【創成魔法の再現者 1.無才の少年と空の魔女(上)】  みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ文庫

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貴方の魔法はこうやって使うんですよ?

名門貴族の子息エルメスは膨大な魔力を持って生まれ、将来を有望視された神童であった。
しかし鑑定の結果、貴族が代々継承する一族相伝の固有魔法『血統魔法』を受け継いでいない無能と発覚し!?
王都から追放された彼は失意の底で死の淵に立つが、その才能を見抜いた伝説の魔女ローズに救われて弟子となる。
そして修練の末、全ての魔法を再現する最強の魔法『創成魔法』を会得。
あらゆる価値の優劣を『血統魔法』の力で決める王国の常識が誤りだと知ったエルメスは、更なる魔法の研鑽のために王都へ帰還。
欺瞞に満ちた王国に変革をもたらす――!
無才の少年が世界の常識を覆す最強魔法譚、開幕!
才能が無いから、と家族身内から虐げられた挙げ句に家を追い出される、追放されるという今や一つのジャンルとして数えられるこの展開だけれど、元から才能なしとして期待もされずに突き放されて育てられたのではなく、神童と持て囃されて親からも絶大な期待を傾けられて蝶よ花よと育てられたにも関わらず、才能なし……この作品の場合は「血統魔法」が発現しなかったために、一気に掌返しされてしまう、というのは上げて落とす形で最初から期待もされていないよりもダメージ大きいかもしれませんね。
愛されていると思っていた家族から、ゴミクズのような扱いを受けた挙げ句に追い出され、終いには後腐れないように謀殺されそうになる、ってこの手の展開の中でも最低の仕打ちかもしれない。
兎角、父親がろくでなし過ぎてねえ。
主人公のエルメス、あんな望んだものは何でも与えられて誰にも叱られない文句を言われないような育て方をされて、よくまああんなマトモに育ちましたよね。絶対増長して人を人とも思わないようなバカに育つしかなさそうな家庭環境だったのに、素直で聞き分けがよく分け隔てなく他人と接することの出来るような人格者に育つとか……いったい何があったんだろうってレベルですよね。
まあ環境が人を作るとイイますけれど、一概にはそうイイ切れない例というのは枚挙に暇がないものですから、彼もその一例だったのかもしれません。
周囲の使用人、全員とは言わないまでもマトモというか普通の人もそれなりにいたので、そういう人達を見て物の道理というものを理解していったのかもしれませんけれど、でも教育環境悪すぎなんだよなあ。
ただ、天才と謳われたエルメスばかりが持て囃されたお陰で、本来の嫡男である兄のクリスがずっと不遇をかこつていたのも確か。そしてエルメスはそんな兄に対して殆ど関心を向けておらず、幼少期から兄が相当に酷い境遇に置かれていたのは間違いないようなので、彼の性格が歪んだ原因の一端はエルメスにあると言われても仕方はないんですよねえ。あくまで原因であって、責任はどう考えても両親、特に父親にあるわけですけれど。
むしろ、兄は父親を恨めよ、と言いたくなるけれど、恨みつらみは理屈じゃないものなあ。
それにつけても、クリスは品性がなさすぎて復讐だ怨恨だ、と高らかにうそぶいても卑しさしか見えてこないのが実に残念な人物でありました。
怨恨ってのは粘度高かったり重かったりというのは、むしろ質を高めてくれるのですけれど、やっぱり品性がないとねえ、卑賎で詰まらないものになってしまいます。
つまるところ、彼は自分で自分をザマぁ要員に貶してしまったんですなあ。可哀想とは微塵も思わないけれど、憐れではあります。
ほんと、これがエルメスの実家であるフレンブリード侯爵家の家風なのかしら。性格的な意味でもエルメスは家の異端児だったのかもしれません。
比べて、幼馴染のカティアのトラーキア公爵家はのちにカティアの血統魔法に不具合が出ても、全然態度変わらなかったんですよね。それどころか、ほぼ監禁状態にあったエルメスのもとにカティアが通うのも許していたみたいだし。
後々、エルメスがカティアと再会したときもカティアの我儘をきいてエルメスを従僕として娘の傍に侍らすことを許していますしね。あの公爵閣下のお父さん、色んな意味で寛大すぎる。

