【死神に育てられた少女は漆黒の剣を胸に抱く VII(上)】  彩峰舞人/ シエラ オーバーラップ文庫

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命を懸けろ、信念のために。

亡者の出現により、王国の命運を賭した“暁の連獅子作戦"は失敗となった。
オリビアは悲願であった死神・ゼットとの再会を果たす。
しかし、喜びもつかの間、ゼーニアとの決戦に向けての修行は佳境へと差し掛かっていた。
一方、未だ亡者の情報を掴めていないコルネリアス、パウルら率いる王国軍は、ローゼンマリー率いる紅、天陽の騎士団を相手に決死の陽動作戦を遂行していた。
戦況が敗北へと傾く中、疲弊した彼らの元にも亡者の手が差し迫る――。
修行を終えたオリビアは、ゼットから戦争の黒幕を告げられた。
彼らを倒して戦争を終わらせるため、オリビアは漆黒の剣を手に王国軍へと舞い戻る――。

ああ、この娘も。オリビアも泣くんだ。

アシュトン、何やってんだよアシュトン。オリビア泣いちゃったぞ。クラウディアだってあんなに泣き崩れて。あれだけの女の子二人を泣かせてしまうなんて、何やってるんだよ。
前回の展開は衝撃的もいいところで、だからこそもしかしたらという可能性も頭にはあったんですよね。
死神と呼ばれる異形の存在に育てられたオリビアにとって、死は与えるだけのものではなく覆せるものなんではないか、となんてほのかな期待を。彼女には魔術という余人にはない力もありましたしね。人相手には使わないとゼットと約束していたとしても、死人は人ではないとも言い張れなくもない。
そうでなくても、オリビアにそこまでの力がなくても再会したゼットにはあるかもしれない。もちろん何の制約も代償もないとは思わないけれど、それでも、と可能性に縋ることは出来た。
現実は非情である。
そんな期待を振り払うように、容赦なく現実は突きつけられる。
死は誰に対しても平等だ。その当たり前の事実が、死を平等に与える戦場の死神だったオリビア自身にも突きつけられる。
オリビアの情緒は、これまでずっと「喜楽」に固定されていたと言って良い。彼女にとって戦場で戦うことに恐れや負の感情を抱いたことはなかったはず。ゼットと別れたことで「寂しい」という感情は抱いたかもしれないけれど、王国軍に加わってアシュトンやクラウディアと知り合って、パウル将軍やオットー参謀に可愛がられ、出来た配下たちには慕われて……彼女はずっと楽しかったはずだ。
彼女は傷一つ無い玉だった。その純真さは、無垢さは、それゆえに何者をも切り裂く刃であったのだろう。
でも、その玉には消せない傷がつけられた。悲しみを知らなかった少女は悲嘆を知り喪失を知り憤怒を知った。もう、彼女は無垢なまま刃を振るうことは出来ないだろう。
それが無敵だった彼女に穿たれた弱さなのか、それとも傷ついたからこそ得た靭性なのかはわからない。
でも、オリビア・ヴァレッドストームはこれで本当に人間になってしまった。人としての喜びと楽しみをアシュトンたちによって得た彼女は、こうして人としての悲しみと怒りも知ることになった。
それはもう、ただの女の子だ。親しい人が死んで泣きじゃくる彼女は、もうただの少女だった。

王国は壊滅的な被害を受けてしまったものの、未だブラッド将軍率いる第二軍は健在だ。オリビアの第七軍もまだ動ける。
一方で果たして帝国はこのあとどうなるのだろう。正直、あんな形で皇帝位の禅譲が行われて果たして認められるのかと思ったら、反発はあっても案外と受け入れられている模様なのが意外だった。
もちろん、ダルメスが反対勢力を見せしめのように粛清しているというのもあるのだけれど、帝国って今の皇帝が一代で築いたようなもので、継嗣は血筋を以て継承しない、実力あるものに継がすと宣言してたんですね。実際、皇帝陛下自分の子供作ってないみたいで。そうか、最初から下地はあったのか。さすがに皇太子とか居たらこんなすんなりと禅譲認められないよね。たとえ皇帝陛下自身がダルメスに自分の意思で譲った、という形があったとしても。
いや、それにしても訳解んない乱暴な継承なんですけどね。でも、ダルメスが皇帝の意思を奪って操り人形にしていた、なんて普通は思わんだろうしなあ。
フェリクスの蒼の騎士団はそれを知ったからこそ、帝国軍から離脱してダルメスに反旗を翻したわけですけれど、これを帝国軍全体に求めるのはやっぱり厳しいか。
とはいえ、帝国軍抜きにしてもダルメス操る亡者の軍隊が、完全にバイオハザードなんですよね。ゾンビ軍団。それも、無差別攻撃してくる集団じゃなく、ある程度指揮が取れるとなるとそりゃ圧倒的数の暴力もあって並の軍隊じゃまともにぶつかったら壊滅もしてしまうか。
第一軍も、不意打ちという形で帝国軍と戦っている最中に横槍を入れられなかったら、もう少し持ったのかもしれないけれど。
それでも七割近くの兵員を無事に撤退させたコルネリアス将軍以下首脳部はやはり有能だったのでしょう。その中枢部をこの戦いで喪ってしまったのは、痛いなんてもんじゃないんですが。王国軍の屋台骨だったもんなあ。パウルお祖父ちゃんと、あの口うるさいオットー副官まで逝ってしまうとは。
特にオットー副官は、何だかんだと生き残ってオリビアのこと支えてくれるんじゃないかと思っただけに。今や、オリビアを叱れるような人ってもうクラウディアしかいないんですよね。もう本当にクラウディアしかいなくなっちゃったのか。

楽しかった想い出を胸に、残されたオリビアは彼らの遺した願いを携え、強い決意を面差しに宿す。そこに無邪気だった少女の姿はもう無い。