【妹の親友? もう俺の女友達? なら、その次は――?】 エパンテリアス/椎名 くろ 富士見ファンタジア文庫

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最初は妹の友達だった。でも、そのままじゃいられなくなった

男女の友情に"その次”はありますか――?

糸原斗真は恋愛に興味がない。線引きをした人間関係が心地良く、それはそれで充実しているのは間違いなかった。
「――お兄さん、帰っていないのなら、一緒に帰りましょう」
だけど最近、少し変化が訪れた。間宮凛。妹の親友で、よく家に遊びに来る娘……最初はそれだけの関係だったのに、同じ学校に通うようになって、一緒に帰って、当たり前のように休みの日に遊ぶようになって、みるみる関係が深まっていく。それでもあくまで“異性の友達”として接する斗真だったが、その一方で凛はこの関係に対して思うところがあるようで……?
青春で、そしてラブコメです。


なるほどなあ。
恋愛に至るまでの人間関係の入り口ってのは多岐に渡ると思うんだけれど、妹がいつも家に遊びに連れてくる年下の子と、いつの間にか仲良くなって、というのはまあ然程多くはないだろうけれど、無くはないよなあ、という導入ですよね。
しかも、出会ってからすぐにグイグイ向こうから来る、というわけじゃなくて、中学生だった凛ちゃんの受験勉強を見てあげたり、と結構時間をゆっくり積み重ねている印象なんですよね。だから、急ぎで突然気持ちが募って、というものでもない。多分、凛ちゃんとしては自分なりにじっくり熟考を重ねての事なのでしょう。斗真が恋愛に対して淡泊であんまり興味を持っていなさそう、というのもそれまでの付き合いでなんとなくわかっていたのでしょう。彼女がガツガツと攻めて来ずに探り探り距離感を詰めていった心境もわからなくはないんですよね。
この手の男は、ガツガツ行った途端にフイッと心の距離感が離れちゃうんですよね。
なので、凛が恋愛関係を意識させずに、それでいて自分の存在感を楔として打ち込んで忘れられないように、彼の日常の中に自分の存在が不可欠になるように、若干回りくどいんじゃないか、と思えるほどにひとつひとつ積み重ねていっているのが何となく見えてくるのである。
最初の段階では、妹の親友というポディションは斗真に変な意識をさせずに居られる立ち位置なので、かなり有効活用してたっぽいですしね。それで、妹抜きでも斗真との間だけで関係が成立しだすと、かなり積極的に受験とか妹という共通の関係を抜きにした、二人だけの時間を確保しだすわけである。これは、凛が斗真の学校に進学したあとには特に顕著になって、この段階から妹の友達ではなく同じ学校の後輩、という関係を強烈にアピールしだすんですよね。
この段階ではまだ妹との繋がりを必要に応じて意識させて、彼のプライベートにもとても親しい関係であるとして上手いこと活用しているあたりは狡猾ですらある。

自分が高校に通っていたのはもう数十年前にもなるので、昨今の学校の空気感とか常識なんてのはそれこそラブコメものを通じてくらいしかわからないのだけれど、新入生が入学して間もない時期に上級生の教室に堂々と乗り込んできて、挨拶しにくる、なんてのはちょっと考えられない大胆な行動に見えたのですけれど、これって普通じゃないですよね? 最近では普通に上級生の教室とか下級生が遊びに来たりするんですかね?
そうじゃなかったら、凛のあの行動はかなり強烈なアピールであったと思われます。それこそ、斗真個人にあてたものに限らず、自分と斗真に深い繋がりがあるのだと斗真のクラスメイトに印象づけるような意図があった、と考えても不思議ではないんですよね。
単に挨拶するだけなら、学校の外でも学校内でも他の場所でも良かったわけですしね。
ところが、肝心の斗真くんはというとクラスメイトの明るい委員長結花とどんどん仲良くなっていくわけである。
さて、この委員長がどの段階で斗真に興味を抱いていたのか。こっちはこっちで会話の内容を見ていると、明らかに斗真にターゲットを絞って近づいてきてるんですよね。いきなり切り込んではこないけれど、投網をなげかけて引っかかるのを待ち構えているみたいな。
堅実に外堀から埋めにかかっていた凛からすると、予想外の強敵である。と言っても、まだ委員長の方は的を絞ったというか、いい感じの男だな、と実際斗真がどんな青年か、自分と波長が合うのか、というのを探り探り、確かめているような素振りなんですよね。まだ本気ではない、というあたりか。
だから、彼女が凛の気持ちを知った時にどう動くかはまだ当たりがよくわからないんですよね。これはもう他人の獲物だと深みにハマる前に身を引くのか。それとも逆に興味を惹かれてこれは良い物件なのかもと余計にちょっかいかけてくるのか。
凛としては、ちょっと焦る要素ですよね。彼女の堅実な行程はあくまで斗真単体の攻略であって、ライバルの存在は想定していなかったでしょうから。
だからこそ、結花と知り合って今の斗真との仲の良さを目の当たりにした直後の帰路で、なかなか踏み込んだ話を持ち出したんじゃないだろうか。
そこで思いの外手応えを感じたからこそ、自動でのちょっとずつの変化ではなく、手動でちょいと大きめにグイッと二人の関係性について動かしてみたんじゃないでしょうか。
まあ思っていた以上に、彼が自分との関係性について深く考えてくれた、というのは大きな勇気ともなったのでしょう。正直、ここはもっと畳み掛けても良かったとも思うんですけどね。この男はガンガン行かないとわからんヤツでしょうし、少なくともこれまでの関係性の積み重ねはもう逃げ出せないくらいには積み上がってると思うので。
あんまり派手なイベントがない、淡々と流れていく日々の出来事、という感じでラブコメというよりもどこにでもいる普通の高校生たちの、珍しくもないよくある普通の恋愛のはじまり、といった感じで地味なんだけれど、これはこれで新鮮味みたいなものはありましたね。それが、さて物語としての面白味にまでどこまで昇華していくのか。
そのへんは、これからの展開次第といったところじゃないでしょうか。