ってか、カティアさんてば、失踪した幼馴染が長じて絶体絶命のピンチに颯爽と現れて助けてくれた挙げ句に、自分の執事となってくれて常に傍に侍ってくれるようになった……って、ちょっと年頃のお嬢さんのドリーム入ってませんかねw
本来なら侯爵家の子息なんて身分なんですから、エルメスが追放なんてされてなかったら絶対自分の従者とか従僕とか執事とか、自分に仕えてくれるような立場にはならなかったでしょうし、そんなちょっと仄かな想いを抱いていた相手を、それも超カッコよく超強くなって戻ってきてくれた相手を、匿うとか客人として招き入れるとかじゃなく速攻で執事にしてしまうって……何気にこの娘性癖拗らせてませんか?w
いや、エルメスの執事服姿を見た直後のあの意識飛んでるっぽい反応を見ても、明らかに性癖に思いっきり刺さってるような感じでしたし。
ふふふ、イケない娘ですなあ。いやわかりますよ? 立場をひっくり返してみたら、家から追い出された幼馴染の貴族令嬢が、何年か経ってすごくキレイになって目の前に現れたので、専属メイドにして雇ったった、てなもんでしょ? 幼馴染がメイドだか執事だかになって自分に尽くしてくれるわけですよ。そりゃ、男だろうが女だろうが関係ない、刺さります。
ご褒美ですね。
まあカティア嬢もとんでもない王子の婚約者にされた挙げ句に苦労しまくったわけですから、これくらいのご褒美がないとやってられないですよ。
いや、あの王子は酷いわ。何はなくとも自分は正しい。自分の考えは正しく自分の行動は正しく自分がやることは全部正しい。だから、自分に逆らう奴は間違ってるし自分に意見するやつは間違ってるし、自分より優れている奴はペテン師だ。という自分絶対至上思想。それも、その発端はコンプレックスから生じているので、多分本当に自分に絶対の自信を抱いているわけじゃないんですよね。
王子のイラストデザイン、衣装にすごく目立つファー(つけ襟)をあしらっているのが、またキャラクターにピッタリでセンスを感じますわ。王子、常からその恰好なの? 恥ずかしくないの? なんか見てくれから偉そうで自信家ぶってて、でも虚勢張ってる小さな男というのが見た目ピッタリで、なかなかのストライクでした。
いや、絶対アホだろ、このアスター王子。カティアも、なんか問答無用で襲撃までされているのに、もうちょっとなんか対応した方がいいんじゃないだろうか。家から抗議とかいう段階ではなかったような。あれ、エルメスが介入しなかったら本当に命の危機でしたよ。この点に関してはトラーキア公爵も悠長というか、既に明らかにアスター王子側が一線超えてると思うんだけどなあ。

しかし、エルメスは穏やかな性格は子供の頃から変わらなかったし、師匠のローズの生活不能者っぷりへの介護の様子など、情緒豊かに語っているから彼の内面についての変化には全然気づかなかった。
いやだって、カティアと再会して彼女の勝ち気で誇り高い言動に寄り添っているときのエルメスは実に楽しそうでしたし、彼女への酷い扱いを目の当たりにしたときの憤怒などは、もう感情の溶岩みたいなものでしたし、とても自然に見えたんですよね。
つまるところ、カティアの傍にいるときのエルメスは、当たり前みたいに感情を抱いているんですよね。揺さぶられまくってるじゃないですか。第三者的視点から見ながらの感情とかではなく。ってか、抱きつかれて泣きつかれて動揺しまくってたでしょう。キュンキュンしてたでしょう。もう明らかに特別で、唯一じゃないですか。
擦り切れ削ぎ落とされてしまった心を、幼馴染の少女の前だけは取り戻せる。お互いがとても大事で、お互いをもっとも必要としている幼馴染のカップル、いいじゃないですか、素敵ですよこういうの。
ぜひ、次回下巻でいろんな憂いをふっとばして、結ばれて欲しいものです。