【煤まみれの騎士 1】  美浜 ヨシヒコ/ fame 電撃の新文芸

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どこかに届くまで、この剣を振り続ける──魔力なき男が世界に抗う英雄譚!

知勇ともに優れた神童・ロルフは、十五歳の時に誰もが神から授かるはずの魔力を授からなかった。
彼の恵まれた人生は一転、男爵家を廃嫡、さらには幼馴染のエミリーとの婚約までも破棄され、騎士団では"煤まみれ"と罵られる地獄の日々が始まる。
しかし、それでもロルフは悲観せず、ただひたすら剣を振り続けた。
そうして磨き上げた剣技と膨大な知識、そして不屈の精神によって、彼は襲い掛かる様々な苦難を乗り越えていく──!
騎士とは何か。正しさとは何か。守るべきものとは何か。そして彼がやがて行き着く未来とは──。
神に棄てられた男の峻烈な生き様を描く、壮大な物語がいま始まる。

こ、この主人公、精神が鋼かよ!!
本来神とか世界とかからある年齢になったら授かるスキルとか恩恵とか魔法とかが与えられなかったり、芽生えたりしなかったり、で元の境遇から追放されてしまう、という展開の作品はいくつも見てきましたけれど、大体の子はパニックに陥り突然代わってしまった家族や周囲の態度に戸惑い絶望し、心傷つき悲嘆に暮れて、中には人格歪む子もいました。
そりゃそうですよね。そこまではっきりと手のひらを返されて平気な子供はいないでしょう。
……いましたよ、ここに。
いや、さすがに平気という事はないんでしょうけれど、自分に魔力が授けられなかったことを知った途端に、今後自分がどんな扱いを受けるか、どんな立ち場に貶められるか、それをロルフ少年15歳は正確に理解し、しかし取り乱すことなく粛々と受け入れるのである。無駄な抵抗や懇願は一切しないんですよね。ただ、さっさと見放した両親と違って、なおも慕ってくれる妹のフェリシアや、味方で居続けようとしてくれる元婚約者(とっとと婚約破棄された)エミリーの二人を悲しませてしまった事だけは申し訳なく思いながら。
でも、その心にはただひたすらに「騎士」になるという愚直という他ない夢であり信念が鉄の棒のように芯として通り揺らぐ事なく、ただそうあるためにすべてを貫いていくのである。

