【ここでは猫の言葉で話せ 2】  昏式 龍也/塩かずのこ ガガガ文庫

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諜報員三姉妹、襲来!命も恋も大ピンチ!?

猫とのモフ活と女子高生としてのガールズライフを過ごす中で人間らしい感情を取り戻していく元人間兵器のアーニャ。

そんな中、アーニャを狙う米国諜報員『グライアイ三姉妹』が日本上陸!
アーニャのみならず同居する小学生・旭姫の元にもロリコンの長姉・ペムプレードーの毒牙が迫る。さらに小花とのデートを懸けて次妹・エニュオーとアーニャが学校の屋上でデスマッチ! 激ヤバ三姉妹の策謀でアーニャの命と恋は大ピンチ!?

大切な人を守り抜け! 譲れない想いを抱えた少女たちのハードキャットファイト開戦!
猫と出会い、猫を通じてアーニャは周囲の人々から与えられていた愛情を実感するに至った。マインドコントロールによって失われていた彼女の感情は、猫によって蘇った。
彼女は戦闘マシーンから、人へと戻ることができたのだ。
そうして彼女は猫と家族と暮らす日常を謳歌しはじめる。猫が大好きな親友とともに過ごす学校生活を青春しはじめる。義務ではなく、与えられた任務ではなく、自分の心の赴くままに。猫のように自由に。
アンナ・グラツカヤの戦いの日々は終わったのだ。

今まで機能を止めていた感情がようやく動き出したものの、まだ慣れないためにちょうどいい塩梅で感情を発露することが出来ず、泣くにしても笑うにしても喜怒哀楽が過剰に分泌されてしまって、ちょっとした事で大泣きしてしまったり、しょうもない出来事に大笑いしてしまったり、感情をうまく制御できずに戸惑うアーニャが可愛かった。
でもその戸惑いや困惑は切迫したものじゃなくて、思わず溢れ出してしまう情動に、どこか浸っている部分もあったんですよね。喜怒哀楽と書いたものの、怒りが止まらなくなったりといった危うい方向へは一切噴出していないあたり、安全弁は効いている風にも見えるんですよね。制御下にある制御不能という感じで。
それに、徐々に感情の過剰分泌が収まってきて、落ち着いてくる様子にアーニャが日常にしっかりと馴染んでいく過程が重なるのである。決して感情豊かではなくクールな美少女だけれど、確かに感情の動きが垣間見えるようになったただの少女のアンナ・グラツカヤの姿が鮮明になっていくのである。

彼女の戦いの日々は終わった。でも、それは同時に彼女の新しい日々が始まる、という事でもある。
アーニャにとって、今の旭日と猫のピロシキと暮らす日々というのは一時的な仮初のものだ。闇の世界を脱したからといって、彼女が殺し屋として生きてきた時間を消せるものではない。
日の当たる日常の中を生きるとしても、この緊急措置で用意された場所に果たしていつまで居続けることができるのか。旭日だって、母親のもとから離れてアーニャの世話をするために一緒に暮らしているわけですからね。
そんな過渡期にあるアーニャの前に現れたのが、アメリカから来た諜報員三姉妹。アーニャをスカウトに来たペムプレードーという女性だったのである。
悪い人じゃないんですよね。ある種の理想家ですらあり、アーニャをスカウトに来たものの、決して無理やり連れて行こうというんじゃない。それどころか、自分の理想の後継者にと実際にアーニャと会う事で決め込んだように、アーニャに対して新しい道を提示する人物でもあったのだ。
まだかつて所属した組織から狙われる危険性がつきまとうアーニャにとって、庇護者となり得る力の持ち主でもあったわけですしね。
しかし、それはまたアーニャが過ごす今の日常の破壊者でもあるということ。そしてペムプレードーという女性こそ、戦いを終えられなかったもう一人のアーニャであったのです。
己に課した使命に囚われ、それを叶えるために自らを犠牲にし続ける飽くなき革命の使徒。
同じ猫を愛し、人を愛し、平和を愛し、しかし自由を喪った女性。
猫に救われた、猫の自由さにこそ救われたアーニャにとっては、彼女の在り方はどうなんだろう。許容出来ない、というほど拒絶的ではなかったと思う。でも、見過ごせないというほどには無視できない、そのままでいて欲しくないと思える姿だったのだろう。
姉に等しい人の犠牲によって自由を得たアーニャは、小花や旭日、明良といった身近な人達によって自由の尊さを知ることが出来た。あの猫のように何にも囚われずに自由に生きることの素晴らしさを実感した。
そんなアーニャにとって、これほど猫を愛しながらこれほど猫に相反する生き方をしていたペムプレードーの姿は、やはり耐え難かったのだろうか。自分を救ってくれた人達と同じように、自分もまた苦しんでいる人に手を伸ばす。今の彼女が選んだ戦いとは、自由とは、そういう事なのだろう。
伝えることも、また戦いであり自由なのだ。
そして心赴くままに、今の旭日との暮らしを、小花たち学友たちとの学校生活をできる限り続けたい。
黒蜂も、明良も過去を忘れることは出来ないけれど、今を飲み込んで明日のささやかな幸せを継続することを選んだ。諜報員三姉妹もまた、それぞれの生き急いできた時間を埋めるようにして今まで背を向けていたささやかな日常に寄り添うことになる。
猫とともに少女たちは幸せを目指す。目指せるようになったことこそが、素晴らしいとそう思う今回のお話でした。

それにしてもアーニャが読んで、ペムプレードーとの対決で配色濃厚な状況をひっくり返すきっかけになった【猫の妙術】って本、作中作じゃなくて実際に存在する本なのか。
江戸時代に書かれたという、武芸者に依頼された猫たちの大鼠との戦いのお話であり、猫によって語られる剣の真髄、心構え、芸の奥義。つまり猫に教えてもらう剣術指南書であるという。しかもガチ! おふざけで書かれた滑稽本とかじゃなくて、戯作ではありつつも真面目に剣術について書かれた本なんですって。でも主人公は猫! いや、主人公は武芸者である勝軒の方なのか。
でも、大真面目に猫と武術について語り合う、というか猫に武の何たるかを教えてもらう、というお話で……日本人、もう江戸の昔からこんなジャンル手掛けてるのかよ。なんかもう凄いな!!