【現実でラブコメできないとだれが決めた? 2】  初鹿野 創/椎名くろ ガガガ文庫

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第二章 サブキャラをラブコメ落ちさせよ!
トンデモ理論で共犯者・彩乃を『幼馴染』にでっち上げ、なんとか危機を乗り切った耕平。
作り上げた友達グループとの親交も順調。
「これで理想のラブコメができるはず!」いざ実現に向け行動を開始する――が、クラスが全然ラブコメにノッてくれない!
1年4組を「ラブコメできるクラス」にするには、サブキャラたちの協力が必要。
『昼食時のオタトーク』『自由時間のバレーボール』『地域清掃ボランティア』さまざまなイベントを駆使して絆を深め、徐々にクラスを盛り上げていく。
だが、勝沼あゆみが不穏な動きを見せており――!?


――ラブコメは『実現する』時代へ! 待望の第二弾登場!!

こいつ、この主人公、耕平って本気で理詰めで物事を進めようとするなあ。
データ分析から割り出した行動パターン、思考パターンから統計を導き出してクラスメイトたちの言動を誘導していき、望んだ結果にタッチダウンさせていこう、とそれを実際に実行しているのを見ると、かなりこうドン引くというかビビるというか。
彼がやってる事って、現実世界でラブコメをする、どころじゃないとんでもない事をしてるんじゃないだろうか。
個人に的を絞って望んだように誘導したり思考の方向性を縛ったり、というのは詐欺師に代表されるようにある程度方法論というのは確立してると思うんですよね。難しくはあるけれど、出来ないものでもない。
また、大衆という凄く大きな括りで雰囲気を醸成し、全体を流れや空気なんかで扇動していく、みたいな感じで細部に拘らずにぼんやりとした感じで動かしていくやり方もあるでしょう。
でも一つのクラスを個々人全員の情報をデータとして収集分析した上で、全員の行動思考パターンを解析し、そこから派生する人間関係を全部考慮計算に入れた上で、思う通りの形に動かしていくって、ハチャメチャもいいところなんですよね。
とんでもねーレベルと規模のデータ至上主義者だ。そして、その情報収集能力、情報分析能力、その分析結果から導き出されるプランの構築能力。リサーチャー、アナリスト、プランナーとしての能力はもはや学生レベルじゃないんですよね。ってか何者だよ、一人情報機関か、こいつ?
もちろん、どれほど化け物でも一人では限界がある。それをフォローする形で共犯者として彩乃が協力しているわけだけれど……。
現実問題として、生の人間一人の人格から人生から全部データ化するのは不可能に近い。その人間がこれまでどんな人生を送ってきて、どういう考え方をしていて、表に見せていない部分でどんな性格をしていて、どんな想いを秘めていて、どんな決意を固めているか、なんてのはどれほど情報収集能力に長けていても、すべてを暴き出すというのは難しい。
そして、計画は理詰めになればなるほど、その理論を構築するための情報が欠けていたら正しい答えは導き出せない。計算ってのは、正しい数値を入力しなければ絶対に正しい答えを弾き出さないのだ。
そして、現実の人間の情報を集めきるのは事実上不可能である。

ラブコメクラスを誕生させる上で、最大の不安要素であった勝沼あゆみとその所属グループ。彼らの詳しい情報を集めきらないまま、見切り発車ではじめたイベントは、案の定勝沼あゆみという人物の情報不足に端を発した計算違いによって、盛大な失敗を見てしまうことになる。
表層から得られた情報は、やはりどうしたって表面だけしか捉え切れていない。その深層まで切り込むには、膨大な数量の表層のデータを取り揃えるか、敢えてその人物の懐にまで、プライベート、よそ行きの仮面を外した素顔の内側にまで踏み込むしかないのだ。
そこまでやって、ようやくその人の生のデータ、本当の姿と向き合える。同時にそれは自分の本当の姿もさらけ出して、お互いにぶつけ合うことになってしまうけれど、結局そうやって対等の立場に立ってぶつからないと、見えてこないものはあるのでしょう。
でも、耕平はわかっているのかな。
ラブコメ環境を整えるために、本来の意図を悟らせずに誘導という形で人を動かしてきた耕平。
でも、最後に勝沼あゆみに対して行ったアプローチは、その域を超えちゃっているんですよね。
耕平にとっては、ラブコメ環境を整備するために必要な手順の一つだったかもしれない。ラブコメができるクラスを作る上での、過程の一つだったのかもしれないけれど。
サブキャラだろうがなんだろうか、人の心の内側にまで踏み込んで自分の本性さらけ出してぶつかって、その人の価値観だのその人生の中で培ってきた生き方だの、そういうのを丸っとひっくり返してしまうほどの深度のコミュニケーションは、もうそれそのものがラブコメなんだよ、って事を。
一巻でもそうだったけれど、この自称主人公はラブコメが出来る舞台を作り上げようと奔走すること、それ自体がもうラブコメしている、という事に気づいているんだろうか。
この男、演者としての主人公役の才能はかけらもないと思うし、こいつが作り上げようとしているラブコメって、お話としてベタすぎて没個性で凡庸で脚本家としてもあんまり見るべき所はないと思うんだけれど、でもこうして見るとちゃんと主人公してるんだよなあ。

そして、耕平の目指すものへのアンチテーゼで本性を隠しながら暗躍を続けていた「メインヒロイン」清里芽衣。彼女の動向が徐々に浮き上がってきている。そして、そのカウンターとして密かに動き始める「人造幼馴染」上野原彩乃。
この二人の動向にも思惑にも内面にも、今の所耕平はなんにも気づいている様子がない。データが、データが完全に不足している、情報を獲得できていない、どころか足りていない事にすら気がついていない。
データに基づいて現実にラブコメを実現させようとしていながら、一番重要なキャストについての情報が穴だらけを通り越して誤謬を起こしているというのは、やっぱり致命的だよなあ。
さて、すでに導火線に火はついちゃっている模様。どうなる、どうなる?