【神の庭付き楠木邸】  えんじゅ/ox 電撃の新文芸

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お隣のモフモフ神様とスローライフ……してたら自宅が神域に!?

田舎の新築一軒家の管理人を任された楠木湊。実はそこは悪霊がはびこるとんでもない物件……のはずが、規格外の祓いの力を持っていた湊は、知らぬ間に悪霊を一掃してしまう!
すっかり清められた楠木邸の居心地の良さに惹かれ、個性豊かな神々が集まってくるように! 甘味好きな山神や、そのモフモフな眷属、酒好きの霊亀……。そして、気づけば庭が常春の神域になっていて!?
さらには、湊の祓いの力を頼りに、現代の陰陽師も訪ねてくるほどで……。
お隣の山神さんたちとほのぼの田舎暮らし、はじまりはじまりです。



都市の郊外とか周りに住宅が少ない田舎の家なんかじゃないと無理だけれど、縁側のある家っていいんですよね。縁側から庭を眺められる家って、これが実に味わい深いんですよ。
祖父母の家が小さいけど庭に緑のある家で、縁側から庭を眺めるのが好きでした。決行鳥なんかが来たりして飽きなかったんですよね。猫やらが良く通り過ぎたり、最近はたぬきが居た!とか今住んでる叔母が報告してきて、それはちょっと見てみたかったなあ、と。
庭ってのは、垣根や壁で覆われているんですけれど、そういう意味では外から生き物が訪れる接点でもあり、自然を自分の家と共有している場、とも言えたんでしょうね。
なるほど、そう考えると庭に入り浸ってるこの作品の神様たち、動物の姿をした神獣たちは、楠木邸の住人とか居候というよりも、楠木奏くんが称しているように「隣人」なのだろう。
彼がこの愛すべき隣人たちに供しているお酒や甘味も、餌とか食事じゃなくてあくまで差し入れですもんねえ。そのわりには、くれくれの圧が強いような気もしますけれど。
でも、まあむしろ奏が率先して喜んでお菓子やら購入してきているので、やっぱり差し入れでありおもてなしの品なんですよねえ。めっちゃ喜んでくれるから、とあれこれと美味しそうな甘味やらを探してくる奏の人の良さが伺えます。まあ縁側に寝そべりながら、めっちゃタウン情報誌とかノートPCで有名店や話題のお菓子なんかを調べまくってる山神さまの圧は絶対あるでしょうけれどw
その圧を、ニコニコと受け止めて、むしろ張り切っちゃうあたりが奏くんの人柄を感じてしまいます。

そもそも、親戚に頼まれて空き家だったこの邸宅に住むことになった奏くん。それまでは実家の旅館の手伝いをしていたのに、急に一人で離れた家に住むことになって……これ働き口どうする予定だったんだろう。様子を見ていると、行き当たりバッタリというか特にさしあたって考えてなかったんじゃないですか!?
勿論、これが普通の家だったら引っ越しが落ち着いたら、バイトか職を近場で探すつもりだったのかもしれませんけれど。それでも、仕事の見通しもないにも関わらず、頼まれたからと実家を出て家を預かるなんてのは、お人好しじゃないとなかなか出来ない所業ですよ。
幸い、奏くんの書く文字が、ファブリーズ並の消臭効果……もとい、穢を祓う力を持っていたのがわかって、なんやかんやとその道のプロである陰陽師のお兄さんに穢れ祓いの札を購入してもらうことになったので、収入は安定するようになったのですが。でも、その収入の少なからぬ額が甘味とお酒に変わっていて、神様たちに消費されているような気もするのですが。
でも、この神様たちとの距離感はほんといいですよねえ。古来、本邦では神様というのは畏れ敬うものであると同時に、親しい隣人でもありました。金毘羅さんとか大黒さんとかお寺さんお社さん、神さん仏さん、と様付じゃなくてもっと身近な存在として日常の中に置く習慣があるのはこれ、関西圏だけなんでしたっけかね?
ともあれ、奏くんも山神さまや亀さまたちとのふれあいは、親しく身近な友人のようでもあり、それでいてちゃんと奉ってもいるんですよね。気を使うとか崇めるってわけじゃないんだけれど、親しくも敬意をもって接している、とでもいうのかな。まあ、めっちゃ馴れ馴れしいときもあるのですけれど、向こうからあれだけ馴れ馴れしく甘味やらねだられたり、寛がれたら同じ空気感の中に浸っちゃいますよね。

とまあ、陰陽師の播磨さんが菓子折り持って訪ねてくるくらいで、のんびり長閑に山神さまたちと穏やかな日常を送るだけの、実にリラクゼーションなお話でありました。
いや、自分の文字に浄化作用があると知ってから、しかもそれを頻繁に求められると理解してからは、奏くん、マメに検証と研鑽を積んで、紙や筆にも拘ったりとかなり手間暇かけて効果を高めようと努力してたりもするんですけどね。そのあたり真面目だなあ、と。最初はただのボールペンにメモ帳で、書いてる内容もほんとにただの気がついた事を記すだけのメモでしたのに。
ただ、笑っちゃうほどホントに彼の書く文字の効果は凄まじく。それでいて奏くん当人には見鬼の才能はないものだから、穢とか悪霊とか全然見えないし気づかないんですよね。悪いものにはとんと鈍い体質、でありながら神様などの善いものに関してはちゃんと見えるあたり、悪いものに影響されたり引きずられたりとか縁遠い体質なんでしょうなあ。
本人の性格も優しく柔らかく、本当に穏やかでしかも世話好きと来たもんだから、そりゃ神様たちもリラックスして入り浸りますよ。ゴロゴロしてたら、美味しいものやお酒とかまでせっせと供してくれますし。神域となってますけれど、神様のリラクゼーション空間ですよね、楠木邸。
ちょっと残念だったのは、陰陽師の播磨さん、しょっちゅう来訪してくるのに神様の存在に緊張してあんまり喋らないものですから、わりと頻繁に来ているのにあんまり奏くんとコミュニケーション取ってる様子が見られなかった所ですか。御札受け取ったら、さっさと帰っちゃいますしね。もっとくつろいでいけばいいのに、と思うのですけれど、神域と化してしまったこの家でまともな人間は寛げないのか。神様たちの発言からすると、人間の身でありながら逃げ出さずに頻繁に家を訪れる播磨さんは大した根性だ、と褒められてるくらいですし。
そんな空間の中で、実にのんびりのんきに暮らしている奏くんの神経と来たら……どれだけ鈍いんだろうw いや、その鈍さと感じ無さは、穢れの濃さで普通の人間なら正気を保てないような場所でも、神様たちですら変質してしまいそうな密度の穢れでも、まったく気づかないでずいずい入っていけてしまうシーンを何度も見ていればわかることなのですけれどw
色んな意味でもともと幸福値が高そうな人だったんだろうなあ、うん。今となってはさらに神様達のお墨付きだ。