、本作は国家所属の公務員たる死霊術師たちの物語である。国命死霊術師と呼ばれる彼らは、公にはその存在を隠されながら、国家のために日々闇を駆ける守護者たちである。
死霊術師と言っても、それぞれ得意分野が違っていて多種多様にあふれている。同じ死霊術でも、まあこれほど多彩に分野をわけられるのか、とちょっと感心したくらい。バトルアクションとしても派手さと描写のスピード感に歯ごたえのある魔術設定と、実に面白みの深い作品でもありました。
痛快で誠実なエンターテイメントアクション作品として、これはグイグイと伸び代のありそうなデビュー作でありましたよ。今回は特にメインの二人にスポットを当てていたので、次は仲間の一人でライバルでもあり意気投合する友人でもあるケモミミ少女と、表の存在でありながらウィルとライニーの在り方に共感し、同じ方向に向いて剣を奮ってくれる女騎士、というこれまたキャラ立っているヒロインたちがいるので、彼女たちの方も掘り下げてほしいなあ、と思うところでしたね。
次回も期待大ということで。