今年は本当に混戦模様でした。ド本命、図抜けた実力馬が存在しない横並びの戦国皐月賞。
1番人気のドウデュースが3.9倍。そこから6番人気のアスクビクターモアの9.9倍まで6頭が一桁倍率でしたからね。これだけ人気のバラけた皐月賞は本当に珍しかったのではないでしょうか。

この皐月賞と同じ舞台同じ距離となる2歳牡馬のチャンピオンを決めるホープフルステークスを制したキラーアビリティですが、意外にもこれが4番人気。
ホープフル覇者の実績としては、サートゥルナーリアとコントレイルが順当にホープフルと皐月賞を連勝しているので、決して悪いルートではないのですけれど、今回ホープフル組はあんまり評価高くなかった模様で。キラーアビリティの場合は今年に入って鞍上の横山武史騎手が前年度の覚醒っぷりとは裏腹に人気馬で勝ちを逃すケースが頻発している事も考慮に入っていたのかもしれません。

一番人気は同じ二歳牡馬G1でも阪神1600を走る朝日杯FSを制したドウデュース。こちらのレースはホープフルステークスがG1昇格した17年以降、こちらのレースを勝ってもクラシックに向かわずマイル路線…NHKマイルカップの方へと進む馬も多いのですけれど、ドウデュースは堂々とクラシックに参戦。武豊を鞍上に一番人気になりました。
直行ではなく、たたき台として弥生賞ディープインパクト記念で皐月賞と同じ舞台で一度走っているという経験も加味されたのでしょう。もっとも、この弥生賞でドウデュースは2着に破れてしまっているのですが。

その弥生賞でドウデュースを破ったのが6番人気のアスクビクターモア。勝ち星すべてが中山競馬場という中山巧者であり、おおよそ前目につけてそのまま押し切るという強いスタイルの馬でもありました。ドウデュースとは以前にアイビーS、朝日杯と連敗しながら弥生賞でついに逆転、という流れでもありましたので、この皐月賞でも6番人気ながら十分勝敗の圏内と目されたからこその倍率一桁台だったのでしょう。

2番人気は朝日杯組、ホープフルS組とは完全に別路線を通って、共同通信杯を勝ち上がってきた2戦2勝のダノンベルーガ。皐月賞での好走データが多い共同通信杯組であり、鞍上は今乗りに乗れている川田ジョッキー。朝日杯で5着だった1番人気のジオグリフを制しての一着ということも大きかったのでしょう。

そして3番人気は新馬の時から非常に評価が高く、新種牡馬キタサンブラック産駒の中でもまず彼が最初のG1を父に捧げるだろうという評判だったイクイノックス。
評判通り、新馬戦、東スポ2歳Sを連勝したものの、体質の弱さもあってそこから休養に入り、約5ヶ月の期間をあけてのぶっつけ本番での皐月賞参戦となったのですが、それでもしっかりと仕上げてきた上で才能を見込んでの3番人気といったところでした。

4番人気が件のキラーアビリティ。そして5番人気にあげられたのが、新馬戦からさっそくアサヒやアスクビクターモアなどの強敵と戦いながら勝ち上がり、しかし朝日杯、共同通信杯で強敵の壁に跳ね返されてきたジオグリフ。
思えば、それぞれが別路線で勝ち上がってきてついにここで激突する、という形を取っていたのと比べて、ジオグリフは既にこの舞台の主役として立った馬たちと既に激闘を繰り広げてきた経験の持ち主でもあったんですよね。
立ち位置としては、ステップレースを勝ってこの場に名乗りを上げた馬たちに華を添える、敗者からの挑戦者だったかもしれません。でも同時に、それだけの激闘の経験を積み上げてきた馬でもあったんですよね。
2年前、無敗でクラシックを駆け抜けたコントレイルの鞍上に居た福永ジョッキーが、今度は敗北を重ねたジオグリフの鞍上で、この皐月賞に挑んだわけです。


1番人気「ドウデュース」武豊(朝日杯FS1着・ディープインパクト記念2着 4戦3勝)
2番人気「ダノンベルーガ」川田将雅(共同通信杯1着 2戦2勝)
3番人気「イクイノックス」ルメール(東スポ2歳S1着 2戦2勝)
4番人気「キラーアビリティ」横山武史(ホープフルS1着 4戦2勝)
5番人気「ジオグリフ」福永祐一(札幌2歳S1着 共同通信杯2着 4戦2勝)
6番人気「アスクビクターモア」田辺裕信(ディープインパクト記念1着 4戦3勝)
7番人気「デシエルト」岩田 康誠(若葉S1着 3戦3勝)
8番人気「オニャンコポン」菅原明良(京成杯1着 4戦3勝)

ここらへんあたりまでは、有力馬の範疇だったんじゃないでしょうか。3戦全勝。ステップレースとしては重賞ではないものの、往年ではトウカイテイオー、ビワハヤヒデ、セキテイリュウオー、オフサイドトラップという名だたる名馬たちが皐月賞の前哨戦として選んだレース。まあその頃は中山競馬場での開催で、今は阪神でやってるんですけどね。それでも阪神に移ってからも、ペルーサやワールドエース、ハーツクライ、アドマイヤグルーヴ、ヴィクトリー、ヴェロックスなどのちのG1馬が勝ち馬として名を連ねているので、侮れないレースなんですよね。

そして名前のインパクトとしては競馬史でも上位にあげられるだろうオニャンコポン。ネタ枠として新馬の頃から有名だったこの馬ですけれど、決して一発屋ではなくホープフルステークスでこそ転びましたけれど、4戦3勝。皐月賞と同じ中山2000で行われる京成杯を勝ち上がって、充実化も著しい上がり馬でありました。父エイシンフラッシュ、母父ヴィクトワールピサという血統も心惹かれる一因でしょう。

