【学園の聖女が俺の隣で黒魔術をしています】  和泉 弐式/はなこ 電撃文庫

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青春に必要なのは、呪いなのかもしれない……!

なにが青春だ。どいつもこいつも、恋だの部活だの遊びだの、楽しそうにしやがって。
俺には友達もいない。恋人もいない。部活にだって入ってない。青春なんて無縁だ。
だけど、それのなにが悪いんだ!?
そんなくだらないものをありがたがっている奴らも、俺を見下すような奴らも、全員くそだっ。

そう思っていた。彼女に出会うまでは。

誰もいない昇降口。壊れた下駄箱。汚れた階段。床が抜けそうな木張りの廊下。
そんな古びた旧校舎の三階の一番奥に、秘密の部屋があった。
黒い三角帽子とローブを身に着けた冥先輩は、床に魔方陣を描き、黒魔術で人を呪うことに余念がない。耳にかかる艷やかな髪をかきあげ、海のように澄んだ大きな瞳で、はにかみながら彼女は俺に言う。
「呪っちゃうからね」
空が青く澄みわたり、桜舞う春。
入学したばかりの高校で出会った彼女の笑顔を、大人になった今も俺は忘れられない。

聖女と崇められる先輩と出会ったことで、かけがえのない青春を送ることになる、ある高校生の物語――。


いや、このあらすじみたいな攻撃的陰キャじゃないですよ、主人公!?
「空気のように生きること」を信条としているように、その心には熱を宿さないようにしている青年である。冷めた男の子というべきか、穏やかな男の子というべきか。
なんであらすじだけこんな荒ぶってるの!? いや、こんな風に荒ぶるシーンはあるんですけれど、あれって演技であって彼の本質とは程遠い振る舞いであったんですよね。少なくとも、他人に対して攻撃的な感情を抱いているほど興味関心はなかったように思える。
息をひそめるように他人の目に止まらないように、意識されないように、空気のようにひっそりと存在する主人公、それが上賀茂京四郎だったのであります。
……空気のように生きるには、ずいぶん目立つ名前だと思いません!?
そう、彼の信条とは裏腹に、むしろこの男、本質的には目立ちまくる性質の持ち主なんじゃないだろうか、という疑いを抱いてしまうような所が色々と散見されるんですよね。
決して、その生き方みたいな内向的とか人見知りとかコミュ障とかいうタイプじゃないんですよ。
正直、めちゃくちゃ面白い主人公だぞ、京四郎くん。
いや、面白いポイントは色々とあるんですけれど、彼って信条である空気のように生きる、という在り方にはある程度成功してるんですよ。でも、それってどうにも普通じゃないんですよね。
上賀茂京四郎って、名前だけ見てもそれだけで印象深くて自己紹介で名前告げただけでもずっと覚えてそうじゃないですか。それなのに、クラスの誰も彼の名前も顔も覚えていない。それどころか、新クラスの自己紹介どころじゃない目立ったことを入学式でしているのに、学校で殆ど誰も彼のことを覚えても認識すらもしていなかったのである。
ダブルヒロインの片割れである氷堂凛が、どうして京四郎に怨念を抱くようになったかの原因が発覚したとき、凛の方の都合にもひっくり返りましたけど、それ以上に京四郎がやってた事を知ってぶっとんでしまいましたがな。
あんた、目立ちたくないとか言っといて入学式という初っ端も初っ端で学校で一番目立つことしてるのナンナの!? それでいて、ガチで誰も、どうやら先生方の方も殆ど彼のことを覚えていないんですよね。
……いや、ありえるの!? それは存在感が薄いとかそういうレベルじゃないよ!? 
そして、この男、人との関わりを断っているわりに話術に長けてるし、全然知らない相手に話しかけることに物怖じもなにもしないんですよね。さらっと知らない相手に話しかけて、聞きたいことを聞き出すのである。それでいて、話しかけられた相手はあれ?こいつ誰だっけ? と話し終えたあとも京四郎のことがわからないですし、すぐに興味をなくして忘れちゃうんですね。
……認識阻害とか存在隠蔽とかの魔術でもかけてない!? 忍者!? 忍者なのか、こいつ!?
いやマジでここまで来ると異能力か超能力か忍術か、というくらいの得意能力に見えるんですよね、彼の人から認識されにくい存在感って。
ちなみに、家族は普通の一般的な愉快な人達である。
何気にこの京四郎くん、空気のように生きたい、というのを信条を通り越してそう在ろうとする事に夢中になって熱中して磨き上げる技能にしてしまってるんじゃないだろうか。
なんかもう、完全にスパイ向きの人間になってるんですけど!?

