【この△ラブコメは幸せになる義務がある。】  榛名千紘 /てつぶた 電撃文庫

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ラブコメ史上最も幸せな三角関係! これが三角関係ラブコメの到達点!

「なんであんたが麗良に好かれるのよ!?」
平凡な高校生・矢代天馬は偶然にも、同じクラスのクール系美少女・皇凛華が彼女の幼馴染の清楚系美少女・椿木麗良を溺愛していることを知ってしまう。
そこから天馬は、凛華が麗良と仲良くなれるよう協力することになるのだが──。
「矢代君が凛華ちゃんと付き合ってないなら、私が彼女に立候補しちゃおうかな?」
「矢代、あんたなにしたの!?」
その麗良は天馬のことが好きになり、学園の美少女二人との三角関係へ発展!
複雑に絡まったこの恋の行方は……!?
電撃小説大賞《金賞》受賞! ラブコメ史上、最も幸せな三角関係が始まる!


幸福なのは義務なんです♪ 幸福なのは義務なんです♪ 幸せですか? 義務ですよ?

……っおおっと、失礼、脳裏に幸福委員会からのお達しが。

いや、大丈夫ですよ? パラノイア的なお話じゃありませんよ。
実に健全な三角関係のお話である……。健全とは!

いやね、三角関係ってのは難しいもので、これを安定させようとしたら二等辺三角形ではやっぱり難しいんですよ。誰か一人に比重が寄ってしまうと、それはもう三角関係じゃなくて、単なる二股になってしまう。或いは、最小単位のハーレムと言ってもいい。
ところが、一辺一辺が均等に保たれた三角関係というのは、黄金のような定着を見るんですよね。ただそのためには、異性間での愛情のみならず、同性間にもそれに匹敵するほどの愛情か友情、親愛が不可分になってくる。

さて、本作はどうだろう。
端的に言うと、本作は同じ女性である幼馴染な麗良に恋する凛華が、その事実を知ってしまった天馬に手助けしてもらいながら、その百合な恋を成就させようというお話だ。
しかし、麗良はひょんな事から助けてもらった天馬に恋をし、凛華もまた身を尽くして自分の恋をサポートしてくれる天馬に惹かれていってしまう、という恋の矢印があっちこっちにとっ散らかってしまっているラブコメである。
一見すると、そのそれぞれの登場人物が発する想いの矢印は三人とも二方向に向いている。
麗良のみならず天馬にまで恋をしてしまった凛華。
天馬に恋をしつつ、凛華の恋を知って同じ人を好きになった事を祝福する麗良。
健気で懸命な凛華に惹かれ、優しく包容力のある麗良に動悸を速くしながら、凛華の想いを知る故に一歩後ろに距離を置く天馬。
なるほど、きれいな三角が成立しそうな関係である。大いに問題があるとすれば……、皇凛華という少女が何を仕出かすかわからないが必ず何かを仕出かす事のはわかっている、というレベルのポンコツである事だろう。
……いや、真剣に今までなんでバレなかったんでしょうね、というくらいの酷いポンコツなんですが、この娘。
あれかな? 今までずっと一人で周囲のイメージを守るために他人を寄せ付けずに孤高に徹していたからこそ、ある意味ずっと気を張り続ける事が出来ていたのかもしれない。
だって、あれですよ。天馬という協力者が出来た途端に、本当に途端に! あれやこれやとやらかすわやらかすわ。油断したのか気が抜けたのか、さながら自爆ボタンを連打するかのように、自分のイメージを崩壊させかねないやらかしを連発する凛華である。
おまけにこの少女、リカバリー能力がまったくない。突発的な予想外の出来事にあうと、フリーズして頭真っ白になるタイプであった。そもそも、天馬に百合を気づかれた件からして、うっかりとその後の冷静さを失っての自爆ですからね。いやマジで今までよくバレませんでしたね!
まあそんな彼女ですから、放置しておくと速攻で取り返しのつかない羽目になるので、天馬も勢いフォローにひた走ることになるのです。フォローで済む程度ならまだマシなのですが、あれだけやらかしまくるとこれ要介護、と言っても過言じゃないんじゃないだろうか。
実際、まともな手段ではフォローしきれなくなって、色んな意味で自分の身を削って、身どころか尊厳とか名誉とかこれまでのキャラクターとか全部投げ売ってかばう羽目になるからなあ。
なぜそこまでしてくれるのか、と凛華としてはいいたくなるのかもしれませんけれど、見ちゃおれんのだ。あまりにポンコツすぎて。放っておいて偉いことになってしまうのを見過ごしてしまう方がいたたまれなくなる、そんなタイプの人間っているじゃないですか。
とはいえ、天馬という少年が自分でも自覚あんまりなかったのでしょうけれど、尽くす系男子だったのも間違いなく。多分、放っておくと生物的にも社会的にも死んでしまいかねない壊滅的自爆型ポンコツ女子と、彼の相性は良くも悪くも凹凸のようにピッタリとハマってしまうものだったのでしょう。
そして、凛華もそんな彼の献身に無反応で居られるほど無情でも無神経でもなかったのである。むしろ、情にはすぐに揺さぶられてしまうタイプだろう。
んでもって、面白いことに凛華の幼馴染であり想い人である麗良もまた……非常に母性が強く他人を思い遣る気持ちを多分に持っている、包容力の権化みたいなタイプの少女なんですよね。そして、その方向性は、誰にでもというわけではなく特に親しい人間へと向けられている。誰にでも優しく愛情深いけれど、それを特定の人間により焦点を当てて捧げられる系統の娘に見えるんですよね。
そして当然、その焦点は幼馴染である凛華へとあてられている。
……凛華の好みのタイプって、もしかしたらいわゆる自分を介護してくれる人なんじゃないの? とか思えてくるんですが。
でも、こうしてみると……この三人の三角関係においての二等辺三角形の頂点に位置するのって、天馬じゃなくて凛華じゃないの?と思えてきちゃうんですよね。
これほどのレベルの壮絶なポンコツっぷりである。そりゃもう、尽くす系男子女子が両側から寄ってたかって介護しないとまともに生きていけないんじゃないだろうか。ちょっと目を離すとえらいことになってしまうんじゃないだろうか。天馬でも、麗良でも、一人ではちょっと面倒見きれないんじゃないだろうか。
となると、凛華を天馬と麗良二人でお世話し続けるのが、実は一番安定する彼ら三人の三角関係なんじゃないだろうか。
なんてことを、色々とこの作品の、この三人の関係について考えていたら、思えてきてしまったんですよね。

ともあれ、まだ現状では如何ともし難いところであります。というのも、この三角形の一角を成す麗良という少女のキャラクターがまだ全然掘り下げ切れていないんですよね。彼女がいったいどんな人物なのか。どういう内面をしていて、今の状況を実際どのように捉え思い描いているのか。
この一巻ではどうしても凛華と天馬のラインに重きが置かれていて、麗良とのラインがどうしても薄くなってしまっている。この三角関係が本当の意味で成立するには、椿木麗良という登場人物の真髄を明らかにすることが不可欠なのだ。まだ弱い、まだ足りない。
だからこそ、次の巻こそは麗良にスポットがあたってもらわないと困るんですよね。さて、彼女の真髄がどこらへんにあるのか、そこには何が秘められていて、この三角関係をどのような色に染め上げていくのか。実にワクワク、或いはゾクゾクするところでありますよ。