【TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す 5(下)~ヘンダーソン氏の福音を~】  Schuld/ランサネ オーバーラップ文庫

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外道に巻き込まれ、新たな世界(サプリメント)の扉の先へ!?

ツェツィーリアを巡って帝都を駆け回った事件も解決し、どうにか帰還を果たしたデータマンチ転生者エーリヒ。
しかしエーリヒの知らないところで事件の波紋は大きく広がっていて、雇用主であるアグリッピナに望まぬ栄達が押し付けられる事態に。
しかも与えられた伯爵領は利害関係が絡まり合う厄介極まりないもので、どう考えても面倒ごとが待ち受けている様子。
そして当然のように巻き込まれるエーリヒは“貴族の側仕え”としてアグリッピナに連れ回され、今まで以上の激務の日々を送ることになるが……?
ヘンダーソンスケール行方不明のデータマンチ冒険譚、策謀渦巻く第5幕!





あれ? WEB版ってもしかしてダイジェスト版でしたっけ? と、思わず後ろを振り返ってしまうくらい、ガリガリと加筆されまくったアグリッピナ師陞爵編。
気分良く引きこもっていたのに、自分を都合の良い駒として利用しようと表舞台に引っ張り出したライゼニッツ卿と皇帝陛下にザマァ食らわしたあとは、何だかんだと大変忙しく面倒な目に合いましたが(特にエーリヒが)なんとか伯爵位も継げました、めでたしめでたし、となっていたこの忙しく大変な目、の部分にスポットがあたった巻になっておりました。
……単に廃絶されてた伯爵位継ぐのに手続き上、儀礼上の面倒がつきまとって大変でしたね、多少ゴタゴタはあったかもしれないけれど、くらいの認識だったのに、がっつり陰謀謀略暗闘に巻き込まれてえらいことになってるじゃないですかー!(主にエーリヒが)。
大変でしたね、で片付けていいのか、というくらい大変だった模様で(エーリヒが)。
ピナ師の方はむしろ大暴れで、策謀を張り巡らし火種を付けて回って政敵をあぶり出して燃やしまくる、という。鬱憤晴らしにも見えるけれど、こういう事すらも彼女にとっては面倒極まりなかったんだろうなあ。でもやるとなったら徹底してやるのがこの外道お姉さま師匠なのである。
そもそも、派閥の長であるライゼニッツ卿と皇帝陛下に都合よく使ってんじゃねえぞ、とザマァ食らわす化け物なんですからねえ、この人。魔王かよ。
「素人質問で恐縮ですが」などの即死呪文を唱える気満々で待ち構えてる人外魔境の教授陣が陣取る享受昇進のための論文発表会。現実でも処刑場として名高いこの手の発表会で、むしろ査読段階で隙だらけに見せておいて、いざ本番でここまでえげつなく満場を黙らせ絶句させ爆弾炸裂させる人、見たことないわ。ガチで怖いわ! 問答無用でライゼニッツ卿と皇帝陛下を運命共同体の一蓮托生、絶対に見捨てられない、見捨てて使い捨てにしようものなら諸共死ね、という立場に絡め取り追い込んでみせたその手腕。怖いわーー。
気軽に手を出しては行けない劇薬に、ライゼニッツ卿もエールストライヒ閣下も安易に手を突っ込みすぎたわけだ。火傷どころじゃスミマセンでしたねー。