そんな存在迷彩をかけているはずの京四郎くんに、なんでか「呪わせてっ!」と絡んできたのが、この学校で聖女などと言われて人気を集める沙倉冥という先輩だったのである。
この先輩がむちゃくちゃ可愛いんだ! 聖女というと清楚で優しくて神秘的でというイメージになりがちだろうけれど、この先輩と来たらちっちゃくて賑やかで活発で、天真爛漫とした小動物めいた可愛い少女だったのある。
おまけにぼくっ娘である!  胸も大きい!
この主人公たちの通う学校はミッション系の学校であると同時に、冥先輩の家が学校とも関わりの深い教会の神父の家というのも大きいんですけどね、それに聖女と呼ばれるのも納得の姿は終盤に見せてくれるのですけれど、基本的に無邪気でかわいい、ほんとかわいいヒロインなのである。
……かわいい。

そしてもうひとりが学校きっての天才少女。そしてデータを重視しあらゆる物事から確率を導き出して、「◎◎になる可能性98%」などとメガネを光らせながら感情薄く指摘してくるのが同級生の氷堂凛というヒロインだったのである。
めっちゃ、データがばがばなんですけどね! 確率の導き出し方に主観と感情入りまくってて、正確性皆無なんですけどね! 無表情無感情クール系で孤高を保って他人を寄せ付けていませんけれど、単純に感情を表に出すのが超下手くそなだけで、めっちゃ感情豊かな少女なのである。おまけにチョロい! 天才(笑)である。ちょっと面白すぎるぞ、この子。

過去に空気を読まずに虐められている子を助けて、人間の悪意を嫌というほど浴びせられ、それ以来人に認識されず意識されず、空気のようにあることで、人と関わることを避けるようになった上賀茂京四郎。なんか途中から目的が人と関わらない事からどれだけ空気のように生きられるか、気配を殺して存在を消せるか、という技術方面にスライドしてしまったような気がしないでもないけれど、とりあえず高校でもひっそりと誰にも覚えられる事なく3年間を過ごすつもりだった彼を、楽しい日常に引っ張り込み、秘密基地と呼ぶ空き教室で集まるようになった沙倉冥。そして黒魔術の最初の依頼者となり、その後メンバーに加わることになった氷堂凛。彼ら三人で作った秘密結社ぐりもわーるは、いつしか神様に言えない秘密や頼み事を解決してくれる謎の組織として、学生の間に密かに知れ渡っていく。

これ、物語としての構成もばっちりで、いきなり冒頭10年後からはじまるんですよ。そこで、京四郎くん、ダブルヒロインである沙倉冥と氷堂凛のどちらかにプロポーズをしようとしている場面から、この作品はスタートするのである。
ラブコメ作品としては、実に素晴らしい掴みじゃないですか。こうやってラブコメの究極のゴールを、スタート時点で示してくれるわけですからね。
そして、10年前に遡り、本編スタートした途端に初っ端でかましてくれる担任の鬼塚マリア先生の自己紹介。入学式直後ではじめて集まった教室で、お調子者のクラスメイトに促されて語ることになったマリア先生の高校時代の想い出が……ちょっと面白すぎて面白すぎて。それこそ聖母のように優しげで綺麗なハーフの美人先生の口から語られる、ギャップ在りすぎる高校生活。いや、これでこの作品絶対面白いわっ、てなりましたからね。
実際、面白かったわけですが。

三人でお悩み相談したり、巻き込まれたトラブル解決のために目立たないとは裏腹の大騒動を引き起こしたり、と青春真っ盛りと言わんばかりのお話も大変めちゃくちゃとっても面白かったわけですけれど、でもラブコメとしてはむしろここからがスタートなんですよね。
女性陣の乙女回路がギュンギュンと稼働しはじめたのは、この一巻のラストで京四郎が男を見せたその時から。芽生えた恋はもう走り始めている。いやあ、これもうこっからさらにおもしろくなってく事請け合いじゃないですか。
綺麗に一巻で終わっているとも言えますけれど、いや冒頭のプロポーズにつながるまでの恋模様がまだまだ全然なんですから綺麗じゃない綺麗じゃない。なので絶対続き出て欲しいです。
これまでも良作を送り出してきてくれた和泉 弐式先生ですけれど、直球の青春ラブコメも素晴らしかった。ほんと、シリーズ化してください。