【100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。】 ゆいレギナ/いちかわはる GAノベル

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「100日後にきみは死ぬ」
公爵令嬢ルルーシェは神様から天啓を受けた。
ただでさえ婚約者の王太子殿下は他の女にうつつを抜かし、婚約破棄は目前と言われているのに……。
しかもその未来を知ったとて、ルルーシェの死は変えることができない。
だが、死に様やその影響は変えられる――そう教えられたルルーシェは神様に賭けを申し出る。

「わたくしの死に様が美しければ、褒美を下さい」
「いいよ。次の人生に望むモノを何でもあげる」
ルルーシェは残していく家族への支援や、己の死の裏で蠢く「陰謀」を止めようと行動するが――。

悔いのない優美な最期を迎えるため、神様すらも翻弄する、ルルーシェ最後の100日が始まる。

楽しいか? 本当に毎日がとても楽しいかい?
とてもそうは見えんなあ。

自分が100日後に死ぬ、どうあがいても結果的に死ぬ、と死の宣告を神様から受けた公爵令嬢ルルーシェ。その上で、残りの日々を楽しく過ごすというのだから、このルルーシェという娘はとても破天荒な娘だと想像してたんですよね。卓袱台をひっくり返すどころかぶっ飛ばしてしまうような、精神的にもぶっ飛んでいるようなハチャメチャな悪役令嬢を、思い描いていたのだ。

でも、彼女は。ルルーシェ・エルクアージュという女の子は、本当にただの普通の女の子でした。
自らの行いによって、死の運命からは逃れられないとしても、その末路は、周りの人間たちの行く末は変えられると知った彼女がやろうとしたのは、自分を取り巻く運命を吹き飛ばしてしまうなんてことではなく、運命自体は粛々と受け入れて、少しでも家族や大切な人達の非業の行く末を変えようと足掻く無私の奉仕の日々だったのです。
それは、残りの日々を楽しみ謳歌するのではなく、身辺整理だよ、ルルーシェ嬢。
彼女は公爵令嬢としての矜持にしがいつきながら、刻々と迫る死をじっと見つめ、震えも怯えもプライドによって押し殺して凛とした姿を崩さない。王太子の婚約者としての責任感、義務感に背筋をただし国のために、民のために少しでも良い未来を残そうと、王太子サザンジールの傍らに現れた男爵令嬢レミールに王妃候補としての教育を、心構えを教えこんでいく。
そして、非業の末路を歩むことになる愛すべき家族に、自分の死後も幸せに過ごせるだけの余地を残していく。
そこに、ルルーシェ個人の幸せは存在しない。ただ与えて与えて、自分自身には何も残さずに消えていこうとしている。
そこに隠れているのは、サザンジールへの諦めと縋るような想い。恐怖を押し殺しながら、辛さを噛み殺しながら、なんでもないとばかりに微笑んでいるルルーシェを、とても楽しそうだなんて思えない。とても、苦しそうだ。とても、哀しそうだ。とても、痛そうだ。

サザンジール王子、ずっと最初から気づいているんですよね。周りの誰も気づいていない、ルルーシェの抱え込んでいる恐怖を、悩みを、絶望を。
ずっと話してほしい、打ち明けてほしい、自分にも背負わせてほしい、と訴えてきているのに、ルルーシェは聞く耳を持たない。
相手のことを見ていなかったのは、サザンジールの方じゃなくてルルーシェの方だったというのに。

いや、サザンジールも弁解のしようもないくらいアホなんですけどね。そりゃ、第二王子のザフィルドがこいつじゃ国王になれない、と断じるのも仕方ないくらいダメ王子ですわ。
政治的な影響を考えずに、社交界で婚約破棄を発表してしまうタイプの考えなしのアホですわ。自分の言動がどういう影響を周りにもたらすのか、深くなにも考えていない。
ただ、彼はひたすらルルーシェに対して一途で深い深い愛情を抱き、強い強い恋心を持ち続けている、というだけで、それ以外はほんとにダメ王子なんですよね。
だから、ザフィルドに思いっきり騙されるんだ。レミール嬢を連れ歩く意味を、何も考えていないんだから。それが、どれだけルルーシェを傷つけ絶望させたかも何もわかっていない。
でも優しいし真面目だし、一個人として見るならとても善良で良い人なんですよね。つまり、国政に携わるには致命的に資質に欠ける、という事でもあるんですけれど。
あまりにも公人としての意識が薄い。だからこそ、私人としての自分を極力殺して公人として残りの日々を費やそうとしているルルーシェと、どうやっても噛み合わないのだ。
押し殺した気持ちの奥に、確かに家族への愛情やサザンジールたちへの情愛が込められているからこそ、余計に透徹として公人として最期まで貫こうとしているのだから。
多分、サザンジール並にダメ令嬢なレミールが、ダメダメながらもヘタレながらも本質的に善良で私欲にかまけられない小心者だからこそ、悪いことの出来ない娘だからこそ、本当に辛い想いをしている少女や苦しい思いを抱えている誠実で真面目な王子を見てみぬ振り出来ない娘だからこそ、思わぬところから鎹になってくれるんでは、と期待している。
少なくとも、王子の気持ちをルルーシェが誤解していたのを解くきっかけにはなってくれたわけですしね。
でも、無下にしちゃうんだよなあ、この悪役令嬢は。それはきっと、つまらない矜持だ。テンプレすぎて、美しいとは言えない末路への道だ。
それは、悔いが残る生き方だよ。
そして、周りの人々にも後悔を刻んでしまう死に方だよ。
きっと誰も結局幸せになれない終わり方だ。

残り30日。約一ヶ月。果たして逃れられぬ死の運命を告げられた悪役令嬢は、いかなる末路を辿るのか。
本当に、楽しいと、楽しかったと心から叫べるときが来るのだろうか。