【ロクでなし魔術講師と禁忌教典 20】  羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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託した想いが、奇跡を起こすーー!

「天の智慧研究会」の最後の猛攻が、フェジテを飲み込もうとしていた。グレンたちが不在のなか。イヴ・アルベルト・リィエルーーそして、あの人物も。圧倒的な危機のなか、グレンの想いを受け継ぎ、誰もが戦い抜く!


うはっ、うはははは。これは凄えわ。イブさん、掛け値なしに凄えわ。
ここまで見事に土壇場で盤面をひっくり返してみせたのはなかなかお目にかかれないですよ。
実際、イヴ自身もどう足掻いても詰みと考えていたんですよね。
援軍もなく籠城するはめになり、戦況をひっくり返すジョーカーですら敵である「天の智慧研究会」の方にある。
質も量も時間ですらも何もかもが向こうが圧倒的という必敗の戦況。いやこれ、どう考えてもフェジテ滅亡以外考えられない絶望的な状況でしたよ。いくら考えても、どんな天才でもこの戦争は勝てなかった。
そう、これを戦争として捉えたままなら、絶対に勝てなかったんですよね。
言ってみれば、王手を掛けられて後は投了するだけの盤面を、この元帥閣下と来たらプレイ中のゲームのジャンルそのものをチェンジした上に、文字通り盤を180度くるりとひっくり返してみせたのである。
気がつけば、死者の大群がフェジテの街を飲み込むのを眺めているだけで絶対に勝てるはずだった「天の智慧研究会」の戦争が、逆に主力である死者の大群を使わずに制限時間までにフェジテの各ポイントを攻め落とさないと負けが確定してしまう、という完全に攻守が逆転した状況になってたんですよね。
「天の智慧研究会」側からすれば、これ意味がわからないですよ。持ち駒はお互い何も変わっていないにも関わらず、気がつけば追い詰められて敗北の刃が首根っこに突きつけられていたのですから。
攻めるのは「天の智慧研究会」、守るのはフェジテ、という構図自体は変わっていないにも関わらず、追い詰められ守勢に回されていたのが「天の智慧研究会」で、フェジテは防衛に徹することで実質圧倒的攻勢に出た形になってましたもんね。いやもう本当に盤面をくるりとひっくり返したようなもんじゃないですか。
戦争形態そのものも、絶望的な籠城戦という軍と軍がぶつかる形から、市街地での対テロ戦という形態になるように「天の智慧研究会」に強いてしまったわけですしね。
作中でも言及されてますけれど、作戦や謀略で一番どうしようもないのって、敵にこちらの意図通りに動かざるを得ない状況に置くことなんですよね。これは、敵側が気づいてもどうしようもないんですよ。何しろ、こちらの意図通りに動くことが敵にとってもう残された最善の選択肢なのですから。それ以外を選ぶと、その時点でゲームオーバーだというのを理解してしまえば、どう足掻いても相手の意図に乗るほかない。
さらにヤバい人の場合は、敵に選択を強制されたことすら気づかせないのだそうですけどね。毛利元就なんかが、このタイプの極北なんだよなあ。
本作においては、イヴは何年も掛けて準備を整えて謀略を仕込み、なんて事は勿論していなくて、絶体絶命の状況に追い込まれてしまってから、そこからもう意味不明な勢いで盤面をひっくり返してしまったのですが……いやもうこれ、本気で意味分かんない凄さなんですけどね。
でも流石にイブでも、本当に何の準備もなく敵にただ一つのルートを強制的に選ばせるような事なんて出来ないのです。「天の智慧研究会」が万全だったなら、これまで彼らが行ってきたはかりごとが、暗躍が、密議が全部成功していたら。いや、半分でも目論見通りになっていたら、彼らには多くのリソースが残され、イブがどれだけ盤面をひっくり返そうともそれを自分たちの都合の良いように戻せる余力があったはずなのです。
それをコツコツと削り落とし続けてきたのが、この【ロクでなし魔術講師と禁忌教典】というシリーズの20巻に及ぶ積み重ねだったんですよね。
グレンたちが、特務分室時代から戦い続けてきた結果が。魔術講師となって教え子たちを得て、彼女たちと幾つもの事件を乗り越え解決してきたことが。激しい戦いをくぐり抜けて生き残ってきた事が。「天の智慧研究会」の暗躍を幾つも阻止してきた事が、今こうして目に見える形で結実したことに、イブの針の穴を通すような作戦通りに「天の智慧研究会」が歩まざるを得ないほどに彼らもまた追い込まれていたことに、なんかもう物凄く感慨が湧いてきてしまいました。
今までの戦いは、今までの物語は、本当に何一つ無駄じゃなかった。彼らが得てきた経験は、記憶は、思い出は、確かに登場人物一人ひとりの力となり、成長となり、今こうして結実したのである。
彼らの間に育まれた友情も愛情も、何もかもが無駄にならず、ここに花開いた。
イヴも、リィエルも本当にここまで化けるとは思わなかった。ここまで見違えて人間としてもキャラクターとしても成長するとは思わなかったもんなあ。
今までメインで活躍し続けたキャラクターや、準レギュラーとして脇を彩ってきた面々のみならず、かつて登場しそのままフェイドアウトしていたメンツまで再登場しての、本当の意味でのオールキャストでの総力戦。それに相応しい、このシリーズの総決算とも言うべき最終決戦でありました。
主人公であるグレンやシスティ不在のままながら、もうこれ以上無く盛り上がり、燃え上がりましたよ。そして、恐るべき事に本当の最高潮のクライマックスはここから、まさに此処から。此処からですよ!? 自分でこんなハードルあげまくって、大丈夫ですか大丈夫ですか羊先生!?
これだけ期待以上のものをぶち撒けられちゃったら、もう際限なく期待値あげまくっちゃますよ?