【魔術師クノンは見えている】  南野 海風/Laruha カドカワBOOKS

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目の見えない少年クノンの目標は、水魔術で新たな目を作ること。魔術を習い始めて僅か五ヵ月で教師の実力を追い越したクノンは、その史上初の挑戦の中でさらに才能を開花!
 魔力で周囲の色を感知したり、水魔術の応用で懐炉や湿布を作ったり、初級魔術だけで猫を再現したりーー。
 その技術と発想は王宮魔術師も舌を巻くほどで、クノンは実力を買われ、最高の腕を持つ魔技師の弟子になることに!?
 好奇心で世界を切り拓く、天才少年の発明ファンタジー!


羽根ペン!! いや、羽根ペンはやめてあげて!! イラストにされてしまうと確かにもう羽根ペンの方にしか目が行かないから! なんてひどい絵面ッ。
クノンは悪くない、そりゃ悪くないんだけどさ。あんな羽根ペン刺さってたら、そっちに目が行っちゃって離れなくなってインパクトそれだけになってしまうのもわかるけれど、けれども。
長年ずっと寄り添ってくれていた、きっと心の支えの一つにもなっていただろう婚約者のミリカ姫の尊顔をようやく念願かなってはじめてその目で……いや、自分の目じゃないんだけれどさ、ようやく確立した視覚で見たその感動を、もしかしたら改めて恋に落ちてしまう瞬間になっていたかも知れない一瞬だったのに、これはひどいw

とまあスカタンというかスチャラカなノリで繰り広げられる、魔術師クノンの楽しい日常。この少年、日々をエンジョイしすぎである。いやまあ、見えた世界が変だった問題は別にクノンが意図した事ではないのだけれど。
最初、この作品イメージとしては暗い印象だったんですよね。何しろ、主人公のクオンは生まれつき目が見えない。そして多大な魔術の才能を開花させながら、その目的は目玉を魔術で創りあげてこの世界を自分の眼で見ること。
そのクノンの神秘的とも言えるビジュアルデザインと相まって、求道者的な余人と関わらず自分の目的を追求する隠者のようなイメージが読む前には自然と湧き上がっていたんですよね。
そういう人物像だからこそ、やっぱり普通の人間とは価値観が違ったりして、関わってきた人間を時に助け、時に破滅へと導くような超常的な立ち位置の主人公なのかなあ、と。

うん、全然違いましたね。超俗っぽい子でしたね! 思いっきりぶっ飛んではいるけれど、思いっきり陽キャラでしたね!
まあ最初はやっぱり目が見えないというハンデに苦しみ、自分の運命を嘆いて陰に籠もっているような覇気のない子だったのですけれど、魔術の才に目覚めたのをきっかけに、そして自分の魔術で視覚を得るという発想を得たことで、それを人生の目的と見定めたことで、彼の閉ざされた世界は見事に前向きで希望に溢れたものへと開かれたのでした。
あと、専属のメイドであるイコの性格のアレさの悪影響ですね。うん、悪影響悪影響、クノンがこんな子に育ってしまう原因の大半がこのメイドのいい加減というか人生謳歌しすぎてラリってるんじゃないかというお調子者の性格がもろに影響受けちゃったせいなんですよね。大半、このメイドのせいw
おかげで、前向きになったのはいいけれどやたら軽薄でお調子者でパッパラパーな性格になってしまったクノン。盲目というハンデも、魔力を知覚するという感覚を会得したことで、世界を見ることは叶わないものの、周囲の状況を正確に把握するという点では目が見えるのと変わらないだけの知覚力を獲得していて、とりあえず目が見えなくて困る、という事がなくなったのも大きかったのでしょう。
引っ込み思案だった幼少期はどこへやら、バイタリティの塊みたいな子になってしまって、どんどんグイグイ前へ前へと突き進み、世の中の困難を笑ってはしゃいで茶化してひょいひょいと飛び越えていくような愉快な子になってしまわれて……。
いやあ、家族仲が本当に良かったのが幸いだったというべきか。いや、暗い時期のクノンに目一杯愛情を注いで支えてきたのも両親や兄なので、性格激変したあともクノンが家族のことを慕いまくっているのもよくわかるんですけれど、若干家族の皆さん君のノリについていけてないから、こいつマジで大丈夫か?とかつてとは別方向で頭悩ませてるから、もうちょっと手加減してあげてw
それでも、明るくなった末っ子の様子を喜んで、彼が魔術に才能に目覚めて人生謳歌している様子に安堵して、やたらトラブル起こすようになって振り回されながらも、彼のことを何くれとなく助けてくれる家族の皆さん、ほんとにいい人ばかりでその点はクノン家族に恵まれたんだよなあ。
魔術の指導に関しても、クノンが尋常でない才能を持っていると発覚した後も先走らずに、最初の先生の下に預け続けて兎に角身体が大きくなるまでは基礎をしっかり収めさせよう、という地に足がついた方針なんかを見ても、両親の子供に対する姿勢というのはしっかりしてるんですよねえ。
お陰で、平凡な才能しか持っていない魔術師の先生がえらい目に遭うのですが。でも、ジェニエ先生、教えるという観点に関しては確かに素晴らしかったんですよね。自分ができないことまで教えるはめになった先生ですけれど、その必死の小細工が常識にとらわれない発想、魔術で出来ることという固定観念の突破をはかるきっかけになったのですから。ジェニエ先生が卑下するよりも、彼女の発想力は凄いと思うんだよなあ。彼女が居なければ、クノンは自分の目玉を創るという人生の目的を得ることが叶わなかったわけですし、そのために必要な創造力を高めてくれたのも彼女なわけですから、間違いなく恩師なんですよね。
先々、また登場してくれるみたいなのでそのあたりはなかなか楽しみ。

