【サイレント・ウィッチ III 沈黙の魔女の隠しごと】  依空 まつり/藤実 なんな カドカワBOOKS

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旧友との再会、〈星詠みの魔女〉からの召集――最強の魔女に試練が相次ぐ!

王子暗殺を目論んでいた意外な犯人にショックを受けるモニカ。だが次の試練――チェス大会は目前に迫っていた。
三大名門校が覇を競うこの大会、モニカの母校・ミネルヴァも参加するのだ。旧友との再会を恐れ精一杯の変装を試みるモニカだったが、すぐに見抜かれてしまい……?
「わたしの、嘘の学園生活……これで、終わりみたい」
しかし、たとえ秘密が暴かれようと、大会に紛れ込んだ悪意は討つ! 無詠唱の魔女の決意が煌めく極秘任務・第三幕!


……儚い。
不思議とそんな印象をフェリクス王子に抱いた。
今までその心底を見せてこなかったフェリクスだけれど、ふとモニカに見せたその顔はいつもの悠然として微笑を浮かべている姿がポロポロと剥がれ落ちるようにして、年相応の男の子のものだったんですよね。
それも、どこか内気でおとなしく好きな事柄に関してはつい夢中になって周りに目もくれなくなってしまうような……。
デート紛いの二人きりでのお出かけで、モニカと二人で自分の選んだ本に没頭する様子を見てしまうとなるほどと納得させられてしまった。
この人の本質は、モニカとそっくりなのだ。フェリクスの小さい頃を知る人がモニカと彼を似ていると考えたのも無理はない。フェリクスがモニカをしきりと気にかける理由として、幼い頃の自分と彼女を重ねている、と思ったのも然りなのだろう。
きっとモニカの姿は、フェリクスにとって置き去りにした過去? 封印した自分? いずれにしても、彼はそんな弱くて何も出来なかった自分を、何もさせて貰えなかった自分を決して嫌っているようには見えない。天文学という政治には何の意味もない学問を好み、星空に思いを馳せた自分を彼は大事に思っているように見える。
だから、そんな自分の本質を、似たもの同士に見えたモニカにそっと刻み込んだんじゃないだろうか。自分の過去に似たモニカにだけは、本当の自分を覚えていてもらえるように。
もう二度と、本当の自分を表には出さないと、すべて消し去って今の万能の王子としての姿をこそ真実として塗り固めてしまうのだと、決めたから。
だからなのか。彼が儚く見えたのは。モニカの目に、とても寂しそうに見えたのは。
この世に自分が居た証を遺すかのように、モニカにだけフェリクスは預けていったのだ。

モニカはそれを受け取った。受け取ることができた。
きっと、この学校に来る前の、来たばかりの彼女ならそんなフェリクスのサインに気づくことすらなかっただろう。その証の意味にも気づかず興味も持たず、何の価値も見出さずに地面に落として歩きさってしまったんじゃないだろうか。
でも気づいた。
自分の事で精一杯だったモニカという少女は、良き友人たちに恵まれて、ようやく周りを見渡す余裕が出来た。自分を守るために人を無視するのではなく、自分が傷つくのを恐れて他人を拒絶するのではなく、人を傷つけることを恐れるようになった。人の気持ちをわかりたいと思うようになった。
自分が傷つくことを恐れながらも、顔を上げる事が出来るようになった。人の顔を見ることが出来るようになった。
勇気だ。彼女は友を得て、勇気を得た。
かつて、初めて得た友人。そして裏切られ傷つけられた友人だった少年に、知らず無自覚に傷つけてしまっていた友達に、このタイミングで再会することになったのも、また運命なのだろう。
彼女の幾つもあるトラウマの、一つの克服。過去の痛みと恐怖を乗り越えることが、今一つだけまた叶ったのではないだろうか。

今のモニカは、他人を数字で見做してはいない。ルイスは、見誤っているし見損なっている。彼女のためにルイスに怒れる友達がいること自体が、それを証明しているというのに。
ラナも、そしてケイシーも、本当のいい友達じゃないですか。それをモニカはちゃんと、わかっているんだから。

帝国の暗躍が不気味に広がり、第二王子フェリクスもまた独り胸に秘めた策謀に身を賭していくなかで、果たしてモニカは何が出来るんだろうか。ただ第二王子を警護する、というだけならいくらでも沈黙の魔女なら出来るのだろうけれど。モニカ・ノートンとして生徒会のメンバーとして、彼女はこれから何をしていけるのだろう。
……このシリーズがはじまった当初、生徒会ってあんまりまとまりがなかった気がするんですよね。各々が勝手に振る舞っていた、というわけじゃないんだけれど、一つの集団としての纏まりはなかったように感じていた。でも、最近は不思議とチームとしての一体感みたいなものが、ふと感じられる瞬間があるんですよね。モニカが入ってから。モニカを中心にまとまって、何てことは絶対にないのだけれど、ぼんくらでポンコツでトラブルを引き起こすモニカに構って世話して、時折目覚ましい成果をあげるモニカに振り回され、としているうちに不思議と纏まりみたいなものが感じられるようになったみたいな……。
ただそんななかで書記のブリジットだけが、我関せずとモニカに関わろうとしていない。無関心にも見えるし、以前のフェリクス並に何を考えているのかその心底は伺いしれない。基本的に、生徒会のメンバーってフェリクスの味方に見えるんだけれど、ブリジットだけはその意味でも立ち位置がよくわからないんですよね。時折、フェリクスと通じているような素振りも見せるのだけれど。
彼女の動向こそが、次あたりの鍵になってくるのかもしれないなあ、なんて思ったり。