というわけで、宮中伯として引っ張り出されたアグリッピナ師の最初のお仕事は、継ぐことになったウルビオム伯爵領とそれに集る有象無象の整理整頓。そんな中で加筆分の新キャラとして登場してきたウルビオム伯家の利権を握るドナースマルク侯爵。わーい、噛ませだ。絶対噛ませキャラだ。
とまあ、登場してくるタイミングと言い立場といいシチュエーションといい、アグリッピナ師に血祭りにあげられる筆頭候補だったのですが、ところがこれがまたこの人……なかなかいいキャラしてたんですよね。
ただの権力野心の権化、ではなく非定命としての長い人生に傾倒する趣味に「策謀」を選んでしまった御仁。手段として策謀謀略を使うのではなく、それそのものが目的、趣味で嗜む……というかドハマリしてる御仁、というのが何ともはや。
ぶっちゃけ、この人ウルビオム伯の継承争いに首突っ込んで遊び続けてただけで、実のところ手の届く範囲で留まっていた分、本気の宮廷政治の魔境を本格的に知ってはいなかったんじゃなかろうか、という自分でも大海を知らぬ蛙であった、みたいなことを後で述懐してるくらいでしたし。
でも、それであってもただの利権ゴロでは及びもつかぬ策士ではありましたし、何よりあそこまでピナ師に格の違いを見せつけられて心折られまくって、実質土下座させられて頭グリグリ踏みにじられたくらいに思い知らされた、にも関わらず、全然めげなかったのは正直見直してしまいました。
ちゃんと、ここで殺しておかなかった事をあとで後悔させてやるわっ、という情けない台詞をうわ自分情けねえ恥ずかしいと自覚しながらも、言ってのけてちゃんとやり返す気を立て直してますし。
意外とネガティブな負の感情に塗れて、とか陰湿だったり粘着質な感じで復仇を企んでいるのではなく、わりとポジティブというか前向きというか、カラッとした感じでリベンジ目論んでいる様子は、意外と嫌な感じしなかったんですよね。
あの魔王なアグリッピナ師に、やり返してやる、と負けん気見せるだけでもえらいですよ、思わず好感持ってしまうくらい。なにげに、本気でアグリッピナ師狙ってるみたいですし。
それでいて、娘であるナケイシャ嬢にはダダ甘な父親としての情に厚い人間的な部分も見せてくれていましたし。むしろ、ナケイシャ嬢の方が密偵としてエーリヒと本気の殺し合いをして、ガチで殺されかかったにも関わらず、むしろそれでエーリヒに魂奪われてしまうあたり、粘性高いですよ、ヤンデレ度高いですよ!?
WEB版では宮廷での待合室で一瞬邂逅しただけで、名前も知れなかったままフェイドアウトした百足人のナケイシャ嬢ですが、書籍版ではそれこそガッツリ登場。この人、なにげに庶子とは言え貴族令嬢でもあるし、身分もそれなりに高いんだよなあ。少なくともアグリッピナの従僕であるエーリヒとちょうど見合うくらいでもあり……いや、エーリヒこの後、独立するのですけれど。
この百足人のデザイン、感心したのはあの凄まじく長い胴体、剥き出しじゃなくちゃんと全身に着込んでいる衣装なんですよね。これ、いわゆるスカートでいいんだよなあ。ちゃんと女性として正装しているように見せるし感心してしまった。でも、この身体って蜘蛛人であるマルグリットよりも番うの難しそうな体型なんだけど、彼女の母親に惚れ込んだというドナースマルク侯爵、この人はこの人である意味大物だよなあ。
いや多分、エーリヒもそっち方面では大物というか化け物と思しき情報が散見されてるのだけど。まさか、エーリヒそっち方面ではスキル取得してないよね? してないとすると、素でやべえやつ、という可能性もあるのか。
少なくとも、ヘンダーソンスケール……アグリッピナエンドIFであのピナ師をだだ堕ちさせてしまうくらいだからなあ。
そのヘンダーソンスケールでは、アグリッピナルートの話が。これまでのヘンダーソンスケールも、いわばエーリヒが自分の夢を潰えさせた先の話ではあるんだけれど、今までは何だかんだと彼自身が選択しての事でもあったはずなんですよね。
でもアグリッピナルートは、ピナ師がエーリヒの意思を無視して強引に絡め取っての、強制ルートですからね。エーリヒ当人の不満としては他の追随を許さず高かったんじゃないでしょうか。
可能性をもっとも潰された、彼のすべてをアグリッピナに費やすことになったルートというべきでしょうか。
まあ、今までで一番ラブラブイチャイチャしていたような気もしますけれど。
いや、なんか当人二人は愛なんて存在しない関係だよ、とかうそぶいてますけれど、ウソつけ!! これに関しては完全に二人をモデルにした戯曲の方が真実に近いだろ!!
ってか、あれだけじゃがぽこ子供産んじゃって、ピナ氏それもう好きやん! 子供なんて作るつもりなかったくせに、エーリヒが喜びを噛みしめる姿見た途端心変わりしちゃって、めちゃめちゃ好きやん! 挙げ句に、エーリヒが死んですら何十年もかけて研究を重ねて死霊として呼び戻すとか、もう言い訳しようないくらいダダ惚れしてるやん!
誰がどう見てもエーリヒに甘えまくってるんですけど、この女性。
しかし、四人も生まれた子供らが完全にエーリヒとアグリッピナ互換の子供らで、この一族だけで魔王軍かよ、という感じなんですけど。こいつら、政治的にも物理的な殺し合い的にも何やったら殺せるんだ?という面々が個人じゃなくて一家で存在してるって、もう三重帝国内部のアンタッチャブルじゃないですかねえ?

しかし、これだけダダ甘に堕ちまくってるピナ氏を見せられてしまうと、リアルタイムの方のピナ師がどれだけ主君として、傍若無人に冷厳に無茶振りで極限まで追い込んできても、あっちの姿がちらついて可能性としてああなる未来もある人なんだなあ、と思えて、むしろニヨニヨしたり興奮が高まったりしてしまいますなあw

加筆分としては、あとがきでもちょっと触れてますけれど、前回のヒロインであるセス嬢やミカとの何気ない日常風景のシーンが良かったですねえ。WEB版では、事件解決したあと顔を合わせるシーンもなくエーリヒ、帝都から出てっちゃってなんかそれっきり、みたいな縁が遠くなったみたいな感覚すら味わうことになりましたからね。
こうしてちゃんと交流が続いていて、それどころか冒険者としてエーリヒが独立したあとも一緒に冒険する可能性に言及してくれたのは、なんか未来図が広がる感じがして心躍るものがありました。
将来的に再登場が約束されているミカだけでなく、セス嬢の方もパーティーに加わる可能性があるとわかったのは、セス嬢推しとしては実に嬉しいところでありましたよ。
しかし、ここにナケイシャ嬢まで食い込んでくる可能性もあるのか……エーリヒって、普通の人間種に関してだけはさっぱり縁がないんだなあ、こうしてみるとw
強いて言えばミカがそうなのかもしれないけど。

いずれにしても、アグリッピナ師の色んな意味での規格外っぷりを存分に堪能させていただきました。ってか、あの人神話生物まで飼ってるのかよ! ヤバさが振り切りすぎてる!