【継母の連れ子が元カノだった 8.そろそろ本気を出してみろ】  紙城 境介/ たかやKi 角川スニーカー文庫

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カップルたちに“本気”の前進!? 恋乱れ咲く神戸旅行編!

会長・鈴理の提案で旅行に行くことになった生徒会。
水斗にいさな、星辺先輩、暁月と川波も誘い出し、勢揃いで向かう先は恋人の集う街・神戸!
港町に温泉街、夜景スポットを巡るなか、それぞれの恋の思惑、駆け引きが繰り広げられ――!?
そんな様子をROM専として眺める川波も、今回は例外ではないようで。
「――あたし、まだ、こーくんのこと普通に好きだよ」
恋愛感情アレルギー体質を治そうと、彼女モードの暁月による荒療治が始まった!
失った“あの頃”の関係、守ってきた一線、そして積み重ねてきた時間を、振り切るのは簡単ではないけれど。
ホンネでぶつかる恋が乱れ咲く、神戸旅行編!!




旅行かー。良いよね、旅行。一番気軽に得られる非日常だ。普段の日常の中では出せない気持ちを、旅の恥は掻き捨て、じゃないけれど表に出せるきっかけになれる。
男女のグループで、というのもいい。全員、彼氏彼女として成立していないカップルだからこそ、常に男女の組み合わせで一緒にいる、というのは息が詰まるってわけじゃないんだけれど、息継ぎが必要なときもあるからね。
同性同士の友達でわいわいと過ごすことで、異性相手には打ち明けられない気持ちをさらけ出す事も、気分転換になるし前向きにもなれる。まあそれも仲良くなければ、牽制し合ったりと気が休まらない逆効果になりかねない可能性もあるけれど、このメンツはそういう意味での器用な人間関係が出来ない娘たちだからなあ……。

……この娘たち、総じてポンコツだし、生徒会なんて役職についているわりにコミュニケーション能力がやたらと下手くそな所あるし。紅鈴理会長にしても、暁月にしても誰とでも仲良くなれるコミュニケーション強者である事と、コミュ力にポンコツな所がある事は矛盾しないわけでして。

うむ、神戸旅行ですってさ。兵庫在住の身なので、よくある東京近辺の話はどうしても外国と一緒の遠い感覚が付き纏うので、あんまり実感湧かないし、ともすれば京都や大阪ですらまあアッチの話だよね、という意識が伴うのだけれど、神戸近辺だとご近所感があってなんか擽ったいですわー、ようこそようこそってなもんで。
でも、外から来ると有馬温泉と神戸はセットなんですねえ。いや、あそこは確かに神戸市北区なんですけど、いわゆる神戸地区ってのは山と海に挟まれた地域で、有馬はその山側の六甲山の向こう側なもんで別地区って感覚なんですよね。有馬温泉行ったら有馬を満喫する、って感じで。でもそうか、公共交通機関使うなら三宮が一番近いし、外から来たら神戸で遊ぶのか。

と、神戸観光も楽しかったのですが主軸は勿論、旅行先での恋人未満のカップルたちの恋愛模様。旅にかこつけて、本気出すと気合い入れた女子たちの奮闘記。ってか、このカップルたちはみんな男が受けで、女が攻めなんですねえ。
そして、それぞれ全くカップルとしての特色が違ってきているのが、こうして並行して描かれると比較されてよくわかるので、面白かった。
肝心の結女と水斗なんですが、今回は大人しめで本筋は川波小暮と南暁月、そして亜霜愛沙と星辺元会長でしたからね。
ただ、愛沙と星辺先輩の話は一番中核として今回の旅行編では描かれていましたけれど、なんていうか表看板? 一番ベーシックでオーソドックスな青春な恋愛を例題として提示します、って感じではあるんですよね。王道に近いというべきか。星辺先輩のバスケで怪我して挫折してから立ち直りきれにまま宙ぶらりんで生徒会長になったものの、今に至り。一方で、こちらも本気になれないまま承認欲求のままに中途半端にあちらこちらにちょっかいかけていた少女が、本気になってしまって下手くそなアプローチを続けていたものの、このままじゃ埒が明かんとなっていつでも逃げ出せる逃げ腰でのちょっかいしかかけていなかったのを、この旅行で本気でぶつかってやる、となった……繰り返すけれど王道とも言える青春の中での恋愛模様なんですよね。
それだけでも十分面白いラブコメではあったんだけれど。
彼らのある意味真っ当とも呼べる青春模様が前面に出れば出るほど、川波小暮と南暁月の絡まりきった元恋人にして元幼馴染という壊れてしまったのに壊れたまま安定してしまった今の関係や、別れた元恋人なのに家族になってしまい、でも改めて好きになってしまって複雑怪奇に進退極まりつつ、何故かそこの東頭いさなという訳のわからんファクターが打ち込まれて意味不明な三角関係になっている結女と水斗、といった他のカップルたちのどないすんねん、という関係性が浮き彫りになったような気がします。
紅会長? この人、一人でぶっちぎりでポンコツ極まってるような気がするんですけど!?
いやほんとに、この人ひとりだけなにやってんだ? と、言いたくなる迷走っぷりなのですが。
それでもバンザイアタックでも、あの存在を自ら消したがってるジョーくんにはそれなりに効果があがってしまっているのが、余計に迷走させている気がするぞ。真面目に、アホになってる気がするんだが、この生徒会長。アタックの仕方、やっぱり間違えてるよね? あんな無理やり思わせぶりにしない方がいいよね? 余計に変な誤解を与えてしまって、ジョーの方にも踏ん切りをつけなくする要員になってしまっているような気もするし。ひたすら攻めて攻めて、という姿勢だけは正解だと思うのだけれど、その毎回毎回自爆ボタンを自ら連打するのはホントなんなんだろう。この人に比べるとマジで結女が恋愛の達人に見えてきてしまう錯覚効果がw

