【転生ごときで逃げられるとでも、兄さん? 3】 紙城 境介/木鈴カケル MF文庫J

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス

――彼女の愛は、神の筋書きさえ殺す。

最強の精霊術師、トゥーラ・クリーズの引退。それはラエス王国中に衝撃をもたらした。
王国の実権を握るべく貴族たちが暗躍する中、ジャックは王太子・エルヴィスと共に闇のブローカー『ビフロンス』との繋がりが疑われる女侯爵ラヴィニア・フィッツヘルベルトの調査を試みる。
しかし彼女の居館『臥人館』では想像を絶する光景が待ち受けており──!
王都に蠢く闇。『九段』の段位を持つ精霊術士たちの胎動。学院を舞台にしたサバイバル戦。
それでも、転生してから培ってきた力を手に勝ち抜いてやる。大切な存在と共に生きるために。
最強が集い、最恐が目覚める、「覚醒点」の第3巻。
――彼女の愛は、神の筋書きさえ殺す。
WEB版既読。読んでます。読んだ時、このシーンにたどり着いてしまった時はもうえらいことになりました。

魂抜けた。

「……は?」となって頭真っ白になったまま、丸一日くらい呆けたまま終わっちゃったんじゃなかったか。
はたして、これほどの衝撃を受けた展開が今までの中で如何ほどあっただろうか、ってくらいにとてつもないショックを受けさせられたんですよね。

あまりにも普通じゃなかったのが、そこの場面に至るまでにこの章で積み上げられていたあらゆる展開、あらゆる伏線、あらゆる人間関係の仕込みや演出などが全部全部全部全部、本当に全部根こそぎ盤面ごとひっくり返されてゴミのように散らばってなくなってしまった事でしょう。
どれだけ衝撃的な展開だって、そこに至る過程は積み重なっているものなんですよ。本作だって、この3巻で丁寧に丁寧に準備が整えられていたんです。霊王であるトゥーレ学院長が引退することによって起こり始める貴族間の政治的パワーゲーム。それまで雌伏していた9段、8段という超絶級の精霊術師たちが霊王のタイトルを手にするために蠢動をはじめ、第三王子エルヴィスに悪意を抱く王太子エドワードの暗躍する。そして悪霊王ビフロンスと繋がりがあるとされる貴族ラヴィニア・フィッツヘルベルトが少年少女たちを密かに集め常軌を逸した儀式を行っているとする臥人館にて繰り広げられたダンジョンアタック。
新たな霊王を決める天下一武道会という表舞台と、悪意と欲望が渦巻く裏舞台が連動し、今まさに物語が火を吹くように躍動する、と思った瞬間に……。

テーブルにようやく並べ終えたフルコースの料理を、テーブルそのものを突然横から蹴り飛ばしてひっくり返して全部食べられたものではない散乱する生ゴミと割れ散らばった食器にしてしまうかのように。
締め切り直前にようやく全部書き終えOKの出た映画の脚本を、いざ撮影という段階になってビリビリと破り捨てられ、はいこれやっぱりボツで、と笑顔で吐き捨てられ、こっちの脚本で撮影してね、と真新しいシナリオの束を渡されたように。

多分、そのまま描かれたとしても、めちゃくちゃ面白いアクションとしての直接戦闘と各勢力の政治的な闘争劇として盛り上がっただろうシナリオを……多分、途中までだったとしてもここまで完成度高くそこに至るまでの土台がしっかり築かれてたのを見ると、最後まできちんとエンドまで話が出来ていたに違いないだろう展開を、作者自身が自分自身でこれだけ労力を傾けて作り上げていたものを、
ここまで惜しげもなく、自分で、踏み潰してみせた。全部、全部、全部を放り捨ててみせた。修復不可能なまでにぶった切って、地面にぶちまけてしまったことこそが、
衝撃だったのだと思います。

自分のシナリオを、自分の物語を、ここまで徹底して完膚なきまでに生贄にして廃棄してみせた作家さんを、自分は過分にして知りません。
ここまで周到に丁寧に作り上げた物語を、ただの餌として使い潰してみせた人を、自分は思い浮かべることができない。

WEB版でも章題の扱いについては度肝を抜かれたものでしたが、書籍版では完全に油断していました。普通、本でこんなことしないもの!!
自分、電子書籍でこの本を購入したんですけれど、冒頭のページに書いてる目次もちゃんとこれ「仕様」になってるんですよ!? リンク先もちゃんとなってましたしね。
マジかよ!? ってマジで思いましたもん。てっきり、そこで終わりで続きは次回の4巻で、という構成になるのかな、と思いこんでた。思いこんでた分、完全に意識ぶん殴られたんですよね。

臥人館のダンジョンアタック。ジャックとエルヴィスのコンビによる頭のおかしくなるような超絶ダンジョンの攻略編。パラボールやパラガント戦での盛り上がりなんて、完全に巻のクライマックスなんですよ。ぶっちゃけ、ジャックとエルヴィスの二人だけで挑むにはもったいないほどの超巨大エネミーとの全力戦闘でしたからね。巻のピークとしては、そこに持ってきておいて、本番の本番は次の巻、と思っても仕方ないじゃないですか。

ってか、今回に関してはそこで終わるの!? という驚愕と言うか地獄前の地獄というか、絶望前の絶望というか、もったいぶるところがやばすぎるというか。
頭おかしくなってくるその途中でキープされるの、本気で頭オカシクなるんですけど!?

ただ、よく読んでみるとわりと肝心のシーンが抜けてたりもするんですよね、WEB版からオミットされてるシーンがあったりする。あの首吊りの林を目の当たりにしたあと、我に返ってジャックたちが自分たちが何を目の当たりにしているのかを理解してしまうシーンは、あそこ大事だったと思うんですよね。そこまでは彼らは一体何が起こっているのかをはっきりわかっていなかったと同時に実感もしていなかったのである。彼ら子どもたちが状況が常軌を逸していて、正気が蒸発していて、今自分たちが狂気の渦中に放り込まれていて、世界が完全に壊れてしまっていた事を魂で実感してしまうシーンだったんですよね。
いわば、SAN値が全損したシーンだったと言って良い。死者たちが、殺されたのではなくほぼ全員、自殺しているという異常を知らしめた重要なシーンでもあったはず。
ジャックとエルヴィス、としてフィリーネ以外はアゼレアもルビーもガウェインもここで完全に頭に血が昇って冷静さを逸してヒステリー状態になってしまって、全体から余裕も冷静さも消し飛んで、とにかく切迫感が張り詰めていくブーストが掛かるシーンでもあったはず。
あの異常を理解するシーンが飛ばされたものだから、ちょっと唐突感があったり読んでるこっち側からも冷静さとか余裕がなくなる部分が薄められてしまったような感じがあって、あそこは残しておいてほしかったかな、と思ったり。

しかし、VS屍霊王でのラケルのイラストの表情の凄みというか哀切というか冷たさと熱が荒れ狂ってる描写は、ゾクゾクさせられました。今巻、総じてラケルのイラストが素晴らしいんですよね。

さあ、覚えていただろうか。忘れてはいなかっただろうか。忌まわしい「アレ」がついに舞い降りる。悍ましい「アレ」がついに顕現する。まるで現実のこちらまで手が伸びて這い出てきたように、すべてが壊れ改変される。読み手まであざ笑うように、本の構成すらも捻じ歪げられる。
心して待て。今はまだ入り口を覗いただけ。
本物の地獄は、極限を極める絶望は、此処からだ。