【転生したら皇帝でした 1 ~生まれながらの皇帝はこの先生き残れるか~】  魔石の硬さ/柴乃櫂人 TOブックス

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とある歴史好きの男が転生した先は、先代皇帝が暗殺されたブングダルト帝国。しかも、その新皇帝カーマイン(0歳)だった。「次俺の番じゃん、怖すぎ……! 」と逃げる準備を始めるも、期待に満ちた民衆3000万人の大歓声を前に、逃げ切れないと悟る。腹をくくった彼は、暗黒の歴史に終止符を打つため、腐敗した帝国の大改革に乗り出す。嘘泣きで摂政から情報収集し、躊躇いのない恫喝で密偵を懐柔。高度な魔法で華麗に裏をかくと、悪徳(クソ)貴族たちを青ざめさせていく! 「余にひざまずけ! 」エスプリ幼帝が悪を一掃! 痛快サバイバル王政ファンタジー!



転生モノでかねがね思っていたのですが、まだ一桁の年齢、それも5歳や3歳と言った幼児の段階でその才能を明らかにして、国政を動かしたり領地経営に辣腕を振るい出したり、という作品が少なからず見受けられるのですけれど……いや、さすがに幼児は無理じゃねえ? 神童にも程があるでしょう。それはもう怪異か人間以外の化け物でしかないでしょう。明らかに異常極まる存在に、いかに有能だからといってハイハイと大人たちが魅了されて言うことを聞くだろうか。
かつては赤松健先生の【魔法先生ネギま!】のネギ先生ですら、10歳!? さすがに幼すぎるでしょ!? と若干引いた記憶がある身からすると、隔世の感ありなのですよねえ。
もちろん、このあたり上手いこと説明をつけたり、理由付けとして納得の行くものを仕上げたり、キャラクターの魅力で押し通したり、と作者の腕前をまざまざと見せつけられる名作もあり、まあこのあたりの設定に対する説得力というのは、設定の荒唐無稽さとは関係ない事も確かなんですよね。難易度はあがるんでしょうけれど、書く人にとっては全く関係のないハードルだったりもするんですねえ。

んで、本作なのですが、この赤ちゃんの段階から早くも動き出さなければならなかった理由付けとして、まさに逃れられない意味合いがあって、非常に納得させられるものだったんですよね。そして、必死にならなければならない理由としてもとてもおもしろいものだった。
父である先代皇帝が戦場で不審死(明らかに暗殺)、さらに先々代も謀殺されたと思しき状況で、0歳にして唯一の嫡子として皇帝に祭り上げられた、生まれながらの傀儡。しかも、不都合がアレば即座に殺されかねない危うい環境で、なんにも出来ない赤ん坊という立場で綱渡りを強いられる羽目になった主人公。
皇帝という絶対権力の主でありながら、その権力を一切持たない玉座という処刑台の上に座らされ続ける存在。
そんな彼が、二大派閥による権力闘争の狭間を傀儡の何も知らない馬鹿な子供を演じながら、なんとか生き延びようと泳いでいく、これは宮廷という魔窟で行われるサバイバルなのである。
ちょっとでも英邁な姿を見せてしまえば、傀儡としてふさわしくない姿を見せてしまえば、謀殺されかねないという、味方もいなければ信じられる相手もいない孤独の中で、さて前世の知識などどれほど役に立つのか。
いや、勿論大いに役に立ちますとも。知識というよりも、知性ですね。前世を生きた成人としての知性が、理性が、知識が、彼に生存のための振る舞いを手繰り寄せたのですから。
でも、それって結局この世界の知識ではないんですよね。この世界、この国で生きるために必要な知識というものは、どうしたってここで学ばないと育まれない。傀儡として都合よく動いてもらえばそれでよく、いらない知識を付けたくない臣下たちは、対立派閥同士でもそこは共通認識だったらしく、まったく主人公に教育らしい教育を施さないために、どうしたって必要な基礎知識が学べずに次第に詰んでいくのは、前世の意識があってもそれは万能ではなく、それでも出来ることがあまりに少ない皇帝という立場が、どれほど厳しい牢獄なのかを思い知らせるようで、緊迫感すら感じさせる切迫性だったんですよね。
そんな中でも、諦めずに雌伏を続ける主人公。独学で魔力の扱い方を手探りで掴みながら、同時にこの宮廷内の政治構造を少しずつ把握していき、味方となってくれるもの、信頼できるものを少しずつ見つけ出していくのである。
それは、最初ただ生き残るため、殺されないための生存の希求だったのだけれど、奸臣ばかりが蠢き国益が損なわれ私利私欲による暴虐が蔓延り、数少ない心ある臣たちが踏みにじられ、国民達が苦しんでいる現状を、限られた視界の中でも目の当たりにしていくうちに、彼の中に責任感が芽生えていくのである。
君主として、人々に期待されそれに応えるべき立場の存在として、自分がなすべきことを彼は自覚していくのである。
表向きには、佞臣どもにいいように操られる頭が空っぽな傀儡の幼帝として振る舞いながら、虎視眈々とその時が訪れるのを着々と準備を整えながら、派閥抗争にこっそりガソリンを注いで各派閥にダメージを与えつつ、起死回生のための何かを、きっかけを手に入れるために足掻き続ける。
チートものとは裏腹の、何もできない不自由ばかりの中からの逆転劇。今はまだそのスタート地点にも立てていない状況だけれど、だからこそここからの展開が実に楽しみな一作でありました。