さて、魔術師として若くしてどころか幼くして大成してしまったクノン。彼と婚約していた第九王女のミリカとの仲は最初ギクシャクしていたのだけれど、クノンが性格激変してしまってからは、非常に仲良くなって順調にその仲を深めていっていたのだけれど、クノンが有名になればなるほど政略結婚の駒としての価値が爆上がりしていってしまって、むしろ価値の比重として王女のミリカよりもクノンの方が重くなってきてしまったんですね。そうなると、ミリカの方がクノンに釣り合わなくなってくる。
ある意味自由に、思うがままに生きていく強さを自分の中に生み出したクノンですけれど、彼のその強さ自由さゆえに、そんな彼の隣についていくことは並大抵の事ではなくなってきてしまったんですねえ。
ここでクノンを引き止めるのではなく、自分がクノンに追いつくのだ、クノンに見合うだけのものを手に入れるのだ、と努力するミリカがまた健気でひたむきでイイヒロインなんですよね。彼の夢を、生きるための希望をずっと応援してきた彼女が、それ故に置き去りにされてしまうのはやっぱり辛いじゃないですか。
でも、その頑張った先の方向性が、おやあ? という感じになりはじめている不穏なこの空気。ミリカさん、ミリカ姫さま、あなたまでクノンの悪影響受け始めていませんか?
なんかラスト、かなりこうなんというか……盛大になんか踏み外しちゃった感が出てる立ち位置になってるんですがw
大丈夫ですか、ほんとに大丈夫ですか!?

ともあれ、クノンのあのネアカと言っていいくらい明るくて行動力の塊でお調子者で能天気で、という陽気なキャラクターと、その脇に侍るクノンを倍増ししたような調子に乗りすぎて若干ヤバい人になっているメイドのイコとのスチャラカコンビを中心に繰り広げられる、ほんと人生楽しそうな、日々毎日が痛快愉快でたまらないといった感じの雰囲気が、うんこっちまで楽しく元気にさせてくれるみたいで、面白かった。
物語としては、クノンがようやく手に入れた「見える世界」が、どうも現実に見えている世界と少しズレている、不思議で不可解な状態である、というのが重要なキーワードになっていそうで、ある意味ここからが本格的なスタートなのかもしれない、というワクワク感もあって、ミリカ姫さんなにしてんすか!? という状況も相まって、次回も大変楽しみです。これは期待のシリーズはじまりましたね!