ちなみに、魔力がないと魔力を通した銀の鎧を身に着けた相手には、どれだけ攻撃しても薄いが絶対に破れない幕が張ってあるように、攻撃が通らないんですね。
どれだけの剛剣を振るおうと、素肌に剣をぶつけても一切衝撃も斬撃も通らない。それどころか、逆に跳ね返されてしまう始末。
それでもなお、彼はひたすら剣を振り、自らを鍛え続けるのである。何万、何百万、何千万と剣を振り続けるのである。
でも、絶対に本当に絶対に攻撃は通らないんですね。結局、この一巻ではかなりの長い年月が過ぎてロルフたちは大人になっていくのですが、結局彼の剣は一切魔力を突き破ることはなかった。
でもそれでもなお、彼は愚直に剣を振り続けるのである。彼はそれしか出来ない愚か者なのか、というとむしろエミリーからは剣を捨てて軍略家として自分を助けてくれないか、と願われるほどに、広く深い見識で戦場を見通し、政治を理解し、エミリーに助言するのである。実際、知謀だけで並ぶものはいないんじゃないか、というくらいなんですよね。軍略家、作戦家、前線指揮官、後方司令官、軍政家までこなせるんじゃないだろうか、という視野の広さと深さなんですよね。
これだけムキムキのくせに、筋肉バカじゃないのかよ! 
しかし、その魔力なしという立ち場は、神の恩恵を受けられなかったということで、神から見放された穢れものとして忌避され、見下される存在なんですね。従卒として騎士団に所属させてもらった事すら不思議に思えるほどの酷い扱いなのである。もはや人扱いされていない、と言っていいくらい。
そんな相手の言葉なんて、聞いてもらえるはずがなく。エミリーを通して意見するくらいで、彼は絶対に認められることも受け入れることもなかったのである。
ただ他よりも劣っている、というのではなく、神の恩恵を受けられなかった、というのが宗教的にも絶対に許容できない存在なのでしょう。でなければ、いくらなんでもここまで全否定され続けるわけがないですからね。
いくつかの実戦で、彼はエミリーと共に参戦し、ちょっと尋常じゃない功績をあげています。いや、なんで魔力ないのにあれで生きてるの!? というくらい無茶苦茶しましたからね。いや、まじでなんで生きてるの? 普通の人間なら、5,6回その場で死んでそうなんだけど。もっとか?
この男、素で肉体も鋼なんじゃないだろうか。ちょっと頑丈さが人間離れしてるんだが。なんなら魔力で保護されている人間や魔族たちよりもしぶといんじゃないの? 怪我こそしてるけれど、なんで怪我で済んでるの? という状況だったもんなあ。
しかし、その功績はやっぱり一切認められることなく、無視され彼は愚鈍で無能として扱われ続ける。エミリーが出世して、カリスマとして皆から認められながらも、その彼女が後ろ盾について味方で在り続けてなお、ですからね。彼を認めるのは本当にエミリーを含めて僅かな数人だけ。妹のフェリシアですら、しょっちゅうブレてしまいます。
これはもう、この世界における人間社会において、ロルフが受け入れる余地が一切ない、という他ないんじゃないだろうか。
ロルフはそれでもなお、夢であり憧れであり今となっては信念であり生き様でもある「騎士」というものに成ることを目指して、頑張り続けたわけですけれど。粛々と今の立ち場や境遇を受け入れ、どれだけ虐げられても、煤まみれと呼ばれて蔑まれても諦めずに突き進んできました。
でも、不平不満を抱かなくても、立ち場を喪ってしまった彼だからこそ、その立ち場から見えてくる世界というものがあります。そんな彼だからこそ、そして思慮深い彼だからこそ、自分が目指す騎士とは、単なる騎士という身分ではなく、騎士という生き様なんじゃないか、と考えてるようになっていくんですね。そうして何年も愚直に自分を貫いていく中で、実際に戦争に従軍することで、魔族と呼ばれる者たちと戦うことで、そしてこの窮屈な社会の構造の中でも必死に生きている人々にふれることで、彼なりの騎士像というものを見出していくのである。
でもそれは、既存の枠組みの中では絶対に認められないものだった。ロルフそのものが、社会から弾かれているのもありますしね。
そして、常に味方であろうとしてくれるエミリーですけれど、彼女は自分の家を守るためにも今の社会の枠組みの中に収まり続けないといけない。その枠の中で生きていかないといけない。
そうなると、どうしてもロルフとは相容れない部分が出てきてしまう。心情ではロルフの味方をしたくても、立場として彼女はロルフを拒否する側の人間でないといけないのだ。それでも、その枠組みの中で彼女は必死にロルフを守ろうとするのだけれど、今の彼女に守られるということは彼の目指す騎士は死ぬんですね。
決別は、必然だったのかもしれない。
タイミングも悪すぎたんですね。自分と婚約破棄したために、彼女が新たな婚約者と結ばれることになったとき、色んな意味でエミリーは彼女が知らないところでピンチになっていたのだけれど、それを救うためにはロルフは盛大に枠組みからはみ出ないといけなかったし、それをエミリーにも周囲にも知られるわけにはいかなかった。
彼がエミリーを守るためにつかなければならなかった嘘が、必死にロルフを信じようとするエミリーに疑念を植え付けてしまう形になったのは、残酷以外のなにものでもなかったのでしょう。それでもなお、自分の出来る範囲でロルフを守ろうとしたエミリーの手を、自分の信じる騎士像のためにロルフが振り払うことになってしまったのも、無惨というほかない。
二人とも悪いわけじゃないすれ違いなのが辛いなあ。

あとがきによれば、ここからロルフによる痛快な活躍がはじまる、という事なのでそこは期待したいけれど、できればエミリーも笑顔になれるお話になってほしいものです。もう終始、エミリーの顔曇ってばっかりで、ずっと悲しそうにしたまま笑うこともなかったですからねえ。
なんか浮かれてでへでへしてるティセリウス団長が、うんアレだなあ、と思っちゃうくらいですしw
エミリー、ほんと苦労してるし心労抱えまくってるんですからね。報われてほしいですよ。