【転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件 4】  雲雀湯/シソ 角川スニーカー文庫

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彼のことを「好き」な女の子と、友達になった。青春ラブコメ待望の第4巻!

隼人と春希と姫子は共に月野瀬村に帰省した。沙紀や従弟の心太と一緒に田舎の夏休みを堪能する。一途に隼人に思いを寄せる沙紀の姿を間近に見ていた春希は、自分の笑顔が作り物めいて感じられて……。


ああ、春希は月野瀬でも「二階堂春希」として振る舞うのか。
あの頃の男の子みたいなヤンチャでハツラツとした昔と変わらない女の子ではなく、立派に成長して楚々とした麗しいお嬢さんとなった「二階堂春希」として。

月野瀬の大人たちには、知っている昔の姿と姫子たちと一緒にいる時のちょっと素に戻る姿から、猫被ってるなあ、くらいに認識されたみたいだけれど。
でも、春希としては隼人や姫子に見せているような顔を、月野瀬の大人たちに見せることは出来なかったわけだ。
その後も、月野瀬の田舎の風情を存分に懐かしみ楽しみながら、でもそこには隼人や姫子と違って、「帰ってきた」「戻ってきた」という懐旧の情はあんまり感じられないんですよね。
遊びに来た、という感覚が一番似合っているのかも。
隼人に、いずれここに戻るのか、と問うた際もそこに自分の居場所はないようだったし。そう、この月野瀬も春希にとっての居場所とはなり得ないのだろう。
想い出の残るこの月野瀬の地ですら、彼女の居場所たり得ないとすれば、彼女はどこにいけばいいのだろう。
結局、彼女が彼女になれるのは、隼人の横だけなのだ。
でも、一途に隼人の事を想い続ける沙紀とこうして直接対面し、友達になった事で……彼女の純真な在り方を目の当たりにすることで、春希は自分に自信を喪っていってしまう。
周りを穏当にやり過ごすために作り上げていった「二階堂春希」という仮面。でも、そんな仮面を外したつもりの隼人や姫子に見せるハルキとしての姿だって、果たして本物の自分と言えるのか。

かつて「ハルキ」であった自分が暮らした月野瀬の地に立つことで。隼人を好きだという女の子と友達になって。
どれほど自分が隼人たちの幼なじみであった「ハルキ」に戻ろうとしても、もう自分はあの頃と違ってしまっていると突きつけられる。もう自分はどうやっても「女の子」で、この胸に宿る隼人への思いは、親友としての友情なんかではないと思い知らされる。
でもじゃあ、二階堂春希にもハルキにもなれない自分はどこに居るの? 本当の自分ってどこにあるの?
春希がどんどんと不安定になっていく理由も、こうしてみると何となく伝わってくるんですよね。
でも同時に、隼人が熱出してぶっ倒れた時の脇目も振らない一心不乱の行動なんかを見るに、絶対的な基準な唯一すでに定まっているのだ。
春希がどう改めて自分を定めていくのかも、居場所を作ってやれるのも、引いては隼人がキャスティングボートを握ってるんだよなあ、こうしてみると。
つまるところ、隼人がさっさと決めてやらないといけないんだ。ハルキという幼なじみに甘えっきりだから、春希がどんどん不安定になってくる。むしろ支えてやらないといけないのに。
なんでか、今回の月野瀬での日々においては、春希の心に寄り添い支えて勇気を与えてくれたのは、不安定にさせていた原因の一つでもある沙紀ちゃんなんですよね。
幼い頃、母が病気の身になり初恋だったハルキはいなくなり、不安定極まっていた姫子を立ち直らせたのが、突き放されてもめげずに寄り添い続けた沙紀ちゃんだった事を鑑みると、この娘って本気で弱くなってめげちゃっている子を目の当たりにすると、無視できない子なんだろうなあ。
むしろ内気で大人しくて、人の輪に入っていくのに凄く勇気を出さなきゃいけないようなタイプの子だと、春希と隼人と姫子の輪に加わることに気後れと生じさせていた様子を見ると、それ以外にも気を使いすぎてなかなか押し出せない性格を見ていると、彼女のキャラクターが見えてきた気になっていたけれど。
ここぞという時は躊躇わずにグイグイと踏み込んでくるんですよね。そうして、その人の人生において忘れられない一人になる。生涯心の片隅に住み着いて離れなくなる一人になる。
姫子にとっても、ただの親友なんてもんじゃないのでしょう、沙紀ちゃんは。
そして、この月野瀬の日々において、春希にとっても沙紀はそういう一人になったのだ。
ちょっと、予想外の方向から重要極まりないキャラクターになってきたな、沙紀ちゃん。
これほど春希のメンタルを刺激して不安定にする立ち位置ながら、同時にこの上ない精神安定剤的な支えになってくれる立ち位置にもなってきたわけですから。

この沙紀ちゃんが、都会デビューを速攻してきたのは。田舎にいたままSNS経由で時折介入してくるくらいだろう、と思いこんできた身とすれば、ものすごい爆弾でもありました。
いやこれ、否応なく春希、女の子としての自覚を追い立てられまくることになるでしょう。沙紀ちゃんからしても、恋のライバルでありながらメンタルサポートもすることになるだろうから、忙しないってどころじゃないだろうけど、姫子ちゃんはあれ癒やしであってそれ以外は不可能な逸材だからなあ。どうしても沙紀ちゃんにヘルプがどんどん舞い込んできそう。無自覚に対春希地雷をひっきりなしに埋め込んで、そのたびに自分で全部地雷処理していくような大変さである。
まあ今のところ沙紀ちゃん本人が、自分の恋心をあんまり成就させようという気がないのが、救いどころか……それともこれも地雷ポイントなんだろうかw

いずれにしても、今回は肝心の隼人が何もしてない、は言い過ぎにしても、不安定になってる春希に対してあんまり何にも出来ていなかった気がするなあ。春希がちょっと変な感じになっていることについてはちゃんと気がついているんだけれど、彼自身春希にどう接するか定まっていないから、彼女の不安や自信喪失を解消できるような振る舞いを取れないんですよね。
「ハルキ」を勇気づけようとして、昔みたいに相棒として接しても。それは確かに春希を喜ばせはするんだけれど、同時に余計に彼女の中の女の子を刺激して、不安定にさせていく。
結局、隼人が春希をどう見るかが定まらないと、春希も自分を規定できないのだ。繰り返しになるけれど、春希にとっての絶対的な基準であり自分を定める主体であり居場所となるのは、隼人以外にないのだから。
それとも、春希が自分で自分を決めて定めて、それを隼人に押し付ける、受け入れてもらうだけの勇気を出しトラウマの克服に至る成長が、この先にあるんだろうか。