【幼馴染だった妻と高二の夏にタイムリープした。17歳の妻がやっぱりかわいい。】 kattern/にゅむ 富士見ファンタジア文庫

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知らなかった17歳の君に、また恋をする。

幼馴染と結婚し仕事は順調、貯金もそこそこ。平凡なリーマン鈴原篤は目が覚めると高校時代に戻っていた。妻といっしょに。

「見た目はJK、中身はあなたの人妻! 青春、やり直さない?」

そう――自意識をこじらせた陰キャだったせいで妻の千帆とは高校時代、絶交状態だった篤。
早速制服で平日の京都デートを満喫したり、一緒に登下校したり、バレー部のユニフォームを着た千帆と学校でイチャイチャしたり、あの時出来なかった恋人同士の時間を楽しむ二人。
知らなかった、知り得なかった17歳の彼女の素顔が愛おしい。
何度時が巡ろうと、あなたに恋をする。夫婦でやり直す共同タイムリープラブコメ、開幕!


タイムリープものである。
既に30をこえて社会人やってる主人公が、なんでか高校生の頃に自分に戻ってしまう話。なんていうと、まあ珍しくないのかもしれないけれど、本作が希少なのはタイムリープするのが主人公当人だけではなく、結婚している妻と一緒に過去に戻ってしまった、というところだろう。
でも一人じゃなく複数人でタイムリープ、というのも珍しくはあっても唯一ではない。講談社ラノベ文庫から、つい先月あたりに同じく元クラスメイトだった嫁と一緒に高校時代に戻ってしまう、という作品がありました(未読だが)。
でも、その作品では元々夫婦関係は最悪になってて離婚寸前だったのが、青春時代に戻って再びお互いの良いところを見つけることで関係が修復されていく、って話だったのですけれど……。

本作のご夫婦、結婚してからそれなりに経つのに今も新婚さながらのラブラブ夫婦。最近はそろそろ子供もこさえようか、なんて話あってて、仕事も順調。仲の良い友人もそろそろ結婚の話が持ち上がっていて、彼ら夫婦には結婚式の挨拶をしてくれ、なんて話が持ち込まれている。
うん、どこからどうみても幸せ一直線の、何の不満も危機もない、戻ってやり直さなきゃならない過去なんてないはずの満たされた状況からの、過去への回帰である。
タイムリープってのは、大まかに言えばバッドエンドとなっている状況を一発逆転やり直すことが主だった目的になっているシチュエーションである。既に満了のハッピーエンド状態にも関わらず、もういっぺんやり直せ、という展開はさすがに見た覚えがない。

とはいえ、過去に瑕疵が一切ないかというと、そんなことはなく。この夫婦、高校時代は故あって絶縁状態だったんですね。
ごくごく軽いラブコメとしての観点から見るなら、既に夫婦同然どころか夫婦十年近くやってました、なカップルがもう一度暗黒だった高校生活を楽しくやり直してただでさえ100点だった人生を120点満点にしてしまおう、なんて展開なのかな、と思ったんですよね。

……んん? なんか違うぞ?

ともあれ、主人公の鈴原篤がタイムリープした直後は早く元の時代に何事もなく戻りたい、と思うのはまあ当然と言えば当然だと思うんですよね。下手に歴史を変えてしまうと、幸せだった未来とはぜんぜん違う未来にたどり着いてしまうかもしれない。正史ですでに十分幸せだったのに、もし不用意な行動で何かが致命的に変わってしまったら。自分たちのことだけでなく、親友たちの未来までおかしな形に変わってしまったら、というのはなかなか怖いですよ。
ところが、奥さんの千帆は考えが違う。彼女は存分にこの時代を改めて楽しんでしまおうとしている。
ちなみに、この千帆さん。17歳バージョンと31歳バージョンが殆ど変わってない気がするんですけど!? 他の登場人物があらかた子供からちゃんと大人びた姿になっているのに対して、千帆だけ17歳の段階で色気がヤバいんですけど!? 背も高くてムチムチだし顔つきも年不相応に艶っぽいし。
「見た目はJK。中身はあなたの人妻!」とか言ってるけど、見た目も既に人妻じゃね!?

現役で大人大人しているご夫婦が、若さが猛ってる高校生なんかに戻ってしまって、これ我慢できるの!? 無理でしょう? 無理です(断言)。
夫婦同然とリアル夫婦には、やっぱり何だかんだと隔絶した差があると思うんですよね。だからこそ、この改めて繰り返す新しい高校生活に混ざり込んだリアル夫婦が、色々仕出かしながら周りをドン引きさせるくらいイチャイチャするラブコメ、なのかと思ったのですが……。

んん。やっぱりなんか違うぞ?

そう、違うのである。そういう話ではなかったのである。かと言って、そもそも変えなきゃいけない過去があるわけではない……と思っているのはまあ主人公だけだったのですけれど。
千帆の方は色々と思う所あったわけだ。
そう、どれほどラブラブで何でも知っている幼馴染同士でも、実際には秘密も在り隠している真実があり、気づこうともしない事実があったりする。長い付き合いの親友だって、今もなお親密にしている後輩の女性だって、知らないことは山ほどあった。
それを目の当たりにするのが、この過去でもあったわけだ。

ただ、この主人公の篤がそもそも節穴の目の持ち主だったとも言えるのですけれど。なんども鈍感鈍感と罵られる彼ですけれど、自分から言わせて貰うと彼のそれは鈍感を通り越して無神経なんじゃないのかしら。
本来なら触れてはならない部分、逆に触れなきゃいけない部分、ちゃんと自分で見て知らなきゃいけない部分を、本当に無造作に無視して、逆鱗を踏み抜いていく。
それはやっちゃいけない事だろう!? ということを平然とやってしまい、言ってはならない事を口にして、言ってはならない言い方をしてしまう。
いやこれ、人によっては絶対に許してもらえない事もあったと思うんですけれど。千帆があの程度の激怒で済んでいるのは、彼女が幼少の頃から彼と身近に接してきて順応或いは適応? そういうものだと最初から慣らされている人間だから、というのが大きいんじゃないでしょうか。
それでも、一度高校三年間絶縁していたという過去もあるわけですし。
ガチギレした後輩の相沢の憤怒は、あれはすごく妥当だと思う。ガチギレしていながら後で許してくれる彼女は、非常に大らかで器が広いと思う。だから、なあなあで済まされて人生踏み外しちゃうんだよ、とも思うのだけれど。

ともあれ、話の筋立てである。ラブコメラブコメするのかと思ったら、そういった方向には進まず。ならば、やり直すべき過去を見つけるある種のミステリーというか謎解きみたいな話になるのかと思ったら、その辺もはっきりとせずになんだかなあなあで進んでしまうんですね。
挙げ句に、なんかあっさりと篤の千帆への気持ちまでグラグラとゆらぎだして、ふらふらしだす始末。
話の主筋自体が曖昧模糊になって、何を目的とした話なのか全体的に中途半端になってしまった気がします。
つまり、どういう話だったんだ、これ? という印象に。
後輩の相沢との関係が結局鍵になるのはなるんですけれど、回答編というには物語としてのシャンとした鮮明な答えが出てなかった気がするなあ。タイムリープする条件はわかったにしても。
素材というか材料というか、それ自体は非常に良かっただけに味付けが薄くなってしまって何の料理かわからなくなってしまった感があるのは、もったいない感じでした。
これで完結してるっぽくもあるのですけれど、次回があるならリアルの夫婦ならではの何かと、それが高校生カップルやるが故の面白さを見たいですねえ。