さて、レースは逃げ馬候補だったデシエルトが致命的な出遅れ。何気にキラーアビリティもゲートがあいた瞬間に軽く立ち上がってて出遅れ、前を塞がれて後方からの競馬になってしまいました。キラーアビリティとしては前目で競馬したかったんでしょうけれど。
代わりに、これまで逃げでスプリングSなどを勝ってきたビーアストニッシドが先頭に立つかと思われたのですけれど、スルスルと内から伸びてきたアスクビクターモアが主導権を握ることに。
デシエルトも脚を使って2番手まであがってきたのですが、さすがに最初にスタミナ使いすぎです。最終的に16着まで沈んでしまっています。
ダノンベルーガ、イクイノックスらは中団前目。その2頭を見るようにジオグリフがピタリとつけていました。ドウデュースはかなり後方。武豊としてはもっと流れる……競馬用語でハイペースでレースが進むと考えていたみたいですけれど、アスクビクターモアの田辺騎手が1・2コーナーで早くもペースを落としたんで、流れが相当ゆっくりになったと思われます。ちょっとペース落とすの早かったんですかね。前残りの展開まではいかず、全体に脚が溜まる展開になっていたのかもしれません。
ドウデュースは行き足も鈍かったのかもしれません。いずれにしても、最後方から2番手という位置はさすがに後ろ過ぎました。中山の直線は短いぞ、ってやつですね。ペース的にも最後方からは流石に辛い展開でしたし。
なので3・4コーナー中間の6ハロン前からすでに武豊は大外回して押し上げていってます。こっからゴールまでトップスピードを維持し続けて、1・2着以外を捲り切っての3着ですから、負けて強しと言われて当然の内容でした。
これはむしろダービーの方が楽しみ、というのも納得だなあ。でも母馬、海外馬らしいけど主にスプリント戦が中心だったみたいだけれど、距離は大丈夫なんだろうか。

勝ったのはジオグリフ。共同通信杯や朝日杯で苦杯を舐めた馬たちを下して、脇役から主役への下剋上の勝利。馬場のいい位置を通りつつ、イクイノックスやダノンベルーガらを横に見ての見事な仕掛けのタイミング。これは福永騎手の妙手が光るレースでもありました。イクイノックス、道中風よけにもされてたみたいですしね。上手いこと消耗を抑えつつ脚を溜められていたんじゃないでしょうか。
新種牡馬ドレファン産駒では初のG1制覇。わりとお手頃価格の種牡馬だったみたいですけれど、元々勝ち上がる新馬も多かった上にG1勝利ですから、これで評判あがりそうです。
母馬はアロマティコ。重賞勝利こそありませんでしたけれど、ジェンティルドンナの秋華賞、メイショウマンボのエリザベル女王杯で3着に入るなど、重賞戦線を賑わせた名牝として覚えている人も多いんじゃないでしょうか。
ちなみに、ジオグリフという名前は地上絵という意味。このアロマティコのお母さん、つまりお婆さんがナスカという馬で、このジオグリフってつまり「ナスカの地上絵」という意味が込められているらしいんですよね。面白い名前の付け方してますよねえ。
これまでは1800メートルまでしか走ったことありませんでしたけれど、2000でもこれだけ走れればダービーも距離適性としても大丈夫でしょう。アロマティコは2200までしか走ったことなかったみたいですけれど、エリ女も3着入ってますしね。
ただジオグリフ、ノド鳴り持ちらしいので、いつも順調に調整、というわけにはいかないかもしれません。今回は、それだけスタッフのケアが結実したんでしょうなあ。おめでとうございました。

2着は5ヶ月の休養明けもなんのその。その才能を十二分に発揮してのイクイノックスでありました。
この馬も負けて強し。少なくとも高い評判は偽りありませんでした。ルメールのコメントからしても馬群の中、というか前に馬を置いてついて行かせるほうがしっかりと決め脚を充填できるタイプなのでしょう。前開いていたんで、その分消耗させられたのかもしれません。それが後ろにくっついていたジオグリフの差となってしまったのでしょう。
この馬も体質弱いみたいなんですけれど、それはつまりまだまだ身体が出来てきたらその分成長も在り得るってことでもありそうなので、ポテンシャルは同世代の中でもやはり随一なんではと。

4着はダノンベルーガ。ずっと最内を走っての4着。中山競馬場の最終週ですから、内側はまあまあ荒れていますけれど、さてそこまで影響あったかなあ。馬場の差だけでは前との差は決定的だった気もします。右回りも苦手なんだろうか。とはいえ、馬にとっても終始馬群に包まれての内側の競馬というのは勉強になったんじゃないでしょうか。

5着はアスクビクターモア。先頭で引っ張ってなお、最後までダノンベルーガにくいついていましたから、決して悪くない内容でした。前走までのように先行で他馬を見るように競馬したら、だいぶ強いんじゃないだろうか。

6着にはオニャンコポン。何気にホープフルステークス参戦組では最先着になりましたが、ドウデュースにあそこでちぎられてしまったのは、格の違いを見せられた感もあるなあ。

キラーアビリティは13着大敗。出遅れもそうでしたけれど、コース選択も位置取りも最悪で、まあ今回はどうしようもありませんでした。調子もそこまで良いものではなかったみたいですし。それにしても負けすぎですけれど。ここまで負けすぎるとなあ。ホープフルステークス組が全体に上位に太刀打ちできていなかった、というのも印象良くないですね。皐月賞で二桁着順大敗してダービーで巻き返したという馬はちょっと思い出せないしなあ。タイムフライヤー枠にならなきゃいいですけれど。