アホなラブコメ真っ盛りな紅会長と比べると、結女と水斗はあれ……なんつうか指絡めて手が触れ合っているだけなのに、なんであんなにエロくなるんだろう。単に触れ合いとかタッチコミュニケーションとか、そういうレベルじゃなくて、お互いの剥き出しの心をこすり合わせて混ぜ合わせるような生々しさがあったんですよね。ああいうところ、文学少年と文学少女らしいというべきか。交感で混ぜ合う情の深度が深いちゅうか、感性の深い部分から触れ合っているような。感受性の性質の問題なんだろうか。
このあたり、他のカップルと色彩が違っていて非常に面白いなあ、と今回はあまり目立った立ち回りしていなかったにも関わらず、目を引くところでありました。
と、この二人だけ、結女と水斗だけで閉じているならまだ分かりやすい関係なのかもしれないけれど、ここに東頭いさなが当然のように混ざってくるから、何が起こってるのかさっぱりわからない三角関係になっちゃってるんですよね。
いやうん、三角関係じゃないんだよ。これは確定したはずなんですよね。三人共が認めている。にも関わらず、混ざっちゃってる不思議。さらに、ここにいさなの絵に対する才能の開花というファクターが混ざり、それに水斗が異様な感化を受け始めている。恋人とも家族とも違うけれど、明らかに水斗にとっていさなは友達というだけでは済まない、人生における唯一無二の存在になりはじめている。
いさなのポディションというのがこれ、結女が望んでいる水斗の場所と競合しないはずなんだけれど、競合しないからこそなんだこれ!?という三人の関係になってきてるんですよね。三角にすらなってないんじゃないの? いさなとしては、結女を応援すらしているし、今更恋人という関係は本気で求めていないわけで、それを結女も十分理解している、実感もしている。結女は水斗が好きだし、水斗も改めて結女に女性として惹かれている。でも、現実として距離感が一番近いのはいさなという訳のわからない状況に、結女の頭の中に???がふわふわ浮かんでいるような状況というべきか。忙しく飛び交ってるわけじゃないんですよね。混乱まではしていないけれど、なんかよくわからんとなってはいる。そしてなんでか、水斗といさなは全然混乱していなくてこれが自然に成り果てようとしているわけで。
うん、こういう三人の男女関係って今まで見たことないわー。すっげえ、いみわかんねえ(笑

そういう意味じゃ、誰にでもわかりやすく中途半端な形に決着をつけて見事にうまくいった愛沙と星辺先輩の恋愛模様は、表看板だよなあ。
そして、その裏ともいうべき、一番ドロドロで一番純粋な愛情で塗れちゃっている川波と暁月のカップルが、明確に進展したのは凄いというべきだし、誰も言ってくれない秘めたる二人だけの関係だけれど、頑張ったといってあげたい。本気出したということなのだろう。
一番病んでて一番イカレ狂っている女が、愛に溺れて愛を殺しかけた女が、押し付ける献身じゃなく、与える尽くしに健気に徹しようとする姿は、もうなんかたまらんものがありました。愛しているからこそ、相手の幸せを願って、贖罪に邁進する。でも願わくば、もう一度だけ自分の愛を伝えたい、この恋を感じて欲しい。受け取らなくていいから。受け取ってもらえる資格がないのだけれど。それでも伝えられればそれで十分、というこれは純粋なる献身といっていいんじゃないだろうか。罪の精算、贖罪だとしても、だ。
いやもうね、誰がどう見てもどう考えても、暁月の過去のイカレた所業が原因で、自業自得なんだけれど、それを一番彼女自身がわかっているからこそ、ズシンと来るんですよね。
川波が、それを攻めてしまった事を悔いて罪悪感抱いちゃってて、今昔みたいに幼馴染みたいな関係に戻れてしまっていることを喜んでいる事も含めて、彼が全く誰にも暁月の罪を明かさずに自分のうちに秘めていることも含めて、何ともなんとかなって欲しいカップルだ、と思っちゃうんですよね、この二人は。
まだ好きなんだもの。ふたりとも、お互いのことを好きなのに、どうしようもなくなっていたのが悲しすぎる。まあ暁月、シリーズはじまった当初だとまだ病みの闇が深かっただけに、だいぶ改善された、というか精神的に鍛えられた? 我慢と理性がきくようになった? 自分を律する事が出来るようになったのは間違いないもんなあ。ひたすら欲望を耐え続けることで、ようやく保たれる関係なのか。
少なくとも、恋愛感情を向けられることは相変わらずトラウマを刺激されるにしても、恋愛感情を向けることに関しては大丈夫だ、というのがわかっただけでも大きいんじゃないだろうか。
いずれにしても、とんでもない綱渡りをとんでもない精神力で耐え続けながら渡りきらなければならないのだろうけれど。でも、それでも、と思えるほどのとてもとても大きな「好き」が胸の奥で燃え盛っているこの元幼馴染カップル、幼馴染ストとしてはひたすらに注視して見守っていきたいところでありました。
ううー、非常に満足度の高い、色んな意味でお腹いっぱいになる回だったなあ……でも、トータルで見ると前菜ぽい気もするんですよねえ、うんうん。
まだまだ、上がってくぞ、な予感。