【勇者、辞めます ~次の職場は魔王城~】 クオンタム/天野 英 富士見ファンタジア文庫

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役目を終えた最強勇者、その最後のひと仕事。魔王軍立て直しファンタジー!

勇者に敗れ、再起を図る魔王軍の前に現れたのは、かつての勇者レオだった。
剣術、魔術、古今東西あらゆる技術に精通し、たった一人で魔王軍を倒した最強の勇者。
だが彼は強すぎるために人間の国から追放され、魔王軍へとやってきたのだった。
正体を隠して魔王軍に入ったレオは、人手不足や台所事情、ボロボロの魔王城さえも、身につけたスキルと経験であっという間に立て直していく。
またたく間に新たな幹部にまで上り詰めるレオだが、彼の狙いは魔王軍再生だけではなく、世界全体の“立て直し”にあるようで――?
役目を終えた引退勇者の最後のひと仕事、ここに開幕。

ほーーーーっ!!! いやぁ、これは面白かったなあ。
正面からの攻撃を主攻と思って受け止めていたら、実は囮で絶好のタイミングでヌルリと側面から本命の主攻が襲いかかってきた、みたいな抜群に上手い戦術を食らったみたいな構成でした。
或いは将棋を対局してたら、肝心なところで盤面をくるりと180度ひっくり返された、とでも言うべきか
ちょうどこの4月からアニメ化されるとの事ですけれど、これはアニメの方を先に見ておいた方が純粋にストーリー構成に上手いこと乗せられてアッと言わされる楽しみを味わえたかもしれない。
この作品自体は、カドカワBOOKSの方から単行本として出版されていたのですが、アニメ化に差し当たって富士見ファンタジア文庫から文庫として改めて送り出されることになったようで。
そりゃ、文庫のほうが手が出しやすいですもんね。

勇者レオは、他に追随を許さない圧倒的な力を持っているが故に仲間を必要とせず、たった一人で侵攻してきた魔王エキドナの軍勢を蹴散らして人類の危機を救った。のだが、その圧倒的な力を危険視した人類によって追放された彼は、その足で壊滅状態からほそぼそと復仇を目論んでいる魔王軍の人材採用試験に潜り込み、魔王軍での再就職を目論むのであった。
いやそりゃ、仲間もおらず一人で魔王軍やっつけちゃうような勇者は、どう扱ったらいいかわかんないよね。弱い仲間は足手まといだから要らない、とか言っちゃってるような人間である。
これは独り善がりで性格が歪みながら力だけ秀でてしまったボッチ勇者が、魔王軍で人品を磨き直す成長譚なのかなあ、と思ったんですよね、最初は。
ところが、ワンマンで自分で何でもやってしまうタイプだと思われた勇者レオは、仮採用されるや組織のリーダーとして色々と問題を抱えている四天王たちの問題を次々と解決していってしまうのである。

部下に仕事を降るのが苦手で自分一人で抱えガチなサキュバス。
コミュ障で部下とうまくコミュニケーションが取れない暗殺者。
無知で知識が足りず、任された仕事のやり方を知らない獣人娘。
人の身になって考えることが出来ず、自分が出来るからと部下に無自覚に無理を強いてしまう竜人。

あれ? これってワンマン勇者が抱えてしまうタイプの問題じゃないの? と思うところなのだけれど、なんでかレオはこれらをテキパキとさばいていくんですよね。
部下への適切な仕事の振り方、部下や取引先との良好なコミュニケーションの取り方。自分の知らない仕事の覚え方。彼我の状態を客観的に把握し、適切な指示を出すためのノウハウ。などなど。
それぞれ、頭でっかちに見聞きしただけ知識じゃなく、ちゃんと自分で様々な経験をして学んだこと、実際にやってみて理論と実践をハイブリッドした上で導き出したノウハウを、レオは惜しげもなく四天王達に仕込んでいくのである。
いやだから、レオくん、どこでこんないろんな経験、体験をしてきたの? 仲間も必要とせずワンマンで全部一人でやってきて、実際魔王軍を叩き潰してしまったレオの経歴からすると、こんな人生経験豊富になりそうな旅はしてなかったっぽいんですよね。
だいたい、四天王に伝えたノウハウを身に着けた時のあれこれからすると、レオってぼっちどころか異様に人脈が広く深く、多種多様な階層分野に多数の知人友人がいないと成り立たない圧倒的な経験値なんですよね。でも、それだけ人脈が広いにも関わらず、魔王軍壊滅後に勇者が危険視されて追放の憂き目をみた際に、レオを庇ったり擁護したりする動きがまったく見られなかったのである。
それをして、レオは親しい友だちも誰もないボッチ勇者なのだと最初にイメージしちゃったんですよね。

そう、明らかに人物像が矛盾していく。
イメージの食い違いに戸惑うのは、魔王軍の四天王たちも同様だっただろう。でも、この四天王たち、参謀のシュティーナを含めてみんな素直であんまり他人を疑うタイプではないので、色々と為になる事を教えてくれて真摯に魔王軍の復興と改革に力を貸してくれるレオに信頼を寄せていくのである。いや、良い子すぎるだろう、みんな。
まあそんな子らだったからこそ、レオが選んだんでしょうけれど。彼らこそが「選ばれし者たち」だったわけだ。
四天王のサポートという試用期間から、いざ魔王エキドナとの直接面談。順調に魔王軍への採用試験をクリアしていっていたはずのレオだけれど、ふと気がつくと、いつの間にか……。
逆転してるんですよね、立ち位置が。最初の方で書いたように、盤面が180度ひっくり返ってしまっていた。
面接する側される側。選別する側される側。
いずれが魔王で、いずれが勇者か。
誰が世界を滅ぼし、誰が世界を救うのか。

これは勇者が勇者を辞めるために必要だった物語。彼が自分の人生を手に入れるまでの、お話だ。