【剣と魔法の税金対策 5】  SOW/三弥 カズトモ ガガガ文庫

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脱税のにおい?今度はクゥが潜入調査だ!

「我が配下となれば世界の半分をくれてやろう!」
「え、マジ?わかった!」
魔王ブルー♂と勇者メイ♀が交渉成立!と思ったら、天から「贈与税がかかります」の声。
絶対なる税金徴収者である「税天使」ゼオスが現れた!え、神様に税金とられるの!?
“世界の半分”という莫大な資産にかかる超高額の贈与税に焦ったブルーは税金逃れのためにメイと偽装結婚!
そして、そんな二人を助ける「ゼイリシ」の少女クゥも登場!みんなでいろいろ頑張って、魔国の超赤字経営のトンネルに出口が見えてきた!そんなある日、ゼオスがクゥたちに助力を求めに現れた。
「人類種族の聖地・大神殿に、自分の代わりに潜入税務調査をしてほしい」と。
宿敵の「税悪魔」ノーゼがどうやら暗躍しているらしい「大神殿」。
そこは「天使」立ち入り禁止なのだという。
引き受けたクゥはまんまと「大神殿」に潜入成功、ポエルという名の美しい神官長に出会う。
慈悲深く、貧民たちに施しを与えるポエルは、まさに街の聖女。しかし、彼女の「慈悲」に言い知れぬ違和感を持ってしまったクゥは…。
「異世界初の異世界税制コメディ」、風雲急を告げる第5弾!



伊丹十三監督の【マルサの女】って、もう今の人にとっては古典になるんだろうなあ。
自分でもまだ一桁の小学生だった時代の映画ですしねえ。それでも、幾度もテレビで流されたせいか、子供ながらにも強く印象に残っている映画です。
さて、今回はゼオスに協力しての組織ぐるみの脱税を行っているとおぼしき宗教団体への税務調査。ついに
税金対策する方から、脱税を摘発する方に回っちゃったけどいいんですか!?
これも税悪魔の暗躍を探るため、しかもその暗躍はクゥたちを狙ってのもの、という事もあってクゥたちも当事者でしたから、ゼオスとしても苦渋の決断だったのかもしれませんが。それでも、本来は税理士であるクゥとしては過分なお仕事ではあるんですよね。そもそも、民間側のクゥが役所側であるゼオスの手伝いをすることになるわけですからねえ。あんまり税理士が公務員の方のお仕事を手伝うという印象はないのですけれど、実際にあるもんなんでしょうか。
まあ、クゥってそれ以前に魔王領で働いている内容はとっくの昔に税理士の職分を超えちゃってるんですけどね。
そもそも、魔王軍が民間組織なのか国家なのか曖昧なのですけど、実態としては国ですよね。その国家のなかで税務関係どころか財務通り越して政治全般に口を出すどころか、指導力を発揮しているのがクゥなので、これって実質魔国宰相と言ってもいいんですよね。
大神殿への潜入捜査も、並行してドラゴン領の鉱山への融資をお願いするためという理由もありましたし。
こうして、クゥ・ジョは本来の「ゼイリシ」として許される職分を大いに超えている領分まで踏み出してしまっていたのでした。或いは、職分どころか許されるルールを逸脱する形で。
この積み重ねが、最後の展開に影響を及ぼしたのは否定できない要素でしょう。場合によってはゼオスの今回の依頼はそれを助長させてしまったきらいすらあるかもしれない。
そもそも、今回の一件全部が税悪魔の仕掛けた罠だったとしたら、ゼオスはまんまとそれにハマってしまったのですから、痛恨以外の何者でもないでしょう。一番悔やみ責任を感じるのは彼女になるんだろうなあ。
ゼオスに関しては、前巻でその人間時代の姿が描かれたことで、今のクールで感情を見せない仕事の鬼な天使の姿の奥にどれだけの激情を、熱い想いを抱えて今の仕事に取り組んでいるか。クゥたちに掛ける思いについても、どれだけ温かい思いで見守っているかを知ってしまっただけに、多くの伝わってくるものがあったのですが、それを逆手に取られたという事になるのかなあ、悔しいが。

今回は宗教団体にはどうして課税が成されないのか、から宗教組織が古来から行ってきた金融業の歴史的意義や、マネーロンダリングの仕組み、そして弱者救済という本来なら手放しで称賛されるべきと思われる行いに対しての、そのやり方の対しての是非など話の密度の高い巻でありました。
特に弱者救済は個人的なスケールから社会としての取り組み、さらに国家同士の支援などミクロからマクロまで共通して取り上げられるテーマだけに、個人として動きつつ今や国家の重鎮という立場でもある物語の都合上ではあるけれど曖昧な立場であるクゥ・ジョにとっても、あらゆるスタンスからでも向き合う必要があるテーマだけに、うまい構成だったなあと思うんですよね。
特に、弱者を救う事が目的ではなく、弱者救済という行為そのものが目的になっていたポエル神官長が今回相対するべき相手だっただけに。
彼女自身は理屈が完成していて、他人には一切通じないにも関わらず、世論を味方にしてしまえるこのタイプは本当に始末が悪いのですが、ある意味これにメイをぶつけてしまうと一気にカタが付いてしまったと思うんですよね。実際、付きましたしw
メイって同じく理屈通じないけれど、感覚感性で正解を掴み取ってそれを貫いて押し付けられるだけの力を持っているだけに、ポエルみたいな人にとっては天敵なんじゃないだろうか。なので、かなり後半まで別行動だったのもむべなるかな。

しかし、クゥが傷つけられると、魔王軍総じてバーサークモードに入ってしまうのかー。メイとブルーと邪竜卿イタクが揃ってブチ切れて宗教的熱狂を一方的に叩き潰してしまう展開は、なんというか痛快でありました。こいつら怒らせたら、やっぱり大陸灰燼と帰すじゃありませんかー。
それだけ、理性吹っ飛んでしまうほど彼らにとって大事な存在であるクゥがあんな事になってしまって、はたしてみんなはどうするんだろう。
なにげに、イタクくんが突然王子様役に抜擢されそうな気配がするんだけれど、おおう大出世ですか!? 今回の一件を通じて、結構好きなキャラになっているので彼には頑張ってクゥのヒーロー役を自力でもぎ取って欲しいものです。そうでもしないと、クゥのお姉さんお兄さんが認めてくれなさそうですしw