【黒猫の剣士 2 ~ブラックなパーティを辞めたらS級冒険者にスカウトされました。今さら「戻ってきて」と言われても「もう遅い」です~】  妹尾 尻尾/石田 あきら ダッシュエックス文庫

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古竜ムゥヘルに勝利した【紅鷹】メンバーは、息つく間もなくトルネードラゴンとの対決に向かう!
魔力がほぼ0でありながら、あらゆる魔術を斬るナインや、ダリアを擁する最強パーティの活躍により敵の撃破に成功した。
戦いの日々の中、ダリアとの距離が縮まっていくナイン。だが彼の前に、出生の秘密が立ち塞がる。
一方、邪竜王の復活を目的とする【ヴァルムント】教が、封印を解く鍵を握るナインに接近し…!?
本当の父親、ダリアとの恋、邪竜王の復活。黒猫の剣士は己の宿命を断ち斬ることができるのか!
大人気御礼! 無能とされた少年が活躍の場を見つけて成り上がる! 超速の異世界ファンタジーアクション第二弾!!



うわぁ、ナインくんが健気で健気で、こういうさー素直で真っ直ぐで可愛げがあってはにかみ屋な男の子がさあ、献身的に尽くしてくれるってなんなんだろう、性癖が歪むよね。
良い子なんだよぉ、めっちゃ良い子なんだよぉ。それがさあ、何でそんな不幸な境遇なんだよ、ってくらい辛い人生送ってきて、ようやく好きな人に巡り会えたんだよ。大好きだった家族を理不尽に奪われて、自分だけ守られて生き残らされて、家族の一族のために彼らが残してくれた剣術を大切に守ってきて、それでもずっと報われずに良いように利用され搾取されてきた子が、ようやく頼れる仲間たちを、友人たちを、いや兄姉たちと出会ったというのだから、幸せになったっていいじゃないか。
周りのみんなも応援してくれてるんだから。この子には幸せになってほしいと、心から思ってくれているんだからさあ。
なんて真っ直ぐな恋なんだろう。なんて純真な想いなんだろう。あれほど煤に塗れた人生を送ってきたのに、この子の心はとても綺麗で、そこから生まれる淡い思いはキラキラしていて。一途で一心不乱で、かわいい、かわいいよナイン君。
大体ですね、この子自分の心も偽らないんですよ、誤魔化さないんですよ。決して自信満々ってタイプじゃなくて、むしろ自己評価低い方じゃないのかな。そんな子が、その恋だけは自分に誤魔化さなかった。リンダに、ダリアの事を好きだと告げた時は驚いたけれど、その姿は凛々しくすらあったのです。
でも、それを無分別にダリアに告げてしまわない聡明さと思慮深さが、むしろ逆に事態を拗らせてしまっているとも言えるんですよね。
いや、ダリアの立場を考えれば、慮れば、さらに彼女には婚約者がいると思しき勘違いをするシチュエーションだったのも加わって、自分の気持ちを告げることは押し付けることでもあるという自覚があるが故に、謙虚であるが故に、ダリアの事が好きで好きでこの人に幸せになってもらいたいという純粋な願いを胸に宿しているからこそ、自分の想いをそっと秘めたまま眠らせようという健気さ。
剣士として、彼女の傍に侍り彼女を守ることだけは許してほしいと願いながら、静かに決意を固める一途な献身。
ショタっ子が、ショタ少年がそんな健気なことしちゃだめぇぇ。

いやもう、ダリアさんさあ。悪いのはだいたいこの女である。弁解の余地はあるかもしれんが、ナイン君は悪くないので、全然悪くないので相対的に彼女が戦犯である。情状酌量の余地はあるにせよ。
いやもうみっともない自覚があるのなら、みっともなくていいからもうちょっとこっちは勇気を振り絞るべきだったんだよなあ。格好良いお姉さん、という体裁がむしろ彼女の脚を引っ張ってしまったのか。意外とメンタル弱々だったのも、仕方ない所だったのかもしれない。むしろ、支えられたい系だったのにお姉さんムーブしようとするから。自爆もしてるし。

いろんな柵とか体裁に一旦絡まってしまった関係だからこそ、そういう地上世俗人間関係諸々を置き去りにして、ただ戦いのはてに、命も未来も吹き飛ばして何も残らず、ただその身その心二人きりの空の果てで、ようやくまっさらになれたが故の二人の愛の告白と交感は、やっぱり告白のシチュエーションの極地の一つですよねえ。

見せ場となるアクションシーンは、相変わらずのスケール感。いや、ただでさえ数キロ単位のフィールドを縦横無尽に走り回っての高速戦闘だけでも凄まじいのに、ついに戦略弾道魔法とか出てきましたよ!?
とかく、対ドラゴン戦という巨大生物との戦闘というのは、機動力低めのスーパーラージサイズの敵ユニットを真ん中において、味方ユニットがその周辺を飛び回り駆け回りながら巨大敵ユニットを削っていく、という形式になりがちなんだけれど、本作だとそのドラゴンも超高速で動き回って、その質量の段違いな敵ユニットと真正面からガチンコしながらフィールドを飛び回るからとてつもないスケールのバトルシーンになるんですよね。
この規模とスピード感の対竜戦闘は、【境界線上のホライゾン】以来だなあ。

ラスボスもまた、神の領域にいるドラゴンでしたけれど、そうかー、ちゃんとこの2巻でもサブタイトルの意味合いは踏襲してるんですね。読んでる時は意識していなかったけれど、あの邪竜の言動を思い返していると、サブタイトル通りとなるのか。色んな意味で、もう遅い以外のなにものでもなかったですよね。
ただその分、邪竜王がその実力とは裏腹に、性根の方はしょうもない小物成分多めのキャラになってしまっていたような気がしましたけれど、この場合ラスボスは立ち塞がる大きな壁じゃなくて、馬に蹴られて死んでしまえ、という方向性が求められる敵でありましたしね。
そして、つまらない男であった事こそが、ナインくんの努力と、苦痛に塗れた人生の先に掴む幸せへの敵、という意味でピッタリでしたし。
何より、猫から見て竜という生き物は「鼠」にしか見えないな、という黒猫エヌの、実に猫らしい、この世で一番高貴で偉くて可愛い生き物であるが故の、物言いにスッキリさせてもらいました。
所詮、竜なんて、毒父なんてものは、鼠みたいな貧相で意地汚くてつまらない存在だったのだ。猫に前足でちょいと潰される程度の、今後のナインくんの人生になんの意味も価値もない、存在だったのだと思えば、何とも胸のすく想いでありました。

綺麗に見事に大団円のハッピーエンド。でも、個人的には、ナインくんにはちっちゃいままで居て欲しかったなあ。かわいいナイン君で居てほしかった、おのれかっこよくなっちゃって。ショタコン!
ダリアさんはご満悦みたいだけれど。