【悪逆大戦 地獄の王位簒奪者は罪人と踊る】  綾里けいし/るろあ MF文庫J

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス

地獄に堕ちた魂を救済するにはどうすればいいのだろうか?
罪もなく奈落の底まで堕とされた少女・櫻。その行方を追い、かつて地上へと逃げ出した俊は地獄へ舞い戻ることを決意する。
命がけで地獄の王の七番目の子、美しき怠惰の姫・ネロのもとへ行き助力を乞う。
しかし、地獄の最下層に送られた亡者の判決は、地獄の王以外には覆せないと聞かされ……。
「ならば、俺が王になる!」
伝説上の名だたる悪人を「駒」として従え、少年は戦う。悪人同士の熾烈な決闘――王位継承戦を勝ち抜く、ダークファンタジー。
邪神も魔王も重罪人も、どんな「悪」だろうと従えてみせる。すべてはアイツの魂を救うために――。


まず冒頭から、一人の少女の遺書からはじまる。それを書き残したのは、人間界で主人公西島俊、地獄の公子としての名をルクレッツィア・フォン・クライシスト・ブルームという少年と仲睦まじく過ごした桜花櫻という少女であった。
……俊の地獄名、変じゃね? ルクレッツィアって女性名じゃないの? クライシストという単語もなんか変だし、ブルームというのも、桜花と対比させると意味深じゃないですか?
だいたい、桜花櫻って名前も変と言えば変だ。美しく散るのを前提としているような名前じゃないか。
そもそも……なんで遺書なんか遺していたんだ、この娘は?
おかしいだろう、彼女が死んだのは突発的な事故。いや、事件によるものだ。誰も、そんな事が起こるなど妄想はしても想像はしていなかった事件によって、起こってしまった死である。
それが予期されたはずがない。なのに、彼女はどうして自分が死ぬ前提でそんなものを遺していたんだ?

彼女にまつわる謎は他にも幾つもある。彼女が死んだ事件自体、偶発的なものではなく地獄の奥で何らかの謀略によって引き起こされたものである、ということがラストに明かされているし、本来地獄堕ちするはずがない桜花が、地獄は地獄でもよほどの罪人しか落とされないはずの最深部へと収監されている、という事自体が不自然だ。
果たして、彼女はただの人間だったのだろうか。
自分の不幸な生い立ちを乗り越えんと、目に映る不幸な人々を救うために駆け回り、そうして孤立していった彼女。人を救おうとすることで自分を救おうとした少女は、西島俊という少年と出会い、彼を守り、彼に守られることでようやく安住を手に入れた。救われたはずだったのに。
どうして彼女は、俊を守って死ぬ運命を知っているかのようだったのだろう。それで、彼が果たして救われるはずがないと、わかっていたのに。
忘れないで、愛していた。その最後の言葉は楔のように打ち込まれている。

不可思議といえば、ネロもそうだ。この地獄の王を決める戦いの第七位。俊に権利を譲り、駒を呼び出す魔力を貸し出すスポンサーとなり、彼の敗退は自らの死であるにも関わらず運命共同体となることを受け入れた地獄の公主。
彼の桜花を救いたい、そのために地獄の王にでもなんでもなってやる、という途方も無い意思を面白がり、彼にすべてをBETしてみせたネロは、だけれど不思議なくらい協力的だ。なにか、裏の意図を含み持っていて、謀を張り巡らしているようにも見えない。
文字通り、俊にすべてを預けきり、自分の生き死にすら任せきっている。それでいて、傍観に徹しているわけでもなく、助言をくれることもあるし、鋭く叱咤してくれたときもあった。
まるで、本当のパートナーのように。彼女にはそんな事をする謂われもないはずなのに。確かに、ネロという魔人は、異端者なのだろう。自分の命すらも弄ぶ享楽者なのだろう。変人で、奇矯な奇人である。
でも、それに留まらない好意が、最初から俊に対してあるような気もするんですよね。俊がネロを訪ねていったときが初対面のはずなのに……本当に、初対面なのか?

なにか、この地獄の王を決める戦いの裏で思惑が動いているのだろう。でも、その真実に一番近い謎は、主人公である俊の身近にこそ、櫻とネロという二人のヒロインに奥底にこそ蠢いているようで、なんともゾワゾワさせられる状況なのである。

さて、肝心の王を決める戦いは、それぞれ魔力を使って三人の駒を呼び出して、それを戦わせあって決めるものだという。呼び出せる駒は、この地獄に収監されている悪人たち。
なるほど、それで悪人限定なのか! そりゃ、地獄にこそ、そういう稀代の悪人たちは、罪人たちは居るべき存在だもんなあ。合理的だ! こういうのを合理的と言っていいのかわからないけれど、理に適っている!

尤も、最初の対戦で呼び出された六人の悪人たち、その過半が現実に存在した人間じゃなくて、創造されたキャラクターである、というのはまた、ある意味好き放題やりたい放題、やりたい事をやってるなあ、という感じがして好き!
いや、神話とか伝承の存在ならまだしも、シャーロック・ホームズ関連の著作の登場人物は完全に創作物ですし、夜長姫も地方の伝承に残っている人物とかじゃなくて、坂口安吾の小説の登場人物ですもんね。いや、なかなか予想つかないメンバー編成でした。
これ、決闘に生き残った悪人たちは、そのまま残って傍に侍ることになるみたいで、実際モラン大佐は結構甲斐甲斐しく執事みたいに俊の傍らに控えているのだけれど、今後この残っているメンツも無視できない役割を果たしそうだなあ、と引きこもってるあの人を意識しながら。

ある意味、一番正統派の強者はここでジャイアントキリングしたので、今後は一癖も二癖もある食わせ者たちとの対戦になっていきそう。でも、主人公サイド、駒の決定後出しで出来るのって一回戦見ると滅茶苦茶有利じゃないの、これ?
一番下位の主人公たちが、自分たちより上の候補者たちを全部下して勝ち抜かないというとてつもないハンデがあるにしても、そしてネロの魔力を十全受け止められずに呼び出せる駒の格に制限がある、というハンデもあるのだけれど。こうしてみると、不利と有利はそこそこ釣り合っているのかもしれないなあ。